東京都の太陽光設置義務は誰の得?
6月24日、東京都の太陽光パネルの新築住宅への義務付け条例案に対するパブリックコメントが締め切られた。
CO2最大排出国、中国の動向
パリ協定は、「産業革命時からの気温上昇を1.5℃以内に抑える」ことを目標としており、CO2削減はそのための手段となっている。各国でCO2を削減し、最終的に地球全体で目標をクリアするということのようである。
そうすると、CO2排出量の多い国から削減して貰わなくてはならない。2020年のCO2排出量のランキングによれば、圧倒的に中国が多く、全体の約1/3を排出している。
中国:28.4%、米国:14.7%、インド:6.9%、ロシア:4.7%、日本:3.2%、ドイツ:2.1%、韓国:1.8%、アフリカ諸国:3.7%
中国には世界の製造強国を目指す「中国製造2025」があり、その後の「2030年カーボンピークアウト」、「中国2060年ネットゼロ」などがある。我が国及び主要国は「2050年ネットゼロ」を目指しているが、中国には10年間の猶予が与えられている。
中国のGDPは2005年当たりから急激に伸び2010年頃には日本を抜き米国に次ぐ2位になった。この成長のエンジンは石炭であり、今後も石炭が主要なエネルギー源であることに変わりがない。
最近では日本の先進火力発電技術(USC、IGCCなど)をまねた設備も出てきており、排出する煤塵、SOx、NOxなども少ないが、多くはそれ以前の技術である。従ってCO2を劇的に削減できない。削減してしまうと世界の製造強国など実現できないからだ。
太陽光や風力などの自然エネルギーを使って発電もしているが、北京や天津などの消費地に送電せずに捨ててしまう「棄電」の問題がクローズアップされている。国家能源局の統計(2016年)によれば、太陽光エネルギーを無駄にする「棄光」は西部エリアで平均20%に達したという。インフラや送電網の整備が遅れているためだ。
お隣の中国の動きを見ていると、日本が数百兆円という税金を投入して頑張ったところで、全体への影響はほとんどないのであり、ソーラーパネル設置の義務化の意味が問われることになる。
太陽光設置義務化は、誰の得?
① 第一に、東京都民の得となるのであろうか?
新たな住宅にソーラーパネルの設置を義務付ければ、住宅の値段が高くなる、「脱炭素など信じていない、東京の空気はきれいだし問題ない」だとか、九州電力で起きたような出力調整に起因する安定電力が損なわれるなどの理由で、不要だと考える都民も多いのではなかろうか。
FIT(買取制度)が始まった当初は、太陽光にはかなりの補助金が出たが、段々と減額され現在はそれほどでもない。資金回収年も当初よりも長期になっており、最近では15年程度とも言われている。
設置を推進するために、東京都がインセンティブなどと称して補助金制度を講じてくるとしたら、補助金の原資は都民の税金なので、こんな出鱈目はあるまい。
資金回収期間が長くなると、パネルや機器が劣化して、経済性も段々と悪くなることになり、都民にとっての得はなさそうである。
② 住宅メーカーの得となるのだろうか?
住宅メーカーには、日当たりや供給棟数を考慮したパネル設置の義務量を設定するとなっている。本来なら行う必要のない作業に人手をかけ、誰かが策定した評価基準と照らし合わせながらアセスメントをするのだろうか。その後の折衝も大変だろう。随分と余分な作業をすることになる。住宅メーカーの苦労が忍ばれる。
設置となれば、ソーラーパネルやパワーコンディショナーなど必要な機器を調達してということになる。当然、費用も建設費も高くなるであろうが、それを全て住宅価格に反映するわけにもいかないだろう。
ソーラーパネルを設置するということになれば、パネルのメーカーは注文が増え儲かる。現在中国がパネルメーカー10位までを占めており、シェアは80%程度だと言われている。
しかも、主に新疆ウイグルで製造されているといわれている。過酷な人権問題のある地区での製造である。そこから、輸入して日本で設置することになる。
③ 最後に、東京都の得となるのであろうか?
東京の生活環境は他の都市と比べても良いので、設置したところで、メリットを感じる人は少ないだろう。東京の景観上からも勧められない。
東京都でも気候変動を中心にSDGsが進められている。SDGsの基本は人権などの社会問題にあるようだが、ソーラーパネルと人権の二つを考えると、東京都の得にはなりそうにない。
結局、中国メーカーの得になることだけは確かなようだ。
東京都も、都民のオピニオンを真摯に受け止め、ソーラーパネル設置義務化の廃止を含めたより良い対応をしていただきたいものだ
関連記事
-
眞鍋叔郎氏がノーベル物理学賞を受賞した。祝賀ムードの中、すでに様々な意見が出ているが、あまり知られていないものを紹介しよう。 今回のノーベル物理学賞を猛烈に批判しているのはチェコ人の素粒子物理学者ルボシュ・モトルである。
-
少し前の話になるが2017年12月18日に資源エネルギー庁で「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」と題する委員会が開催された。この委員会は、いわゆる「日本版コネクト&マネージ」(後述)を中心に再生
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクであるGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPRはサイトを行進しました。
-
北朝鮮の1月の核実験、そして弾道ミサイルの開発実験がさまざまな波紋を広げている。その一つが韓国国内での核武装論の台頭だ。韓国は国際協定を破って核兵器の開発をした過去があり、日本に対して慰安婦問題を始めさまざまな問題で強硬な姿勢をとり続ける。その核は実現すれば当然、北だけではなく、南の日本にも向けられるだろう。この議論が力を持つ前に、問題の存在を認識し、早期に取り除いていかなければならない。
-
今回は、最近日本語では滅多にお目にかからない、エネルギー問題を真正面から直視した論文を紹介する。 原題は「燃焼やエンジン燃焼の研究は終わりなのか?終わらせるべきなのか?」、著者はGautam Kalghatgi博士、英国
-
4月13日 ロイター。講演の中で橘川教授は「日本のエネルギー政策を決めているのは首相官邸で、次の選挙のことだけを考えている」と表明。その結果、長期的視点にたったエネルギー政策の行方について、深い議論が行われていないとの見解を示した。
-
原子力発電に関する議論が続いています。読者の皆さまが、原子力問題を考えるための材料を紹介します。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間