IPCC報告の論点⑲:僅かに気温が上がって問題があるか?

2021年10月02日 07:00
杉山 大志
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。

towfiqu ahamed/iStock

正直言ってこれまでの報告とあまり変わり映えのしない今回のIPCC報告だが、下記の表(Table SPM.1)は初見参だった。

これを見ると、今後、排出量がどうなろうとも、2021年から2040年の間に1.5℃になる。

1.5℃が世界の終わりだと信じている人にはショックであろう。

しかし前回の図1を見ると2020年にすでに1.26℃だった。

だが大雨も強くなっていないし(連載⑥)、台風も強くなっていない。地球温暖化による災害の激甚化など何も起きていない(拙著「地球温暖化のファクトフルネス」)。

あと僅か0.24℃上がって1.5℃になったらいきなり破局になるとは到底思えない。

では今世紀末はどうか。2081年から2100年の気温上昇は、表の最下段SSP5-8.5シナリオだと4.4℃となっている。だがこのシナリオの排出量は非現実的で多すぎることは以前の記事で述べた。ここでは図だけ再掲しておこう:

この図を見ると、2019年時点の政策を特段深堀しなくても、世界の排出量はSSP2-4.5(図中の赤い線)に概ね沿って推移すると複数の機関(米国エネルギー省EIA、国際エネルギー機関IEA、BP社、ExxonMobil社)が予測している。改めて表を見ると、ならば気温上昇は2.7℃となっている。

2020年に1.26℃だったところ、あと1.44℃高くなるということだ。

あと1.44℃という、これまでと同じ程度の気温上昇で、いきなり破局的な事が起きるとも思い難い。何しろ、これまで何も災害の激甚化など無かったのだから。

なお付言すると、表は気候モデルの計算に主に基づいた予測である。だが連載③及び連載⑫で述べた様に気候モデルはその大半が過去の大気(対流圏)の気温上昇を過大評価しているなど、課題が多い。この表の数字も気温上昇を過大に推計している可能性が高いと思われる。

1つの報告書が出たということは、議論の終わりではなく、始まりに過ぎない。次回以降も、あれこれ論点を取り上げてゆこう。

次回:「IPCC報告の論点⑳」に続く

【関連記事】
IPCC報告の論点①:不吉な被害予測はゴミ箱行きに
IPCC報告の論点②:太陽活動の変化は無視できない
IPCC報告の論点③:熱すぎるモデル予測はゴミ箱行きに
IPCC報告の論点④:海はモデル計算以上にCO2を吸収する
IPCC報告の論点⑤:山火事で昔は寒かったのではないか
IPCC報告の論点⑥:温暖化で大雨は激甚化していない
IPCC報告の論点⑦:大雨は過去の再現も出来ていない
IPCC報告の論点⑧:大雨の増減は場所によりけり
IPCC報告の論点⑨:公害対策で日射が増えて雨も増えた
IPCC報告の論点⑩:猛暑増大以上に酷寒減少という朗報
IPCC報告の論点⑪:モデルは北極も南極も熱すぎる
IPCC報告の論点⑫:モデルは大気の気温が熱すぎる
IPCC報告の論点⑬:モデルはアフリカの旱魃を再現できない
IPCC報告の論点⑭:モデルはエルニーニョが長すぎる
IPCC報告の論点⑮:100年規模の気候変動を再現できない
IPCC報告の論点⑯:京都の桜が早く咲く理由は何か
IPCC報告の論点⑰:脱炭素で海面上昇はあまり減らない
IPCC報告の論点⑱:気温は本当に上がるのだろうか
IPCC報告の論点⑲:僅かに気温が上がって問題があるか?
IPCC報告の論点⑳:人類は滅びず温暖化で寿命が伸びた
IPCC報告の論点㉑:書きぶりは怖ろしげだが実態は違う
IPCC報告の論点㉒:ハリケーンが温暖化で激甚化はウソ
IPCC報告の論点㉓: ホッケースティックはやはり嘘だ
IPCC報告の論点㉔:地域の気候は大きく変化してきた
IPCC報告の論点㉕:日本の気候は大きく変化してきた

クリックするとリンクに飛びます。

「脱炭素」は嘘だらけ

 

This page as PDF
杉山 大志
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 原子力を題材にしたドキュメンタリー映画「パンドラの約束(Pandora’s Promise)」を紹介したい。かつて原子力に対して批判的な立場を取った米英の環境派知識人たちが、賛成に転じた軌跡を追っている。
  • 現在の日本のエネルギー政策では、エネルギー基本計画(2014年4月)により「原発依存度は、省エネルギー・再生可能エネルギーの導入や火力発電所の効率化などにより、可能な限り低減させる」こととなり、電力事業者は今後、原発の新増設が難しくなりました。原発の再稼動反対と廃止を訴える人も増えました。このままでは2030年以降にベースロード電源の設備容量が僅少になり、電力の供給が不安定になることが懸念されます。
  • 電気が足りません。 電力緊急事態 理由その1 寒波による電力需要増大 理由は二つ。 まず寒波で電力需要が伸びていること。この寒さですし、日本海側は雪が積もり、太陽光の多くが何日間も(何週間も)“戦力外”です。 こうしたk
  • 国際環境経済研究所(IEEI)版 新型コロナウイルスの緊急事態宣言が7都府県に発令されてから、およそ3週間が経ちました。様々な自粛要請がなされる中、宣言の解除予定である5月を心待ちにされている方もいらっしゃると思います。
  • ニューヨーク・タイムズ
    6月30日記事。環境研究者のマイケル・シェレンベルガー氏の寄稿。ディアプロ・キャニオン原発の閉鎖で、化石燃料の消費が拡大するという指摘だ。原題「How Not to Deal With Climate Change」。
  • GEPRの運営母体であるアゴラ研究所は映像コンテンツである「アゴラチャンネル」を提供しています。4月12日、国際環境経済研究所(IEEI)理事・主席研究員の竹内純子(たけうち・すみこ)さんを招き、アゴラ研究所の池田信夫所長との対談「忘れてはいませんか?温暖化問題--何も決まらない現実」を放送しました。 現状の対策を整理し、何ができるかを語り合いました。議論で確認されたのは、温暖化問題では「地球を守れ」などの感情論が先行。もちろんそれは大切ですが、冷静な対策の検証と合意の集積が必要ではないかという結論になりました。そして温暖化問題に向き合う場合には、原子力は対策での選択肢の一つとして考えざるを得ない状況です。
  • 太陽光発電業界は新たな曲がり角を迎えています。 そこで一つの節目として、2012年7月に固定価格買取制度が導入されて以降の4年半を簡単に振り返ってみたいと思います。
  • 世界でおきているESGファイナンスの変調 昨年のCOP26に向けて急速に拡大してきたESGファイナンスの流れに変調の兆しが見えてきている。 今年6月10日付のフォーブス誌は「化石燃料の復讐」と題する記事の中で、近年の欧米

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑