IPCC報告の論点④:海はモデル計算以上にCO2を吸収する

2021年09月13日 07:00
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。

IakovKalinin/iStock

人間が化石燃料の燃焼などで放出したCO2のうち、約半分は大気に留まるが、残り半分は森林などの陸上植生と海洋に吸収されている。

IPCC報告では、この陸と海での除去、つまり「吸収源」は、CO2排出量の増加にほぼ比例して増加しており、2010年から2019年の間に排出量の31%(陸)と23%(海)を吸収している。両者を足すと54%になる。

ということは、大気中のCO2濃度を安定化させるためには、人類はCO2排出を半減させればよいのであって、ゼロにする必要は無い。

化学平衡で考えれば、産業革命前に280ppmだったCO2濃度が、いま410ppmになっている。この差がある限り、陸上にも海にもCO2は吸収され続ける。だから吸収された分だけは人間が排出しても、濃度は増えないことになる。

だから吸収量の予測というのは、とても重要な意味を持つのだが、今回のIPCC報告で、モデルによる計算値と観測値が、過去、大きく異なっていたことが指摘されている

図はIPCC報告のFig.5.8である。縦軸が海によるCO2の吸収量。単位が年間PgC(ペタグラム炭素)となっているが、これは年間GtC(ギガトン炭素)のこと。モデル計算値(黒)観測値(青)が比較されている(共に細いのは幾つかの推計であり太い線がその平均)。

モデル計算値と観測値の平均同士を比べると大きく異なる。差は図中で1程度まで開いており、CO2に換算すると毎年3.7GtCO2となる(CO2とCの分子量の比が3.7だから)。これは日本の年間CO2排出量の約3倍、世界のCO2排出量の約10分の1に当たる。

モデルは海のCO2吸収能力を大きく過小評価してきた訳だ。だとすると、将来のCO2吸収についてもやはり大きく過小評価になっていると推測される。

今後もCO2濃度が上昇するにつれて海のCO2吸収が増えてゆくということであれば、CO2濃度を安定化させるために人類が減らさねばならないCO2の量は少なくなってゆく。CO2を減らすための莫大な経済負担を考えれば、これは大変な朗報だ。

海には、大小さまざまな海流や渦が入り乱れている上、多彩な生物も住んでいて、複雑な過程になっていることは、大気や陸上と何ら変わらない。

モデルによる予測を信じる前に、それが過去をどのぐらい再現出来ているかよく検証しなければいけない。

1つの報告書が出たということは、議論の終わりではなく、始まりに過ぎない。次回以降も、あれこれ論点を取り上げてゆこう。

次回:「IPCC報告の論点⑤」に続く

【関連記事】
IPCC報告の論点①:不吉な被害予測はゴミ箱行きに
IPCC報告の論点②:太陽活動の変化は無視できない
IPCC報告の論点③:熱すぎるモデル予測はゴミ箱行きに
IPCC報告の論点④:海はモデル計算以上にCO2を吸収する
IPCC報告の論点⑤:山火事で昔は寒かったのではないか
IPCC報告の論点⑥:温暖化で大雨は激甚化していない
IPCC報告の論点⑦:大雨は過去の再現も出来ていない
IPCC報告の論点⑧:大雨の増減は場所によりけり
IPCC報告の論点⑨:公害対策で日射が増えて雨も増えた
IPCC報告の論点⑩:猛暑増大以上に酷寒減少という朗報
IPCC報告の論点⑪:モデルは北極も南極も熱すぎる
IPCC報告の論点⑫:モデルは大気の気温が熱すぎる
IPCC報告の論点⑬:モデルはアフリカの旱魃を再現できない
IPCC報告の論点⑭:モデルはエルニーニョが長すぎる
IPCC報告の論点⑮:100年規模の気候変動を再現できない
IPCC報告の論点⑯:京都の桜が早く咲く理由は何か
IPCC報告の論点⑰:脱炭素で海面上昇はあまり減らない
IPCC報告の論点⑱:気温は本当に上がるのだろうか
IPCC報告の論点⑲:僅かに気温が上がって問題があるか?
IPCC報告の論点⑳:人類は滅びず温暖化で寿命が伸びた
IPCC報告の論点㉑:書きぶりは怖ろしげだが実態は違う
IPCC報告の論点㉒:ハリケーンが温暖化で激甚化はウソ
IPCC報告の論点㉓: ホッケースティックはやはり嘘だ
IPCC報告の論点㉔:地域の気候は大きく変化してきた
IPCC報告の論点㉕:日本の気候は大きく変化してきた

クリックするとリンクに飛びます。

「脱炭素」は嘘だらけ

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 国内の原発54基のうち、唯一稼働している北海道電力泊原発3号機が5月5日深夜に発電を停止し、日本は42年ぶりに稼動原発ゼロの状態になりました。これは原発の再稼動が困難になっているためです。
  • アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンク、GEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。 今週のアップデート 1)日本変革の希望、メタンハイドレートへの夢(上)-青山繁晴氏 2)
  • 世耕経産相は「EV(電気自動車)の潮流は拡大してきているが、いきなりEVにいけるわけでもない」と述べ、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)などいろいろな次世代自動車がある中で「戦略的によく考えて中長期
  • 「生物多様性オフセット」COP15で注目 懸念も: 日本経済新聞 生物多様性オフセットは、別名「バイオクレジット」としても知られる。開発で失われる生物多様性を別の場所で再生・復元し、生態系への負の影響を相殺しようとする試
  • NHK
    NHK 6月29日公開。再生可能エネルギー(再エネ)の太陽光発電が増え、買い取り費用が膨らんでいることで、私たちの負担がいま急増しています。
  • 痛ましい事故が発生しました。 風力発電のブレード落下で死亡事故:原発報道とのあまりの違いに疑問の声 2日午前10時15分ごろ、秋田市の新屋海浜公園近くで、風力発電のプロペラ(ブレード)が落下し、男性が頭を負傷して倒れてい
  • 去る4月22日から経済産業省の第13回再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会において、「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(いわゆるFIT法)の改正議論が始まった。5月3
  • 4月3日は、台風並みの暴風雨が全国的に吹き荒れた。交通機関などの混乱にとどまらず、全国で死者3人、けが人は300人を超える被害を引き起こしている。東京電力のウェブサイトによれば、23時現在、同社サービスエリア内で約2100軒が停電中という。電気が止まってしまったご家庭はさぞ心細い思いをされているだろうと心配しつつ、同時に、嵐の中で必死に復旧作業にあたっているであろう、かつての同僚の顔が目に浮かぶ。私は昨年末まで同社に勤めていた。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑