核融合は今こそ原型炉建設の政治判断を

2023年02月22日 06:40
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

y-studio/iStock

報道にもあったが、核融合開発のロードマップが前倒しされたことは喜ばしい。

だが残念ながら、いま一つ腰が引けている。政府による原型炉建設へのコミットメントが足りない。

核融合開発は、いま「実験炉」段階にあり、今後2兆円をかけて「原型炉」を建設して発電実証を行えば、その後は実用化できる。無尽蔵のクリーンエネルギーが既存の火力や原子力発電と遜色ないコストで手に入る。

では政府の検討状況はどうか。2月1日の文科省核融合科学技術委員会の配布資料4には、以下の記述がある。

  • 原型炉開発総合戦略タスクフォースにおける技術的な検討の結果及びアクションプランの更新案については、核融合科学技術委員会で受け入れるものとする。
  • 一方、「核融合発電の実施時期の変更」については、現在、ITER のベースラインの見直しが行われており、ベースラインの検討状況等を総合的に勘案した上で判断する必要があることから、決定を保留する。
  • これを受け、アクションプラン更新案のうち、第2回中間チェック・アンド・レビュー(2025年頃)以降の活動については、同レビューを経て改めて検討するものとする。

ここで、「アクションプランの更新案」とは、核融合開発のロードマップの前倒しのことであり原型炉建設がその中心となる。「ITERのベースライン」とは、国際共同の実験炉ITER建設の進捗状況のことである。そして2025年頃にITERの進捗をチェックして原型炉に着手する、となっている。

つまりのところ、まずはITERの進捗を2025年まで様子見してから原型炉建設への着手を判断しましょう、ということになっている。

だが、これはもっと前倒しすべきではないか。

同委員会の配布資料5を見ると以下の記述がある。

中国においては、ITER と同規模の工学試験炉 CFETR の建設を独自に進め、2030 年代までに原型炉に改造する計画を進めている。

図 中国の核融合開発計画。詳しくは動画およびその講演資料p44を参照

つまり、事実上、中国はすでに原型炉の建設を進めている!

ITER完成後に予定されている実験運転は実用化に向けて重要である。しかし、その建設はもう峠を越えており、主要な要素技術は全てメドが立っている。したがって、ITERの完成まで待っていなくても、原型炉は建設できてしまうのだ。中国はそのように判断したということだ。

日本も、ITERの完成を座して待っているのでなく、ただちに、原型炉建設の意思決定をするべきではないか。

日本には原型炉そして実用炉を単独で実現するだけの産業・技術基盤がある。いまからただちに着手すれば、まだ中国に先駆けることが出来る。

ITERには不安もある。国際共同研究で推進しているが、その中には中国とロシアがそれぞれ出資比率9.1%で入っている。かつてのグローバリゼーションの時代にはこれは妥当だった。だがいまや新冷戦の時代に入った。かかる体制でいつまで持続できるのだろうか。

国際宇宙ステーション計画からロシアは撤退したという前例がある。中国への技術流出も当然懸念される。G7諸国によるロシアへの経済制裁、中国へのハイテク輸出規制なども影響するだろう。このような政治的要因によってITERが遅れることも懸念せざるを得ない。

米国MITなどの大学やベンチャー企業の研究開発は興味深いものではあるが、実用炉へ発展させるという視点で見ると、容易に解決できそうにない課題もあり、従って核融合発電の実用化に直結するものではない。実験炉ITERに続いて原型炉を建設することが実用炉実現のために不可欠な王道であることは変わりない。

ただちに原型炉建設に着手することになれば、累計で2兆円が要る。今後数年についてもITERのための予算以外に毎年数百億円超の政府資金投入の追加が必要になるだろう。

だがこれは10年間で150兆円に上るとされる政府GX(グリーントランスフォーメーション)戦略の下での温暖化対策費用に比較すれば僅かなものだ。

2025年に予定されている「チェック・アンド・レビュー」に先立って、この2023年に、原型炉建設の是非についての集中的検討をすべきだ。そしてそれに基づいて、乾坤一擲、政治的な意思決定を望みたい。

■

『キヤノングローバル戦略研究所_杉山 大志』のチャンネル登録をお願いします。

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • バイデン政権で気候変動特使になったジョン・ケリーが米国CBSのインタビューに答えて、先週全米を襲った寒波も地球温暖化のせいだ、と言った。「そんなバカな」という訳で、共和党系ウェブサイトであるブライトバートでバズっている。
  • このような一連の規制が、法律はおろか通達も閣議決定もなしに行なわれてきたことは印象的である。行政手続法では官庁が行政指導を行なう場合にも文書化して根拠法を明示すべきだと規定しているので、これは行政指導ともいえない「個人的お願い」である。逆にいうと、民主党政権がこういう非公式の決定を繰り返したのは、彼らも根拠法がないことを知っていたためだろう。
  • 自民党河野太郎衆議院議員は、エネルギー・環境政策に大変精通されておられ、党内の会議のみならずメディアを通じても積極的にご意見を発信されている。自民党内でのエネルギー・環境政策の強力な論客であり、私自身もいつも啓発されることが多い。個人的にもいくつかの機会で討論させていただいたり、意見交換させていただいたりしており、そのたびに知的刺激や新しい見方に触れさせていただき感謝している。
  • IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 アフリカのサヘル地域では1980年代に旱魃が起きて大きな
  • 連日の猛暑で「地球温暖化の影響ですか?」という質問にウンザリしている毎日だ。 最新の衛星観測データを見ると、6月の地球の気温は1991-2020年の30年間の平年値と比べて僅かにプラス0.06℃。0.06℃を体感できる人
  • 化石賞 日本はCOP26でも岸田首相が早々に化石賞を受賞して、日本の温暖化ガス排出量削減対策に批判が浴びせられた。とりわけ石炭火力発電に対して。しかし、日本の石炭火力技術は世界の最先端にある。この技術を世界の先進国のみな
  • 1. アメリカの誕生日に間に合わせた実験 2026年7月4日は、アメリカが独立を宣言してからちょうど250年の記念日であった。トランプ大統領は「この記念日までに、新しいタイプの小さな原子炉を3基、実際に動かしてみせる」と
  • 前回の記事で、①EUが実施しようとしている国境炭素税(CBAM)は、世界を敵に回す暴挙で、世界諸国によって潰されることになる、②このCBAMへの対応を理由に日本は排出量取引制度法案を今国会で審議しているが、経済自滅を招く

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑