ある医師からの手紙「放射能と健康についての知識を医師に学んでほしい」 — 「患者の利益のため」ヒポクラテスの教えに私たちは常に従う

2012年02月27日 00:00
王 伯銘
血液・内科医

GEPRに、医師王伯銘博士から投稿をいただいた。学問的な業績があり、治療活動も行う医師だ。王氏は日本の放射能と健康をめぐる現状について、科学的根拠のない危機感をあおる情報が流通していることを憂慮している。

残念ながら、現在の日本では「福島原発事故によって飛散した放射性物質によって健康被害が出る可能性は少ない」とする正確な 意見を表明すると、「なぜ放射能の危険を強調しないのか」と一部の人から感情的な反発がある。そうした状況でも、医師としての使命感から社会に意見を表明しようとする王氏に深い敬意を持つ。

GEPRは、正確な意見を社会に提供する専門家を支援し、自由な意見の流通を促す活動を続ける。

【以下本文】

福島原発事故の発生後、放射線被曝に対する関心が急速に高まった。原発事故による被曝被害は絶対に防がねばならないが、一方では過剰な報道により必要以上に一般市民を恐怖に陥れていることも事実である。

福島県産農産物の汚染に対する警戒心は理解できるにしても、薪や花火、コンクリートの橋桁の使用拒否はもはや、集団ヒステリックというほかない。本来ならこのような風評被害やいたずらに不安をあおる論調もある中で、正しい知識を持つ医師は積極的に発言し、啓蒙活動を進める必要がある。

だが、患者の恐怖心を和らげるような医師の発言は、往々にして「御用学者」の烙印を押される材料となり、必ずしも正しく認識、評価されていないのが現状である。放射能の風評被害に惑わされる前に、良識ある医師の発言に耳を傾けてほしい。

特に、母親たちに訴えたい。一部の報道によると、震災と原発事故後に、東北や関東から、沖縄や九州に放射能を恐れて「疎開」した子供が増えているという。私はこれほどまでに進んだ放射能の被曝に対する過剰反応に驚き、そして胸を痛めた。

避難した子供の多くには母親も連れ添い、その孤立を守るために全国規模のネットワークも設立されたという。しかし、これらの子供と母親は精神面、金銭面で大変な負担を受けるのではないだろうか。

原発事故により一定量の放射線物質が被災地以外にも飛散され、放射能被ばくは十分警戒しなければならないが、放射線量が比較的高い「ホットスポット」が検出されても日常生活において健康へ及ぼす影響はない程度のものだ。

このことを多くの良識ある医師が講演活動などを通じて説明し、冷静な行動を呼びかけている。「疎開」を考えている母親は冷静に判断してほしい。ヒポクラテスの教え(注)を誓った医師は患者の健康に害があることを決して選択させることはないのだ。

(注)ヒポクラテスの教え
「ヒポクラテスの誓い」とも言われる。紀元前4世紀の「医学の父」ヒポクラテスがまとめたとされる文章。16世紀から西欧の医師教育で使われ、現在も形を変えて各国の医師の行動規範になっている。医師は患者の健康と利益を最優先に活動することを誓う文章だ。ただし、現代の医学では、外科手術、女性の中絶は認められており、誓いの中のその部分は省略されている。

(以下、金沢医科大学ホームページより)
ヒポクラテスの誓い

医神アポロン、アスクレピオス、ヒギエイア、パナケイアおよびすべての男神と女神に誓う、私の能力と判断にしたがってこの誓いと約束を守ることを。

  • この術を私に教えた人をわが親のごとく敬い、わが財を分かって、その必要あるとき助ける。その子孫を私自身の兄弟のごとくみて、彼らが学ぶことを欲すれば報酬なしにこの術を教える。
  • そして書きものや講義その他あらゆる方法で私の持つ医術の知識をわが息子、わが師の息子、また医の規則にもとずき約束と誓いで結ばれている弟子どもに分かち与え、それ以外の誰にも与えない。
  • 私は能力と判断の限り患者に利益すると思う養生法をとり、悪くて有害と知る方法を決してとらない。
  • 頼まれても死に導くような薬を与えない。それを覚らせることもしない。
  • 同様に婦人を流産に導く道具を与えない。(編注・婦人の流産についての部分は現代では省略される)
  • 純粋と神聖をもってわが生涯を貫き、わが術を行う。
  • 結石を切りだすことは神かけてしない。それを業とするものに委せる。(編注・この外科手術に関する部分は現代では省略される)
  • いかなる患家を訪れるときもそれはただ病者を利益するためであり、あらゆる勝手な戯れや堕落の行いを避ける。女と男、自由人と奴隷のちがいを考慮しない。
  • 医に関すると否とにかかわらず他人の生活について秘密を守る。
  • この誓いを守りつづける限り、私は、いつも医術の実施を楽しみつつ生きてすべての人から尊敬されるであろう。もしこの誓いを破るならばその反対の運命をたまわりたい。

This page as PDF

関連記事

  • 福島第一原発事故の放射線による死者はゼロだが、避難などによる「原発関連死」は事故から2014年までの4年間で1232人だった(東京新聞調べ)。それに対して原発を停止したことで失われた命は4年間で1280人だった、とNei
  • 原子力規制委員会が原発の新安全設置基準を設けるなど制度の再構築を行っています。福島原発事故が起こってしまった日本で原発の安全性を高める活動は評価されるものの、活断層だけを注視する規制の強化が検討されています。こうした部分だけに注目する取り組みは妥当なのでしょうか。
  • 今年も例年同様、豪雨で災害が起きる度に、「地球温暖化の影響だ」とする報道が多発する。だがこの根拠は殆ど無い。フェイクニュースと言ってよい。 よくある報道のパターンは、水害の状況を映像で見せて、温暖化のせいで「前例のない豪
  • 20日のニューヨーク原油市場は、国際的な指標WTIの5月物に買い手がつかず、マイナスになった。原油価格がマイナスになったという話を聞いたとき、私は何かの勘違いだと思ったが、次の図のように一時は1バレル当たりマイナス37ド
  • 前回に続き「日本版コネクト&マネージ」に関する議論の動向を紹介したい。2018年1月24日にこの議論の中心の場となる「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」の第二回が資源エネルギー庁で開催されたが、
  • 今年5月、全米科学アカデミーは、「遺伝子組み換え(GM)作物は安全だ」という調査結果を発表しました。これは過去20年の約900件の研究をもとにしたもので、長いあいだ論争になっていたGMの安全性に結論が出たわけです。 遺伝
  • 9月11日に日本学術会議が原子力委員会の審議依頼に応じて発表した「高レベル放射性廃棄物の処分について」という報告書は「政府の進めている地層処分に科学者が待ったをかけた」と話題になったが、その内容には疑問が多い。
  • 16日に行われた衆議院議員選挙で、自民党が480議席中、294議席を獲得して、民主党から政権が交代します。エネルギー政策では「脱原発」に軸足を切った民主党政権の政策から転換することを期待する向きが多いのですが、実現するのでしょうか。GEPR編集部は問題を整理するため、「政権交代、エネルギー政策は正常化するのか?自民党に残る曖昧さ」をまとめました。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑