とてつもないイノベーションの可能性がここにある — ビル・ゲイツ、福島事故後の原子力エネルギーを語る(上)

ゲイツ氏とポネマン米エネルギー省次官
マイクロソフト社の会長であるビル・ゲイツ氏は「ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団」を運営し、教育や医療の改善、食料生産の拡大、持続性のある経済成長、貧困問題の対応など、地球規模の社会問題の解決のための活動をしている。その中で、安く大量に提供されるエネルギーを提供する方法を探す中で、原子力に関心を向けた。
今回ゲイツ氏から、自分の意見や、社会に役立つ情報を集めたサイト「ゲイツ・ノート」(The Gates Note)で、公開された映像資料「福島事故後の原子力エネルギー(Nuclear Energy After Fukushima)」の日本語訳の公開を許諾いただいた。この記事は2011年9月29日にワルシャワで開催されたIFNEC(国際原子力エネルギー協力フレームワーク)で、米国エネルギー省のダニエル・ポネマン次官とのビデオ対談を基にしたものだ。
和訳はワック出版に協力いただいた。同社の雑誌Willの2012年11月号「「原発ゼロ」でいいのか」「ビル・ゲイツ 原子力を楽観的に語る」に、同趣旨の記事が掲載されている。
ゲイツ氏は、記事「上」で以下のことを主張した。
1.貧困、人々の健康の改善など、世界規模の問題に対応するためには、安く、大量のエネルギーが必要である。
2.さまざまなエネルギーの可能性を試すべきだが、原子力はその中で有効な解決策である。そしてとてつもないイノベーションの可能性がある。
また記事「国際協力によるコスト引き下げがイノベーションの鍵=ビル・ゲイツ、福島事故後の原子力エネルギーを語る(下)」では次のことを主張した。
3.福島原発事故後、安全性を高めるための規制はできる限りのことを行わなければならない。しかし私(ゲイツ氏)は原子力のイノベーションの可能性を楽観視している。
4.投資を促し、民間企業の参入障壁を取り除くことが必要だ。そのために、国際協力や進化したシミュレーション技術を使った規制の合理化、大学の協力などで支えなければならない。
以下は本文。
安く大量のエネルギーの供給が貧困問題解決の鍵
−−なぜあなたがこうした分野に関心を持つようになったのか、さらにあなたがこの分野でどのようなことをされているのか、教えていただけませんか。
ゲイツ エネルギーとはまさに、すべての人間活動の中枢に位置しているものです。自分の財団の仕事、そして貧困層の生活改善に専念するようになって、私はイノベーション(技術革新)によって、これらの人々の生活を改善できる可能性に注目するようになりました。
技術革新によって、これらの人々は、より安価な肥料や建築資材、さらには冷蔵庫や夜間に読書する灯りを手に入れることができるのです。そしてその改善活動をする上で、中心的な役割を果たすのがエネルギーです。そうした観点から、この分野での画期的なイノベーションが必要です。それを実現することによって、貧困層の人々が人間が当たり前と考える生活と物資を享受できるように支援することが求められているのです。
そこで私はエネルギーに関する文献を調べました。バーツラフ・スミル教授(環境学者、カナダ・マニトバ大学教授)をはじめとするエネルギーの歴史に関する優れた著書を発表している研究者の文献に触れ、そして世界中の人々に安価なエネルギーを供給することができる可能性を秘めた事業に対して投資しようと決意したのです。
−−どのようにすればそのような技術革新を進めていけるのでしょうか。さらにそれを実際に経済活動の中に取り入れるにはどうすればよいでしょうか。
産業としてエネルギー分野を見てみると、私がこれまでの経歴の大半を費やしてきたIT分野と比べても、より複雑であると感じています。
IT分野には、エネルギー分野に見られる規制に関する煩雑な部分や、リードタイム、安全性に関する複雑さもありませんでしたから。こうしたことがエネルギー分野における非常に難しい点であると言えます。
エネルギー分野では、新しいイノベーションを展開していくには実際のところ非常に長い時間が必要となることを考えると、イノベーター(革新者)に対するインセンティブ(刺激)を与えられないとか、新しい取り組みに十分な財源を提供することが難しくなるとかの問題もよく起こります。
これはさまざまな形のエネルギーに当てはまることではありますが、なかでも原子力の分野において顕著であると言えるでしょう。原子力分野における設計の革新的改良などの試みは、期待されるほど早いペースでは進展しえないでしょう。ですから改良を促進するために、できることはすべてやるべきだと、考えています。
私はエネルギーの領域に大きなチャンスがあると思います。そして多くの企業がさまざまなことにチャレンジできるようにしていくことが必要であると考えています。太陽光、風力、原子力、あるいはクリーンコールであれ、各分野で最低限の数であっても、複数の企業が確実な成果を出すことが求められているでしょう。
そうすることで貧しい人たちに安価なエネルギーを提供しながら、温室効果ガスの排出抑制を含めて、環境破壊をもたらさないエネルギーを獲得するという必要があります。
エネルギーの革新であらゆる可能性を試すべき
−−今後の世界は、どのようなエネルギー技術を組み合わせながら使っていくことになると思いますか。
それに優劣をつけるのはなかなか難しいのではないのでしょうか。ご存知のとおり、 時代をさかのぼってみれば、自動車のエンジンに関しても、蒸気エンジン、バッテリーエンジンが使われました。 現在非常に高いシェアを占めている内燃エンジンは過去には最も難しいと考えられていたこともあったのです。最終的には、エンジンについて私たちは技術を融合する事に頼ることになるでしょう。現在のところディーゼルも、そのなかで重要な役割を果たしています。
ですからエネルギー技術が今後どうなっていくかは、はっきりとは分かりません。ただし私がはっきりと認識しているのは原子力にはとてつもない可能性があるということです。
ごく小さなスペースから得られるエネルギーの量や、イノベーションが適切に行うわれた場合に経済に与える可能性について考慮すると、原子力エネルギーが今後も追求し続けていくべき重要な進路の一つであると考えています。
もしも太陽光発電が10倍安い価格を実現し、 問題となっている蓄電技術の課題や、必要とされる場所にエネルギーが届かないという送電上の問題が解決されたなら、それは素晴らしいことです。実際に私はこの分野にも投資をしています。
しかし、実際のデータを見て「今よりも安く、しかもどの地域にも設置できるエネルギーとは何か」と考えた場合に、原子力がこの問題に対処できる数少ない解決策のうちの一つなのです。
−−私たちは民間セクターに存在する莫大な資本を活用していかねばなりません。原子力の技術は時間のかかるものであり、資本の集中的な投資が必要な活動であると考えた場合に、 原子力の領域において、どのような仕組みをつくるべきであると考えていますか。
大きな成果を挙げられるまで、投資家が関わらなければならないでしょうね。 すべてのピースが組み合わさり、複数のプラントができあがるまでには何十年もの間、 資金をつぎ込むことが必要になるでしょうから。ですから原子力事業では、かなり早い段階から研究開発行うことで発生するコストに見合うロイヤリティを新しい取り組みから回収することができるような計画を立てることです。
わずかな改善だけでは企業の参入を求めていくことは難しいでしょう。ご存知のとおり、 モジュラー型原子炉の設計を採用している企業もあります。 私も経営にかかわっているテラパワー社は高速原子炉に関連して興味深いイノベーションをしています。
エネルギーを格段に安くできる潜在性があり、安全上の制約にも適合しえるこのようなアプローチを知っていただければ、原子力の可能性を信じていただけると思います。こうした制約は、これまでも常に高く設定されていましたし、むろん福島の原発事故以降は、さらに設定レベルが上げられました。原子力の可能性が知られれば、アップルやグーグル、あるいはマイクロソフトを立ち上げたような優れた集団が登場してくるものと考えています。
幸運にも、原子力関係者の中には教育を受けた才気あふれる人材もいます。さらに米国では政府の資金提供を受けた特別の実験も行われています。イノベーションの基礎となる技術の大半は、よく理解され、使いこなされるようになりつつあります。
私たちは莫大な量の原子力開発を一から始めるわけではありませんが、さらに開発を進めていくことが必要です。そして適切な規制枠を設定し、何を行う必要があるかをはっきりと理解できるように知れば、この領域で試されている素晴らしいアイデアを、よりいっそう実現に向けて推進することが可能になります。
「国際協力によるコスト引き下げがイノベーションの鍵=ビル・ゲイツ、福島事故後の原子力エネルギーを語る(下)」に続く。
(2012年10月29日掲載)
関連記事
-
2014年3月のロシアによるクリミア編入はEUに大きな衝撃を与えた。これはロシア・ウクライナ間の緊張関係を高め、更にEUとロシアの関係悪化を招いた。ウクライナ問題はそれ自体、欧州のみならず世界の政治、外交、経済に様々な影響を与えているが、EUのエネルギー政策担当者の頭にすぐ浮かんだのが2006年、2009年のロシア・ウクライナガス紛争であった。
-
2013年6月14日に全米で公開された、原子力を題材にしたドキュメンタリー映画「パンドラの約束(Pandora’s Promise)」を紹介したい。筆者は抜粋の映像を見たが、全編は未見だ。しかし、これを見た在米のエネルギー研究者から内容の報告があったので、それを参考にまとめた。この映画の伝える情報は、日本に必要であると思う。
-
北朝鮮の1月の核実験、そして弾道ミサイルの開発実験がさまざまな波紋を広げている。その一つが韓国国内での核武装論の台頭だ。韓国は国際協定を破って核兵器の開発をした過去があり、日本に対して慰安婦問題を始めさまざまな問題で強硬な姿勢をとり続ける。その核は実現すれば当然、北だけではなく、南の日本にも向けられるだろう。この議論が力を持つ前に、問題の存在を認識し、早期に取り除いていかなければならない。
-
田原・政権はメディアに圧力を露骨にかけるということはほとんどない。もし報道をゆがめるとしたら、大半の問題は自己規制であると思う。
-
原子力規制委員会は24日、原発の「特定重大事故等対処施設」(特重)について、工事計画の認可から5年以内に設置を義務づける経過措置を延長しないことを決めた。これは航空機によるテロ対策などのため予備の制御室などを設置する工事
-
GEPRを運営するアゴラ研究所は毎週金曜日の午後9時から、インターネットの映像配信サービス、ニコニコ生放送で「アゴラチャンネル」という番組を放送している。22日は、アゴラ研究所の池田信夫所長をホスト、元経産官僚の石川和男氏をゲストにして「原発停止、いつまで続く?」というテーマで放送した。
-
規制委の審査には、効率性だけでなく科学的、技術的な視点を欠くとの声も多い。中でも原発敷地内破砕帯などを調べた有識者会合は、多くの異論があるなか「活断層」との判断を下している。この問題について追及を続ける浜野喜史議員に聞く。
-
アリソン教授は、GEPRに「放射線の事実に向き合う?本当にそれほど危険なのか」というコラムを寄稿した。同氏は冷戦構造の中で、原子力エネルギーへの過度な恐怖心が世界に広がったことを指摘した上で、理性的に事実に向き合う必要を強調した。(日本語要旨は近日公開)
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間















