再生可能エネルギーは「再生可能」か?

2026年05月21日 06:50
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国際環境経済研究所主席研究員

mesh cube/iStock

筆者の知己であり、元コロラド大学教授(現AEI(American Enterprise Institute)シニアフェロー)のRoger Pielke Jr.が興味深い論考「”Renewables” are not Renewable(再生可能エネは再生可能でない)」を3月末に公表した。太陽光・風力と、蓄電池に関して、それらの大量普及を加速した場合の、ライフサイクル全体を見た環境影響を定量的に検討した論考である。

その論旨はタイトルの通りで、「風力発電タービンと太陽光パネルは、風力と太陽光のエネルギーによって賄われたサプライチェーンで生産できるだろうか? その答えはNOである。風力発電タービンと太陽光パネルの生産プロセスは、化石エネルギー集約型のサプライチェーンによって支えられており、その化石エネルギーを代替する技術はいまだ存在せず、将来も存在しえないだろう」というものである。

そこでは、再生可能エネルギー「だけ」を使って太陽光・風力といった再エネ発電設備を拡大再生産していくことはできないという「不都合な真実」を指摘しながら、拙速な再エネ大量普及の問題点について定量的に論じている。以下その論点について紹介する。

「発電時ゼロ排出」の背後にある素材消費

先ずPielke教授は米Breakthrough Instituteの試算をもとにして、様々な再エネ発電設備がそのライフサイクルを通して1GWhの電力を生み出すのに必要となる素材や原燃料の「物量」について紹介している。

発電設備の中で最大の物量を要するのが洋上風力発電設備であり、1GWhの電力を得るのにおよそ7トンもの素材を必要とし、そのうち5トンが基礎となるセメント、1.7トンが支柱となる鋼材、その他アルミや銅などの金属類を大量に使うとしている。より基礎構造がシンプルな陸上風力発電の場合でも1GWhの電力を得るのに約2トンの素材が必要で、そのうち1.8トンが鋼材だという。

太陽光の場合1GWhあたり必要な1.8トンの素材のうち0.8トンが躯体としての鋼材で、それに加えて0.3トン超のガラスと0.2トン弱のアルミ・シリコンなどを要するという※)

※)太陽電池向け高純度シリコンを天然資源から製造するには、石英鉱石を1500℃~2000℃で精錬したうえで、さらにエネルギー多消費な化学精製プロセスと電力対消費のシリコン結晶析出工程が必要である。

さらに発電量が自然条件で変動する太陽光・風力等の「変動性再エネ」の場合、蓄電池による系統給電調整機能を併用することが必要となる。そうした蓄電池にはアルミ・ニッケル・リチウム・ボロンなどの希少金属を含めて、蓄電1GWhあたり約0.43トンの金属素材が必要となるいう。

通常蓄電池の寿命は10~13年程度なので、耐用年数25~30年とされる太陽光・風力の各設備には、その利用期間を通して2~2.5サイクルの蓄電池交換が必要になり、物量換算すると1GWhあたり0.8~1.2トンもの金属素材が必要となるわけである。要するに再エネは「素材多消費型」の発電システムなのである。

こうした再エネ発電システムに使われるセメント・鉄鋼・アルミニウム・ガラス・銅・シリコンなどの構造材や希少金属は、いずれも極めてエネルギー多消費(energy intensive)の製品であり、かつ製造時のCO2排出削減が困難(hard to abate)な工業製品の代表として、大量の化石燃料を使って生産されていることは周知の事実であり、そうした鉄鋼やセメントやシリコンなどを、化石資源を使わずに再エネだけで生産するような技術は未だどこにも存在していないのが現状だ。

つまり再エネ発電は、それ自体は化石燃料を使わずに発電するので、発電時の排出はゼロなのだが、一方でその発電設備を造るには、原料として大量の化石資源を使い(鉄鋼製造時の原料炭や樹脂製造時の石油等)、生産プロセスでエネルギーとしても大量の化石燃料を使って生産されるため、製造時のカーボンフットプリントが極めて高く、必然的にCO2大量排出を伴うことになる。これを再エネ電力と再エネ由来の合成素材に代替して造ることはできない。つまり再エネだけを使って再エネ発電システムを造ることは不可能だというわけである。

少なくとも現状の技術を前提とした再エネ発電システムの拙速な大量導入は、その設備に使われる素材の生産を賄うために大量の化石資源を消費し、大量のCO2を排出することから、脱化石燃料にも脱炭素にも直結しないというわけである。

再エネ拡大が生んだ見えないCO2排出

ここからPielke教授は、世界的な再エネ大量導入シナリオについて、設備製造時を含むライフサイクル全体の環境影響の定量評価を試みている。

先ず2000年から2024年までに世界が加速した再エネ大量導入の背後で、それらの発電設備の生産サプライチェーンから排出されたCO2について、各素材の生産過程おける排出原単位を仮定して試算している。この間の世界的な再エネ普及実績量に基づくと、2000年に400万トンだった再エネ設備製造・設置に伴う年間CO2排出が、2023年には年間4.7億トンに拡大し、2024年には5億トンを超えてしまったという。

2025年の上期に世界の発電量の3割を再エネが賄うようになった」というグッドニュースが新聞等で報道されているが、そこで使われている太陽光パネルやその躯体、風力発電タービン、蓄電池等の製造過程で、実は大量のCO2が大気中に排出されているというバッドニュースが隠されているというわけである。

こうした再エネ設備製造時のCO2排出についてPielke教授は、IEA(国際エネルギー機関)の太陽光グローバルサプライチェーン特別報告書を引用して、世界の太陽光発電設備の製造時に使われる電力の60%以上が石炭火力に拠っていることにも言及している。

実際2010年以降、太陽光・風力・蓄電池等のクリーンエネルギーのサプライチェーンは、生産コストの安い中国に集中していったことは広く知られているが、そこでは安価な国内産の石炭を活用して(中国の電源構成の6割は石炭火力である)、安く大量に生産された鉄鋼・アルミ・ガラス・銅・シリコン・希少金属などの素材が、太陽光・風力・蓄電池といった再エネ設備やその部材に大量に使われた上で、世界中に輸出されてきたというわけである。

そうした再エネ機器を使って欧州等がCO2排出を削減してきた裏で、中国は世界最大のCO2排出国に「成長」している(中国の2022年CO2排出量は114億トンに上る)。再エネ関連設備の中国における生産急拡大によって、その製造段階で大量のCO2が大気中に排出されてきたことがその一因であることは間違いないだろう。

再エネ導入加速がCO2排出を押し上げる逆説

それでは今、ホルムズ海峡が閉鎖される中で、エネルギー安全保障のために「化石燃料に依存しない燃料への転換」として喧伝されている「再エネ導入加速」を拙速に進めると、地球の未来はどうなるのだろうか。

IEAのSTEPSシナリオ(各国が公約した2050年に向けた気候変動対策が実現されるとしたシナリオ)が想定している2030年、2050年までの太陽光・風力・蓄電池の普及量を想定したとき、そのサプライチェーンからのCO2年間排出量は2030年で8.7億トン、2050年には16億トンと、日本の年間総排出量10億トンを大きく超えてしまうとPielke教授は見積もっている。

再エネ普及をさらに加速したIEAのNZEシナリオ(世界が2050年にネットゼロ排出を実現するシナリオ)では、再エネのサプライチェーンからのCO2排出が、2030年時点で年間15.4億トン、2050年のネットゼロ達成時には年間40億トンにも上るという。これは現在世界2位の排出国である米国の年間CO2排出量を超えた数字である。

太陽光・風力・蓄電池といった分散型エネルギー設備は一つ一つの規模が小さく、分散設置されるため、使われる資材の物量には意識がなかなか向かず、その製造時の排出も意識されていない。

しかしIEAのNZEシナリオが示すように2030年までに太陽光、風力をそれぞれ毎年630GW、風力390GWずつ拡大し、蓄電池も累積で1200GW設置するといった大規模な普及を進めていくと、驚くほど多くの基礎素材や金属材料が必要となり、それらを採掘、精錬、加工するのに、世界のどこかで大量のCO2が排出されることになるのである。

つまり2030年より以前の段階で、セメント・鉄鋼・アルミ・ガラス・希少金属等の素材のカーボンニュートラルな大量生産基盤が実現していない限り(今から4年でそれが世界的に実現する可能性は事実上ゼロである)、当面の拙速かつ大規模な再エネ拡大投資は、かえって地球規模のCO2排出を加速することになるわけである。

一方で、こうした基礎素材の生産プロセスの脱炭素化は、目下世界中で研究開発が競って進められており、いずれかの将来——2050年まで?——には、カーボンニュートラルないしは極低炭素の生産プロセスが実用化する可能性はあるかもしれない。

ただし仮にそれが技術的に可能となったとしても、その工業的な大量生産性・経済性は未知数の上、こうした基礎素材の製造に使われている生産設備の耐用年数は25~40年と長く、世界的なサプライチェーンの資本ストックが総入れ替えされるには、技術の実用化時点からさらに少なくとも数十年を要することになるだろうとPielke教授は警告している。

前述したように、Pielke教授は

「風力タービンと太陽光パネルの生産プロセスは化石エネルギー集約型のサプライチェーンによって支えられており、その化石エネルギーを代替する技術はいまだ存在せず、将来も存在しえないだろう」

としている。

はたして我々は、生産拠点でのCO2排出拡大に目をつむって、化石燃料に依存した基礎素材を大量に使うことで、太陽光・風力・蓄電池といった “ホルムズ海峡に供給を依存する化石燃料を必要とせず、目先のCO2排出もない電力” を期待して再エネ発電システムの大量普及を今すぐ加速すべきなのだろうか?

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