送電線は8割も余っているのか

2018年01月29日 23:30
アバター画像
アゴラ研究所所長

朝日新聞に「基幹送電線、利用率2割 大手電力10社の平均」という記事が出ているが、送電線は8割も余っているのだろうか。

ここで安田陽氏(風力発電の専門家)が計算している「利用率」なる数字は「1年間に送電線に流せる電気の最大量に対し、実際に流れた量」だという。それによると東電の利用率は27.0%だから、送電線はガラガラのような印象を受けるが、この計算はおかしい。

まず大事なのは、基幹的な送電線は二重化されているという常識だ。このうち1回線は事故や保守にそなえるバックアップ回線だから、普段は使わない。100万kWの発電所の送電容量は200万kWあるので、24時間フル操業しても、送電線の「利用率」は最大50%なのだ。

すべての送電線が二重化されているわけではないが、「基幹送電線の2割」という数字はバックアップを計算に入れておらず、明らかに誤りだ。安田氏のコラムでは「迂回路」の存在は認識しているようだが、二重化にはふれていない。朝日新聞の石井徹編集委員はまったく理解していない。

次に最大送電量(kW)と比較するのは電力消費量の累計(kWh)ではなく最大消費量(kW)だということだ。東電の発表した電力使用量は、次の図のように1月26日には、最大発電能力5371万kWの95%で、他の電力会社から電力を買ってしのいだ。電力供給はガラガラどころか、綱渡りなのだ。

このように電力消費量のデコボコが大きいことが電力会社の悩みだが、再エネの普及で発電量もデコボコになり、問題はさらに悪化している。これをもっと柔軟に割り当てるのが、宇佐美さんの紹介したコネクト&マネージである。再エネがピーク時だけバックアップ回線を利用するもので、東北電力が導入するらしい。

供給責任を負わないで全体の調整は電力会社まかせの再エネ業者は、巨大なフリーライダーになりつつある。再エネはしょせんピーク電源であり、雨の日や風のない日にも対応する責任は電力会社が負う。だから供給責任のある電力会社に送電インフラを優先的に割り当て、責任のない再エネは緊急時には接続を停止するなど優先順位をつければいい。

その配分にはオークションなどの市場原理が必要だが、毎年2兆円以上のFIT賦課金という過剰なインセンティブで市場が機能しない。太陽光パネルの価格も大幅に下がったので、再エネが健全に発展するためにも火力や原子力との公正な競争が必要だ。市場をゆがめているFITを早急に廃止し、市場原理で送電インフラを配分する必要がある。

This page as PDF

関連記事

  • 横浜市が市内の小中学校500校のうち65校の屋根にPPAで太陽光発電設備を設置するという報道を見ました。記事からは分かりませんが、この太陽光パネルの製造国はどこなのでしょう。 太陽光発電、初期費用なしPPAが設置促す 補
  • 新たなエネルギー政策案が示す未来 昨年末も押し迫って政府の第7次エネルギー基本計画案、地球温暖化対策計画案、そしてGX2040ビジョンという今後の我が国の環境・エネルギー・産業・経済成長政策の3点セットがそれぞれの審議会
  • 3月初めにEUの環境政策関係者に激震が走った。 「欧州グリーンディール」政策の一環として2021年7月にEUが発表した、2030年までに温室効果ガスの排出を90年比55%削減するという極めて野心的な目標をかかげた「FIT
  • 先週、アップルがEV開発を中止するというニュースが世界中を駆け巡りました。EVに関してはベンツも「30年EV専業化」戦略を転換するようです。国レベルでも2023年9月に英スナク首相がEV化を5年遅らせると発表しました。
  • 6月にボンで開催された第60回気候変動枠組み条約補助機関会合(SB60)に参加してきた。SB60の目的は2023年のCOP28(ドバイ)で採択された決定の作業を進め、2024年11月のCOP29(バクー)で採択する決定の
  • 2012年9月19日に設置された原子力規制委員会(以下「規制委」)が活動を開始して今年の9月には2周年を迎えることとなる。この間の5名の委員の活動は、本来規制委員会が行うべきと考えられている「原子力利用における安全の確保を図るため」(原子力規制委員会設置法1条)目的からは、乖離した活動をしていると言わざるを得ない。
  • IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 今回は理系マニア向け。 「温室効果って、そもそも存在する
  • 私は友人と設計事務所を経営しつつ、山形にある東北芸術工科大学で建築を教えている。自然豊かな山形の地だからできることは何かを考え始め、自然の力を利用し、環境に負荷をかけないカーボンニュートラルハウスの研究に行き着いた。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑