気候モデルは海水も熱過ぎる

Gudella/iStock
過去の気温上昇について、気候モデルは観測に比べて過大評価していることは何回か以前に書いた(例えば拙著をご覧頂きたい)。
今回は、じつは海水温も、気候モデルでは熱くなりすぎていることを紹介する。
海水温は、気候システムに余分なエネルギーがどれだけ蓄積しているかを見るための良いモノサシになる。
図1は、元NASAで地球温暖化の観測の第一人者であるロイ・スペンサーが作成したもの。
13個の異なる気候モデルを用いた68本のシミュレーション計算結果について、1979年以降の月ごとの地球の大部分(北緯60度から南緯60度まで)の平均海面水温の変化を示している。
1979年以来の42年間の観測(太い黒線)を見ると、平均的な気候モデルが示すよりも、現実には遥かにゆっくりとしか海面水温は上昇していないことが分かる。

図1 海面水温の変化。68のシミュレーションと観測値(ERSSTv5データセット)の比較。
この1979年以降の温度の変化について、より正確に比較するために、水温上昇の傾向を線形回帰計算で求めて、スペンサーは図2を示している。
水色で示されたERSSTv5とHadSST3というのは、海面水温(Sea Surface Temperature, SST)のデータセットである。この2つの観測データセットは世界で最もよく頻繁に用いられているものだ。
図から、この2つの観測データセットにおける水温上昇の速さ(図中縦軸は10年あたり℃)は0.12から0.13に過ぎないのに対して、ほとんどのシミュレーションは0.25を超えている。現実の水面温度の上昇は、シミュレーションの半分程度しか無かったことが分かる。

図2 水面の温度上昇速さ。68本のシミュレーションおよび2つの観測データセットの比較。
つまりシミュレーションのほとんどは、過去の水温上昇を現実の2倍もあったと計算している。
このようなシミュレーションを用いて将来の水温上昇を計算し、大雨や台風が増えたり強くなったりすると主張する論文やメディアは多い。結果は鵜呑みにせず、よくよく注意が必要だ。

関連記事
-
昨年の震災を機に、発電コストに関する議論が喧(かまびす)しい。昨年12月、内閣府エネルギー・環境会議のコスト等検証委員会が、原子力発電の発電原価を見直したことは既に紹介済み(記事)であるが、ここで重要なのは、全ての電源について「発電に伴い発生するコスト」を公平に評価して、同一テーブル上で比較することである。
-
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 IPCC報告では、産業革命が始まる1850年ごろまでは、
-
ショルツ独首相(SPD)とハーベック経済・気候保護大臣(緑の党)が、経済界の人間をごっそり引き連れてカナダへ飛び、8月22日、水素プロジェクトについての協定を取り交わした。2025年より、カナダからドイツへ液化水素を輸出
-
原子力規制委員会は、日本原電敦賀2号機について「重要施設の直下に活断層がある」との「有識者調査」の最終評価書を受け取った。敦賀2号機については、これで運転再開の可能性はなくなり、廃炉が決まった。しかしこの有識者会合なるものは単なるアドバイザーであり、この評価書には法的拘束力がない。
-
「ブラックアウト・ニュース」はドイツの匿名の技術者たちがドイツの脱炭素政策である「エネルギーヴェンデ(転換)」を経済自滅的であるとして批判しているニュースレター(ドイツ語、一部英語、無料)だ。 そのブラックアウト・ニュー
-
東京電力福島第一原子力発電所の事故から早2年が過ぎようとしている。私は、原子力関連の会社に籍を置いた人間でもあり、事故当時は本当に心を痛めTVにかじりついていたことを思い出す。
-
今回は気候モデルのマニア向け。 気候モデルによる気温上昇の計算は結果を見ながらパラメーターをいじっており米国を代表する科学者のクーニンに「捏造」だと批判されていることは以前に述べた。 以下はその具体的なところを紹介する。
-
アゴラ研究所の運営するエネルギー研究機関のGEPRはサイトを更新しました。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間