原発停止、負担10兆円の行方(上) — 新潟県泉田知事と東電の対立【言論アリーナ】

左から池田、石川、石井の各氏
アゴラ研究所は日本最大級のインターネット上の言論空間アゴラ、そしてエネルギーのバーチャルシンクタンクであるグローバルエナジー・ポリシーリサーチ(GEPR)を運営している。新しい取り組みとして、インターネット上で、識者が政策を語り合う映像コンテンツ「言論アリーナ」を提供している。その中で、月1回はエネルギー問題を取り上げている。
自民党が大勝した参議院選挙投開票直前の16日「再稼動の遅れ、アベノミクスの危機—原発停止、負担10兆円の行方」という放送を行った。
選挙では原発が、それほど大きな話題にならなかった。ところがエネルギー問題では、未解決の問題が山積している。原発の停止など喫緊に解決しなければならない問題が残っているのに、選挙前、自民党は野党が攻撃したにもかかわらず、エネルギー問題に沈黙を続け、手をつけなかった。「あえて繰り返し取り上げて、皆さんに考える材料を提供したい」と池田氏は強調した。
自民党以外、原発ゼロを目指す
パネリストは政策家として活躍する石川和男氏。GEPRの編集担当である記事筆者のジャーナリスト石井孝明も参加した。アゴラ研究所の池田信夫所長が司会を務めた。
まず石井は、エネルギーをめぐる現状の問題を整理した。選挙前の各党の原発政策は、ゼロを掲げる各党と、それを明言しない自民党で差がある以外は、どの党も早めのゼロを主張していた。(図表1・各政党の原発政策)
しかし「原発だけが論点なのでしょうか。他にもエネルギーをめぐる、決めなければならない問題がたくさんあります。そして、各問題との調整の中で原発を考えなければ、問題は混乱するだけでしょう」と石井は指摘した。
参議院選挙前は原発の停止による発電の能力の不足、そして価格上昇の対策が必要となった。そして参議院選挙後は、時間の区切られた政策課題がいくつもある。今年中のエネルギー基本計画の策定、2017年までに実施と公表してしまった電力自由化の制度設計を早急に決めなければならない。
また7月8日に、原子力規制委員会が新安全基準を発表。その日に5原発、10基の原発が稼動申請を行った。一連の委員会の規制が厳しすぎ、また電力会社との調整のないかたくなな姿勢が問題になっている。一方で、原発をめぐっては、放射性廃棄物の処理を早急な解決を求める人が多い。(図表2・当面のエネルギー問題)
再稼動の遅れが国民負担を広げる
7月8日の再稼動の焦点は、東京電力柏崎刈羽原発(新潟県柏崎市、同刈羽(かりわ)村)の動向であった。ところが東電は再稼動を見送った。原発の停止による燃料費の増加は1基当たり年1000億円になる。同原発では7基が止まったままだ。国営化して国に資金援助を受けている東電の経営がまた行き詰まりそうだ。そしてそれは税金で負担することになる。
7月6日に新潟県の泉田裕行知事が東電との対話を拒否して反対したことで、不可能になってしまった。石井は、東電、知事双方に問題があり、早急な双方の歩み寄りが必要であるということを訴えた。(図表3・東電柏崎刈羽原発再稼動をめぐる混迷)
また石井は、再稼動の遅れによる原発停止のコスト増も指摘した。最新推計で原発停止による代替燃料費、主に天然ガスの購入量は13年で3・8兆円になる見込みだ。(図表4・原発停止によるコスト増)11年から13年までの3年間で負担は9・6兆円になると見込まれる。各電力会社は原発の震災対策の補強工事も行っている。その金額は保有9社で約2兆円に達する見込みだ。代替の燃料費は日本ではなく、外国に流れることになる。(図表4・原発停止によるコスト増)
新潟県知事が政策を決められるのか
泉田知事は元経産官僚だ。実は池田氏は経済産業研究所、石川氏は経産省で、泉田氏と共に働いた経験がある。ところが役所の出身なのに、泉田氏は古巣の経産省との対話を拒否している。
「2007年の新潟県中越沖地震で、東電と資源エネルギーに対して安全対策をしっかり行っていない、正確な情報を伝えないという不信感があったようだ」と石川氏は指摘した。泉田知事は7月6日の東電との会見で事前連絡がなかったと批判した。
「資源エネルギー庁を取材すると、新潟県と東電、エネ庁が調整しても、知事が感情的になっており話を聞く雰囲気にないという。部長クラスで議論が止まってしまうようだ」と石井は述べた。こうした意思疎通の不足から「伝わらない」という感情論に陥ってしまったようだ。
「知事にも言い分はあるかもしれない。しかし権限のない知事が、一人で国策を変えていいのか」と出席者は一致した。ちなみに地方自治組織の首長の同意は原発稼動の権限はない。これまで不文律で、電力会社と経産省は原発の稼動前に知事や地元首長に事前に同意を求めてきた。
ところが福島原発事故後、原発に関して世論が厳しくなる中で、首長らの同意が大きな意味を持つようになった。「今、54基の原発のうち、52基が止まっている。中部電力浜岡原発のある静岡県の川勝平知事、関西電力の原発の多い福井県に隣接する滋賀県の嘉田由紀子知事などは、原発に批判的だ。新潟県で知事の関与の先例をつくれば、全国の原発で、いちいち県知事、首長が関与してしまう。再稼動まで何年もかかる」と池田氏は懸念した。
石川氏は「今回の混乱は、東電にやや同情してしまう。昨年末の当時の野田佳彦首相のように、首相が決断して調整する手間が必要になる。エネルギー政策が政治のおもちゃになりかねない」と述べた。
「原発停止負担10兆円の行方(下)— 経済の重荷を急ぎ解消せよ」に続く
(2013年7月22日掲載)
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