中小企業経営から見た電力問題-負担限界を考えないエネルギー政策の迷惑
刻下の日本におけるエネルギー問題(電力供給問題)が中小企業に及ぼす負の影響について、安定供給・価格上昇・再生可能エネルギー導入・原発再稼働などの側面から掘り下げてみたい。
まず安定供給については、何れかの地域で停電が発生しているわけではないが、今の供給状況は安定的とは言いきれないということを認識すべきである。なぜならば、本来その役目を終えていたはずの老朽火力(稼働から40年以上)が原発代替として供給の一翼を担っており、その計画外停止件数は年を追うごとに増加しているからである。
また、老朽火力でない火力発電所についても、定期メンテナンスの繰り延べや高い稼働率の維持により計画外停止に追い込まれる場合もあり、供給力の約9割を占めるまでになってしまった火力発電の供給体制が盤石な状態であるとは言い難い。
次に価格上昇については、東日本大震災後の火力発電量の増加に伴う燃料調達量の増大と燃料価格の高騰で、中小企業の多くは約3割の電気料金値上げを強いられ、電力多消費産業では収益悪化のみならず事業停止にまで追い込まれる企業が散見されるにまで至っている。
弊社の印刷工場では、電気代が2012年に2569万円(128万kWh)であったものが、2013年では2963万円(2012年にほぼ同じ128万kWh)に跳ね上がり、実に1年で400万円近くもの電力コスト増加を経験させられた。印刷加工の原材料を各種購入しているが、一年間でこれだけの価格高騰は過去に経験したことがない。
エネルギー問題の将来における課題について考えるとき、「再エネの導入」と「原発の再稼動」を避けて通ることはできない。
再エネの導入については、現在までに認定されている再エネ設備が全て運転開始した場合の金銭的な負担(3.12円/kWh・約2.7兆円/年)が公表されてから急にメディアが騒がしくなっている。こうした報道で負担として事例紹介されている“平均的な家庭(電力消費量=300kWh/月)で225円/月から935/月へ”を聞いた人の中の多くは、“月に1000円程度で再エネ導入を推進できるなら高負担ではない”と考えているのではないだろうか。
しかしながら、上述の弊社事例である128万kWに3.12円/kWhを乗じた賦課金が約400万円/年(1年間の電気代である2963万円の13%以上になる)になるという中小企業の実態を聞けば、その負担は家庭の負担どころではないということを多くの人が理解してくれると信じている。
中小企業のオペレーションを考える上で、年間で約400万円の電力コスト上昇があり、さらに同額の再エネ賦課金を近い将来に支払わなくてはならない場合、相当の売上増大(または利益拡大)でもなければ負担しきれないほどの金額となることは瞭然たる事実である。
原発の再稼動については、国論を二分する大変難しい問題であると認識している。しかし、原発停止による燃料費増は2011年から2014年(推定値)までの4年間の累計で約12.7兆円に達し、国民一人あたりに換算すれば約10万円も負担させられていることになる。
また、各年度の発電電力量(2014年は2013年と同量と仮定)から1kWhの燃料費増加分を計算し、各年度の弊社電力使用量を乗じると、原発停止により4年間で約1754万円もの余計な電力コストを支払ったことになる。
原発を以前のように全て稼動させることは現実的に考えて無理かもしれない。だが、原発関連のリスクを過大に評価して再稼動を妨げ続けることで電力コストのさらなる上昇を助長すれば、中小企業を財務的に窮地に追い込むことになることは必定である。
再エネを推進したい、もしくは脱原発を実現したいと願う人達からは、電力コスト上昇が中小企業にどのくらいの金銭的な負担になるのかについて説明しているのを聞いたことがない。これからエネルギーミックスを考えていくときに、重点を置くべきことは中小企業や家庭における電力コスト上昇の限界がどこにあるのかを見極めることで、その限界から逆算して再エネ導入や原発再稼働を考えるというアプローチが必要になるはずである。
政治家や所轄官庁が、上記のような中小企業の窮状をよくよく理解し、再エネ導入の抜本的な制度変更と安全が確認された原発の再稼動を進展させてくれることを切に願っている。
<参考資料>
資源エネルギー庁:「平成26年10月電力検証小委員会報告書」
電気事業連合会:「発受電実績2011年~2013年」
(2014年12月8日掲載)
関連記事
-
貧困のただなかにある人達は世界の大企業をどうみるだろうか。あるいは、貧困撲滅が最大の政治課題である途上国政府は世界の大企業をどうみるだろうか。
-
原子力をめぐる論点で、専門家の意見が分かれているのが核燃料サイクルについての議論です。GEPRは多様な観点から問題を分析します。再処理は進めるにしても、やめるにしても多くの問題を抱えます。
-
規制委の審査、判断の過程はそれによって不利益を受ける側の主張、立証の機会が法律上、手続的に保障されていないのである。従って規制委ないしは有識者会合において事業者側の資料の提出を受けつけなかったり、会合への出席や発言も認めなかったりしても形式上は何ら手続き違反とはならないという、おかしな結果になる。要するに対審構造になっていないのである。
-
オーストラリア環境財団(AEF)は、”グレートバリアリーフの現状レポート2024(State of the Great Barrier Reef 2024 )”を発表した(報告書、プレスリリース)
-
元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 現状、地球環境問題と言えば、まず「地球温暖化(気候変動)」であり、次に「資源の浪費」、「生態系の危機」となっている。 しかし、一昔前には、地球環境問題として定義されるものとして
-
はじめに 映画「Fukushima 50」を観た。現場にいた人たちがフクシマ・フィフティと呼ばれて英雄視されていたことは知っていたが、どんなことをしていたのかはもちろんこの映画を観るまで知らなかった。 中でも胸を打ったの
-
スマートジャパン 3月3日記事。原子力発電によって生まれる高レベルの放射性廃棄物は数万年かけてリスクを低減させなくてならない。現在のところ地下300メートルよりも深い地層の中に閉じ込める方法が有力で、日本でも候補地の選定に向けた作業が進んでいる。要件と基準は固まってきたが、最終決定は20年以上も先になる。
-
遺伝子組換え農作物が実用化されて20年以上が経過した。1996年より除草剤耐性ダイズや害虫抵抗性トウモロコシなどの商業栽培が開始され、2014年には世界の1億8150万ヘクタール(日本の国土の4.8倍)で遺伝子組換え農作物が栽培されている。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間