気候危機を煽るNHKはウソだらけ
元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智
先日、NHKのBS世界のドキュメンタリーで「地球温暖化はウソ?世論動かす“プロ”の暗躍」と言う番組が放送された。番組の概要にはこうある。
世界的な潮流に反してアメリカの保守派に支持される「地球温暖化懐疑論」。論客を雇って裏付けに乏しい説を一般に浸透させた複数の利益団体と、その手法を告発する調査報道。
80年代アメリカではNASAの科学者が温暖化ガスの深刻な影響を訴え、ブッシュ大統領はCO2削減を掲げた。しかし、温暖化に懐疑的な論客が次々とメディアに登場し、批判を繰り広げる。その裏には、CO2削減政策によって損失を被る石油業界によるキャンペーンがあった。懐疑派の立役者たちの生々しい証言でその実態を暴く。原題:The Campain Against the Climate/デンマーク・2020年。
要するに、お金をもらってウソ八百まき散らした悪い奴がいた、と言う告発番組である。

NHK BS世界のドキュメンタリーより
基本情報と番組の内容はこの通りだった。日本でも「地球温暖化の不都合な真実」(渡辺正 訳、日本評論社2019)として知られている本の著者マーク・モレノも出ていたので、筆者は驚いたものである。
番組によると、これら「温暖化懐疑論者」たちは皆、大手石油会社からお金をもらって、根拠の乏しい「温暖化懐疑論」をばらまいたと言うのだ。確かに、米国では共和党(保守層が主)が温暖化説に懐疑的、民主党(リベラル派が主)が温暖化対策に熱心な傾向はある。しかし、懐疑派が全員石油会社と癒着しているものだろうか?
米国では、物理学会でも温暖化仮説に対して賛否両論、激しい論争が繰り広げられたので、懐疑論だけが「根拠薄弱」と断定するのもどうかと思う。この物理学者たちも皆、石油会社からお金をもらっていたとでも?
日本では、まず考えられない事態と言える。筆者が4月に書いた論文で参考文献に挙げさせていただいた本の著者10名以上の方々は、およそ石油会社と癒着しているとは思われない。どちらかと言えば、世間の逆風に抗して、自らの考えを世に問うて来られた方々だと思う。
具体例を挙げれば、作家広瀬隆氏や物理学者槌田敦氏などは、学会その他からほとんど「迫害」に近い扱いを受けた事実がある。温暖化懐疑論者の大半は、少なくとも、石油会社からお金をもらってウハウハ暮らしているとは見えない。
日本でドキュメンタリー番組を作るなら、これら少数意見の発表者たちが、どれだけの「逆風」に晒されながら自らの考えを発表し続けたのかを描くべきだろう。日本では「真の発言の自由」は保障されているのか?と。
筆者自身、第一線を退いた隠居老人の一人に過ぎず、専門の応用微生物工学を活かして数社の技術顧問を引き受けてはいるが、石油会社とは何の関係もない。かつて学会発表で「日本の優れた石炭火力発電をもっと活用すべし」と主張したら、質疑の時「あんたは石炭業界からお金をもらっているんでは?」と言われて、そんな風にしか見られないのかと落胆した覚えがある。
論文にも書いたが、筆者の温暖化仮説への疑問は、純粋に科学的考察からのみ生じており、政治的な思惑は皆無である。むろん、お金儲けや世間を惑わすことなど目的としていない。名前や顔が売れることも真っ平ご免、このまま地方都市で誰にも邪魔されずひっそりと、何が正しいことであるかを考えながら発信しつつ暮らしたい(なお、筆者はSNSとも全く無縁である。正直に言って、SNSにつき合っているヒマはない。本を読む時間がなくなってしまう)。
それはともかく、この番組には例によって突っ込みどころが山ほどある。まず冒頭の「世界的な潮流に反して」であるが、温暖化仮説を声高に主張しているのは、欧米の数カ国と国連だけであって、決して世界中で一致して、ではない。
確かに、パリ協定は世界中の国々が賛成した。しかしそれは、各国がそれぞれ自国の利益になる胸算用を隠し持って賛成したのであって、本心から温暖化対策に取り組むと言っているわけではない。その証拠に、パリ協定を実質化する、つまり具体的にCO2を何トン減らすかとか、目標を達成できなければ罰金を払うか、とかの話は、全然進んでいない。
パリ協定は2015年12月採択、翌年11月に発効しているが、それから5年も経っているのに具体策はほとんど何もない。実際、パリ協定では2020年以降の新たな枠組みを作ることで合意していたが、その期限はすでに過ぎている。
今年11月に英国で開かれるCOP26では、2030年までの削減目標が議題となるそうだが、ここでも「目標」だけは定めるが、合意できるのはここまで、つまりファイティング・ポーズだけ示せれば良く、各国とも競って威勢の良い「削減目標」を提示するだろう。
しかしその実質は、先進国と途上国の間でカネよこせ、イヤだ・・の応酬であり、目標を達成できなかった時のペナルティなどは、決して決めることができないだろう。またまた「何年後かには決めようね!」で合意することになると、筆者は予想する。科学的根拠があるのなら、それに基づいて「あんたのところはCO2○○トン削減ね。これで○℃下がるから。守れなかったら罰金○○ドル(=削減に必要な経費相当額)ね。」と客観的に決めたら良さそうなものなのに。
この頃、筆者の気になっていることは、温暖化対策と言う言葉の使用頻度が下がり、気候変動とか気候危機と言った言葉が頻用されつつあることである。
先日のNHK地上波でも「地球まるわかり」という番組で「IPCC=気候変動に関する政府間パネルがまとめた最新の報告書で、地球温暖化は人間の活動が原因だと初めて断定。報告書を読み解きながら私たちにできることは何か考える」という内容を放送した。
これまた、突っ込みどころ満載で、人間活動が原因だと「科学的根拠に基づいて」断定したと言っておきながら、その科学的根拠なるものは一切示されなかった。気温変化のグラフも何やら怪しげで、19世紀後半から20世紀中盤までさしたる変化がなく、1970年代頃からほぼ一直線に気温が上昇しつつあるグラフだった。少なくとも、筆者が見なれている衛星観測データとは全然似ていなかった。観測データのうち、都合の良い部分だけ繋いで、思い通りのグラフを「ウソなく」作ることが出来る例である。
ここには、単純化と断言と言う、群集心理を操る常套手段が仕組まれていると筆者は見る(今月ドンピシャのタイミングでNHK ETVの「100分de名著」でやっている)。すなわち、まずは、温暖化が人間のせいであるという科学的根拠を示さずに「断言」する。次に、大雨や台風、干魃などの異常気象と温暖化を一直線に結びつける「単純化」で現象を説明する手法である。

Revolu7ion93/iStock
この番組は、まさにそうだった。温暖化で海水温が上がり、水分蒸発量が増えて大雨その他の異常気象が増える、正に気候危機が目の前に迫っていると結論づける。画面にはグレタ嬢が怖い顔をして現れ、気候変動どころか気候危機だ、破局が近いと言って脅かすのである。大抵の人はこれでビビる。
しかし、ここには大きな論理の飛躍がある。まず、大気温が上がっても海水温は容易に上昇しない(熱容量が1000倍以上違うから)。海水温上昇の原因は別にあると考えるのが科学である。その前に、地球の大気平均温度がそんなに上がっているのかを確認するのが先であり、その原因が本当に人為的なものなのか、よく確認する必要があるのだが。
さらに、大雨その他の災害が、最近急に増えたのかどうかも、よく調べる必要がある。これらについては、アゴラ・GEPRでも杉山氏が詳細に述べて下さっているから、参照していただきたいが、大気中CO2濃度の変化と「異常気象」を結びつける科学的証拠は見つかっていないのである。
例えば、日本上陸時940hPa以下の台風は、1993年を最後にそれ以後現在まで30年近く現れていない。これまでの観測史上最強の台風が上陸したのは、何と1934年である。
単純化(=論理の飛躍または短絡)と断言(=対話あるいは疑問の拒否)は、ともに科学的論理的思考の敵であり害毒である。これらに抗するには、ごく平凡な作業を続けるしかない。つまり、簡単に鵜呑みせず、良く見て、良く考える、これのみである。紙幅が尽きたので、続きはまた。
■
松田 智
2020年3月まで静岡大学工学部勤務、同月定年退官。専門は化学環境工学。主な研究分野は、応用微生物工学(生ゴミ処理など)、バイオマスなど再生可能エネルギー利用関連。

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