中国の石炭で造った太陽光パネルでCO2は減るのか

chuyu/iStock
米国ブレークスルー研究所の報告書「太陽帝国の罪(Sins of a solar empire)」に衝撃的な数字が出ている。カリフォルニアで設置される太陽光パネルは、石炭火力が発電の主力の中国で製造しているので、10年使わないとCO2削減にならない、というのだ。
この報告書、分かり易い図が沢山あるので、それを用いてハイライトを紹介しよう。
まず基本。太陽光パネル製造には5つの段階がある:
5つの段階全ての生産量において、2021年には中国のシェアが圧倒的だ。とくにインゴットとウェハは殆どが中国だ:
中国は石炭を多用していて電気料金が低い。とくに新疆ウイグル自治区(Xinjiang)は電力量が大きく、大半が石炭火力で、電気料金はKWhあたりで6セント程度と安い:
以上は州別の統計に基づく計算だが、実際にはもっと石炭依存は直接的だ。この航空写真には、炭鉱のすぐそばに石炭火力発電所と太陽光パネル用のポリシリコン製造工場がある。ここでは強制労働が行われている疑いも濃厚だ。このような大規模な工場が幾つも見つかっている。
そして冒頭に述べたように、中国の電力を使って生産された太陽光パネルをカリフォルニアに設置すると、生産に要したCO2を削減するために9.8年もかかる、と言う計算になる。日本はどうなのか、気になるところだ:
今後、中国の独占状況は変わるだろうか?
いまのところ、世界のソーラーパネル生産における中国の独占は増々進む見込みだ。建設中や計画発表済みの太陽光パネル製造能力は殆どが中国によるものだ:
仮に全て米国で生産するとなると、ソーラーパネルのコストは約1.5倍(下図の0.51/0.34=1.5)となるという:
これぐらいで本当に実現できればよいのだが、環境規制の多い先進国で果たしてこれができるだろうか・・・。
これでも太陽光パネルを設置し続けるべきなのだろうか?
■
『キヤノングローバル戦略研究所_杉山 大志』のチャンネル登録をお願いします。

関連記事
-
福島第一原子力発電所の処理水を海洋放出することについて、マスコミがリスクを過大に宣伝して反対を煽っているが、冷静に考えてみれば、この海洋放出は実質無害であることが分かる。 例えば、中国産の海産物を例にとってみてみよう。
-
北朝鮮が第5回目の核実験を行うらしい。北朝鮮は、これまで一旦ヤルといったら、実行してきた実績がある。有言実行。第5回目の核実験を行うとすると、それはどのようなものになるのだろうか。そしてその狙いは何か。
-
現在ある技術レベルでは限りなく不可能に近いだろう。「タイムマシン」があれば別だが、夏の気温の推移、工場の稼動などで決まる未来の電力の需要が正確に分からないためだ。暑く、湿度が高い日本の夏を、大半の人はエアコンなく過ごせないだろう。そのために夏にピークがくる。特に、8月中旬の夏の高校野球のシーズンは暑く、人々がテレビを見て、冷房をつけるために、ピークになりやすい。
-
著者は、エネルギー問題の世界的権威である。20年以上前に書かれた『石油の世紀』は、いまだにエネルギー産業の教科書だが、本書はそれを全面的に書き直し、福島事故後の変化も取り入れた最新の入門書である。
-
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 以前、「IPCC報告の論点⑥」で、IPCCは「温暖化で大
-
メディアでは、未だにトヨタがEV化に遅れていると報道されている。一方、エポックタイムズなどの海外のニュース・メディアには、トヨタの株主の声が報じられたり、米国EPAのEV化目標を批判するトヨタの頑張りが報じられたりしてい
-
エネルギー政策の見直し議論が進んでいます。その中の論点の一つが「発送電分離」です。日本では、各地域での電力会社が発電部門と、送電部門を一緒に運営しています。
-
前回に続いて、環境影響(impact)を取り扱っている第2部会報告を読む。 今回は生態系への気候変動の影響。 本文をいくら読み進めても、ナマの観測データがとにかく図示さていない。 あったのは、以下の3つ(いずれも図の一部
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間