IPCC報告の論点⑧:大雨の増減は場所によりけり
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。

BarrySheene/iStock
以前、「IPCC報告の論点⑥」で、IPCCは「温暖化で大雨は増えたとは言えない」としていることを紹介した。
今回は少し詳しくデータを見てみよう。
図は、世界中の観測所で、過去の大雨の傾向について観測した結果である。ここで大雨の傾向の指標としては、「年間で最も雨量が多かった1日の雨量」を採用している。観測期間は1950年から2018年の間である。
(b)でpositive trendsとあるのはその雨量が増大傾向にあった地点である。統計的に有意な増加があったのが663地点、増加があったが統計的に有意ではないのが4146地点となっている。
(c)でnegative rendsとあるのはその雨量が減少傾向にあった地点である。統計的に有意な減少があったのが150地点、減少があったが統計的に有意ではないのが2334地点となっている。
(a)は(b)(c)のデータをまとめて分析したもの。(b)(c)で有意な傾向があった地点を、全地点に占める割合で示している。左から、地球全体、アジア、アフリカ、欧州、北米、南米、オーストラリアとなっている。
緑が有意に増加した地点の割合で、地球全体では9%ぐらい。赤は有意に減少した地点の割合で地球全体では2%ぐらい。誤差幅が示してあるのは、その範囲であれば、有意と言っても偶然によって有意になっている可能性のある範囲である。
これを見ると、大雨の雨量が有意に増大している地点数は地球全体で9%ぐらいであり、だいたいの地域で傾向は同じになっている。他方で有意に減少している地点はあるが、どれも偶然で有意に出ただけかもしれない。
と、以上を見ると、有意に大雨が増大した地域が結構ある、ということになる。
ただし、地点ごとにみれば、どこでも雨量が増大しているわけはなく、減少しているところも結構多い。それに、有意に増大しているといえる地点は全体の1割以下しかない。
なおデータについては偏りがあり、アフリカ・南米・インドなどの広大な地域でデータがほとんどない(なぜか日本も無いように見えるが、いったいどうしたことか)。それから1950年からの長い時間にわたるデータなので、データの性質も本当は1つ1つ吟味が必要である。特に降雪量は測定方法の影響を受けやすい。また革命や内乱のあった国もあるが、データは確かなのだろうか。
以上のような課題はあるものの、大雨の雨量増大を観測した地点が結構あり、それがとくに北米や欧州には多いようだ。
ではこの原因は地球温暖化なのか? 次回、別のデータをお見せしよう。
■
1つの報告書が出たということは、議論の終わりではなく、始まりに過ぎない。次回以降も、あれこれ論点を取り上げてゆこう。
次回:「IPCC報告の論点⑨」に続く
【関連記事】
・IPCC報告の論点①:不吉な被害予測はゴミ箱行きに
・IPCC報告の論点②:太陽活動の変化は無視できない
・IPCC報告の論点③:熱すぎるモデル予測はゴミ箱行きに
・IPCC報告の論点④:海はモデル計算以上にCO2を吸収する
・IPCC報告の論点⑤:山火事で昔は寒かったのではないか
・IPCC報告の論点⑥:温暖化で大雨は激甚化していない
・IPCC報告の論点⑦:大雨は過去の再現も出来ていない
・IPCC報告の論点⑧:大雨の増減は場所によりけり
・IPCC報告の論点⑨:公害対策で日射が増えて雨も増えた
・IPCC報告の論点⑩:猛暑増大以上に酷寒減少という朗報
・IPCC報告の論点⑪:モデルは北極も南極も熱すぎる
・IPCC報告の論点⑫:モデルは大気の気温が熱すぎる
・IPCC報告の論点⑬:モデルはアフリカの旱魃を再現できない
・IPCC報告の論点⑭:モデルはエルニーニョが長すぎる
・IPCC報告の論点⑮:100年規模の気候変動を再現できない
・IPCC報告の論点⑯:京都の桜が早く咲く理由は何か
・IPCC報告の論点⑰:脱炭素で海面上昇はあまり減らない
・IPCC報告の論点⑱:気温は本当に上がるのだろうか
・IPCC報告の論点⑲:僅かに気温が上がって問題があるか?
・IPCC報告の論点⑳:人類は滅びず温暖化で寿命が伸びた
・IPCC報告の論点㉑:書きぶりは怖ろしげだが実態は違う
・IPCC報告の論点㉒:ハリケーンが温暖化で激甚化はウソ
・IPCC報告の論点㉓: ホッケースティックはやはり嘘だ
・IPCC報告の論点㉔:地域の気候は大きく変化してきた
・IPCC報告の論点㉕:日本の気候は大きく変化してきた
■

関連記事
-
筆者は「2023年はESGや脱炭素の終わりの始まり」と考えていますが、日本政府や産業界は逆の方向に走っています。このままでは2030年や2040年の世代が振り返った際に、2023年はグリーンウォッシュ元年だったと呼ばれる
-
はじめに トリチウム問題解決の鍵は風評被害対策である。問題になるのはトリチウムを放出する海で獲れる海産物の汚染である。地元が最も懸念しているのは8年半かけて復興しつつある漁業を風評被害で台無しにされることである。 その対
-
田中 雄三 国際エネルギー機関(IEA)が公表した、世界のCO2排出量を実質ゼロとするIEAロードマップ(以下IEA-NZEと略)は高い関心を集めています。しかし、必要なのは世界のロードマップではなく、日本のロードマップ
-
トヨタ自動車が、ようやく電気自動車(EV)に本腰を入れ始めた。今までも試作車はつくっており、技術は十分あるが、「トヨタ車として十分な品質が保証できない」という理由で消極的だった。それが今年の東京モーターショーでは次世代の
-
水素が「筋の悪い」エネルギーであり、経済性が成立する見込みはないことは、この連載でも松田智氏が何度も説得的に述べていた。 水素は失敗すると分かっているのに… 水素先進国が直面する種々の現実的困難と対応 vs. 日本の脳天
-
東京都知事選投票日の翌朝、テレビ取材のインタビューに小泉純一郎氏が晴れ晴れとして応えていた。この歳になってもやれると実感したと笑みをこぼしていた。なんだ、やっぱり寂しい老人の御遊びだったのか。インタビューの随所からそんな気配が読み取れた。
-
賛否の分かれる計画素案 本年12月17日に経産省は第7次エネルギー基本計画の素案を提示した。27日には温室効果ガス排出量を2035年までに60%、2040年までに73%(いずれも19年比)削減するとの地球温暖化基本計画が
-
企業で環境・CSR業務を担当している筆者は、様々な識者や専門家から「これからは若者たちがつくりあげるSDGs時代だ!」「脱炭素・カーボンニュートラルは未来を生きる次世代のためだ!」といった主張を見聞きしています。また、脱
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間