RE100は再エネ比率を高めるのか?

暑い夏が近づくと、電力のありがたさを改めて実感する。東京の夏は、もはや冷房なしでは健康を維持することすら難しい。電力とは、理念やスローガンではなく、国民生活と産業活動を支える基礎インフラである。
ところが、その電力をめぐって、近年「再エネ100%」という耳当たりのよい言葉が広がっている。その代表例が、環境省が推し進めるRE100(Renewable Energy 100)である。
RE100とは、企業が自社の事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際イニシアティブである。環境省もこれを紹介し、2018年には公的機関としてアンバサダーに就任している。つまり、RE100そのものは民間の国際的な企業イニシアティブであるが、日本政府も政策的に後押ししている(環境省ウェブサイト)。
RE100に企業が参加し、自社の収益から電力調達を見直して再エネを増やそうと努力すること自体は否定しない。
RE100が世界的な企業イニシアティブであることは事実である。しかし、それを日本全体の電力政策を代表する潮流であるかのように位置付けることには疑問がある。
環境省資料では、RE100に取り組むメリットとして、リスク回避、コスト削減、ESG投資の呼び込み、コネクションの拡大などが挙げられている。さらに、「再エネ100%調達をコミットすることは、世界的な対外アピールになる」とも説明されている。
環境省資料からは見えない実態
しかし、環境省の指標には重要な分母が欠けている。
環境省資料によれば、RE100の加盟企業数は2025年度時点で世界全体で443社、日本で95社である。確かに増えてはいる。しかし、RE100側の資料によると、日本国内で操業するRE100加盟企業の電力使用量は年間44TWhであり、そのうち再エネ調達比率は36%にとどまる。つまり、RE100加盟企業が日本国内で調達している再エネ電力は、概算で15.8TWh程度である。
一方、資源エネルギー庁の電力調査統計によれば、2024年度の日本の需要電力量の合計は8,609.9億kWh、すなわち約861TWhである。
この数字を分母にすれば、RE100加盟企業の国内電力使用量44TWhは、日本全体の約5.1%にすぎない。さらに、そのうち再エネ調達済みの15.8TWhは、日本全体の電力需要の約1.8%にすぎない。日本全体の電力需要から見れば、限定的な規模である。
しかも、RE100には業種の偏りがある。環境省資料でも、日本のRE100加盟企業は「電気機器、建設業が多い」と整理されている。具体的には、電気機器18社、建設業12社、不動産業11社、小売業8社など、比較的電力消費の少ない企業が多い。一方、鉄鋼、セメント、石油化学、基礎素材、大規模自動車製造のような、典型的なエネルギー多消費産業が中心になっているわけではない。
具体的には、図1のグラフで説明する。図1の散布図は、RE100参加企業について、横軸に年間消費電力量(GWh)、縦軸に再エネ比率(%)を示したものである。なお、各社の年間消費電力量は、筆者がAI検索などを利用して各社のウェブサイトから収集したデータである。そのため、各社によって集計年度や集計方法などが異なっている可能性があり、誤差を含む値であることに留意されたい。

図1 RE100参加各社の年間電力消費量と再エネ供給割合(%)
まず、参加企業の年間電力消費量は、1,000GWh以下の企業が圧倒的に多い。さらに、再エネ比率が50%を超える企業は、ほぼ300GWh以下である。
これは当然である。電力消費量が少なければ、再エネ電力メニュー、証書、PPA、自家消費型太陽光などを組み合わせることで、会計上の再エネ比率を高めやすい。
しかし、24時間操業する素材産業や大規模製造業では、事情がまったく異なる。必要な電力量が大きく、電力コストの上昇は国際競争力の低下に直結する。さらに、再エネ電力などを大量に契約することも容易ではない。そもそも、証書なども含めて再エネ電力がどれだけ提供されているのかも疑問である。
少なくとも本分析では、RE100は達成しやすい企業が目立ちやすいという傾向が見られた。参加企業数の増加だけを見れば広がっているように見えるが、電力量ベース、産業構造ベースで見ると、その実態は限定的である。
深刻なグリーンウォッシング問題
グリーンウォッシングとは、環境に配慮しているように装うことで、実際には環境に優しくないにもかかわらず、あたかもエコであるかのように企業や商品を見せかける行為のことである。
RE100における「再エネ100%」は、必ずしも企業が物理的に再エネ電力だけで操業していることを意味しない。経済産業省は、RE100では再エネ電力由来のJ-クレジット、グリーン電力証書、トラッキング付き非化石証書などが利用可能であると説明している(経済産業省ウェブサイト)。
これは重要な点である。証書等を利用することで、会計上は再エネ価値を調達したことにできる。しかし、その企業が電力を使用した時刻に再エネ電力が発電され、物理的に供給されていたとは限らない。
夜間、曇天、無風時にも企業活動は続く。そのとき電力系統を支えているのは、火力、水力、原子力など、従来から存在する電源である。にもかかわらず、「当社は再エネ100%で事業を運営しています」とだけ表示すれば、消費者や投資家には、あたかもその企業が常時再エネだけで動いているかのように受け取られかねない。しかし、実際にはそうなっていない可能性がある。
消費者が、企業は物理的に再エネだけで操業していると誤認する可能性があり、表示方法によってはグリーンウォッシングと受け取られるリスクがある。
環境省も環境表示ガイドラインの改定にあたり、ネットゼロやグリーン製品市場の拡大を背景に、国内外でグリーンウォッシングへの対応に関心が高まっていると説明している。金融庁もESG投信について、名称や投資戦略に実態が見合っていないのではないかというグリーンウォッシング問題を明示している(環境省ウェブサイト)。
であれば、企業の「再エネ100%」表示についても、同じ厳格さが必要ではないだろうか。本来ならば、企業は「年間使用電力量相当分について、再エネ電力メニュー、PPA、非化石証書等を通じて環境価値を調達しています」と説明すべきである。「再エネ100%」という一言で、物理的な電力供給と会計上の環境価値を混同させてはならない。
政府予算の不透明性
RE100そのものは政府の補助事業ではない。したがって、「政府がRE100企業に直接いくら支出しているか」という形で一本化された予算項目があるわけではなく、RE100企業への直接投入額は、公表資料から体系的に把握しにくい(予算の支出額が分かりにくいのは、RE100に限ったことではないが)。
実際には、省エネ、再エネ、地域脱炭素、ZEB、蓄電池、需要家主導型太陽光、グリーン投資など、多数の補助制度の中で、RE100、SBT、再エネ100宣言、再エネ電力調達、非化石証書などが、要件や加点項目、評価項目、確認資料として登場する。
例えば、ものづくり補助金のグリーン枠では、通常版または中小企業版SBTの認証、もしくは通常版または中小企業版RE100への参加が、要件の一部として記載されている。
にもかかわらず、公表資料を見るだけでは、RE100やSBTへの参加がどれほど審査に影響したのか、その結果として「どの企業にいくらの公費が流れたのか」「政策効果として何kWhの追加的な再エネが生まれ、何トンのCO2が削減されたのか」などは分からない。ものづくり補助金の公募要領でも、採択案件について公表される情報は限定され、申請枠の区分を明らかにしない形式で公表するとされている。
CO2削減政策を前提とするのであれば、政策評価はより厳密であるべきである。政府が地球温暖化対策、CO2削減対策を掲げて公費を支出しているのだから、公費を支出した事業の概要などの部分的な情報公開にとどまらず、交付額、交付決定に至る審査の内容、CO2削減量、再エネ導入の効果、さらには気温上昇の抑制効果までを、しっかりと検証して公開すべきである。現在の内容では、政策評価ができない。
政府が再エネや脱炭素に公費を投入するのであれば、示すべきは「何社がRE100に参加したか」「参加企業の電力消費に占める再エネの割合」といった数字だけではない。
参加企業数や国際的イニシアティブへの加盟数は、政策成果ではなく、せいぜい広報上の指標にすぎない。RE100は、企業の会計上の再エネ調達目標としては一定の意味を持つかもしれない。再エネ需要を可視化し、同業他社と比較して電力調達を見直すきっかけくらいにはなるだろう。しかし、それを「日本の電力政策や産業政策の成功指標」のように扱うのは誤りである。
表1に、環境省、経済産業省が実施しているRE100に関連する事業や補助制度を挙げておく。金額については、公表されている数字から、どの程度がRE100に関連する内容に支出されているのか分からないため、記載しないことにした。

表1 環境省、経産省のRE100に関連した事業一覧
国費の支出には正しい評価を
日本の電力政策に必要なのは、安く安定した電気を供給し、産業競争力を維持するとともに、国民生活を守ることである。再エネを増やすにしても、同時同量、系統制約、蓄電、バックアップ電源、コスト、土地利用、地域負担を含めて評価しなければならない。
「再エネ100%」という言葉は美しく、分かりやすい。しかし、分かりやすい言葉ほど、現実を覆い隠す危険がある。政府資料がRE100を「世界的潮流」として持ち上げるのであれば、同時にその限界も示すべきである。
すなわち、RE100参加企業の電力消費量は日本全体の電力需要から見れば限定的であること、エネルギー多消費産業には適用が難しいこと、証書を含む会計上の再エネ調達は物理的な同時同量を意味せず、実際に再エネで発電された電気が供給されているとは限らないこと、そして公費投入の全貌と費用対効果を検証できていないことを、正面から説明すべきである。
RE100が再エネ供給の比率を高める効果は限定的であることは、これまでの説明でお分かりいただけたと思う。国際潮流、ESG、脱炭素という美しい言葉の陰で、企業イメージやESG評価の向上には一定の効果があると考えられる一方、日本全体の電力の安定供給や公費投入の費用対効果については、客観的なデータに基づく検証が必要である。
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