海外の論調から「ドイツの風力発電による負荷で、東欧諸国が停電の危機」 — 米通信社報道

風力発電の風車(東京電力提供)
「ドイツが余剰電力を望まない隣国に垂れ流し、今年の冬には反目が一層深まるであろう」「東欧が停電の危機にある」。米系経済通信社のブルームバーグが、ドイツの風力発電の拡大で近隣諸国が悪影響を受けている状況を10月26日に伝えた。記事は「ドイツの風力発電による負荷で、東欧諸国が停電の危機」(Windmills Overload East Europe’s Grid Risking Blackout)。
再生可能エネルギーの中で発電コストが比較的低い風力は脱原発の世界各国でその成長が期待されている。脱原発の手段としてこの種のエネルギーシフトを進める日本では特にそうだ。しかし風力が全発電量に占める割合が8%(2011年)を占めるドイツで顕在化した問題は、今後の日本に参考となるだろう。
東欧と独の送電が結びつき、電力が過剰に流れる
「ドイツは問題があることを認識している。しかし問題の解決には多額のコストが掛かるため、ドイツ政府は解決の政治的意図を持っていない」、「したがって私たちは事故やシステム崩壊を避けるために一方的な防護措置を取ることを余儀なくされている」。記事でチェコ通商産業省の幹部は語った。冬場は欧州では風が強まるが、チェコなどの東欧諸国は、一時的な電力網の切断を検討しているという。
電気は大量に貯めることができないため、発電量と使用量が均衡することが必要だ。需給ギャップを放置すると、大規模停電などの弊害が起こる。しかし、自然任せの風力では、発電分が即座に送電網に流れてしまう。しかもドイツは再生可能エネルギーの買取制度を導入している。発電事業者は電気を売ろうとし、国も負担を避けるために海外への売電を進めている。その方法が、コストが一番安くなるためだ。
現時点で、世界にある発電用風車は20万基以上、建設費は海上を含めて時価総計4600億ドル(37兆円)と推計される。記事によれば、ドイツの送電システムを再生可能エネルギー対応のために、容量と技術の拡張・改善すると、320億ユーロ(3兆2000億円)のコストが掛かると今年5月にドイツの4大送電会社が試算した。
ドイツの風力発電所はバルト海沿岸の北部に偏在。そこと西部と南部の工業地帯の送電網は未整備だ。扱えない分が出てくると、その電力は送電網のつながるチェコやポーランドに流れ込んでくる。今年2月にバルト海で強い風が吹いた時にはドイツの送電網が崩壊寸前となり、チェコとポーランドは自国の送電網を一時的に切り離した。
脱原発政策も影響−「ドイツ人は『ただ飯』を食べている」チェコ人
さらに記事は、2022年までに原発を止めるというドイツ政府の政策が、「問題をさらに悪化させている」と指摘。問題があっても風力発電に頼らざるを得ないためだ。
記事によれば、ドイツの送電会社の担当者は「チェコとポーランドの運営者が市場とシステムの安全問題を心配していることを十分理解している。私たちは前向きの解決方法を追及している」と述べた。しかし、この発言と異なり、ポーランドとチェコの電力、送電会社は批判を強める。
記事によれば、ポーランドの電力会社の幹部は次のように語っている。「私たちが取っている対処方法は高いコストに付くものであり、時に十分でない場合もある」「発電所のスケジュールをこちらが調整しなければならない」。
またチェコの電力会社幹部は述べる。「ドイツ人は私たちのインフラを過剰に利用している。現時点で言えば、彼らはただ飯(めし)を食べている」。また、ドイツの電力が不足した場合に、先に同国と共通電力市場をつくったオーストリアの電力が買われて、チェコの電力が閉め出されてという。「私たちの国の送電網を利用しているのに、こちらの電力は必要とされない。誰が金を払ってくれるのだろうか。これこそ差別だ」とこのチェコ人幹部は述べていた。
日本への教訓−−風力増加のコストとリスクの検証を
日本では民主党政権が9月にまとめた「革新的・エネルギー環境戦略」で、再生可能エネルギーの全発電量に占める割合を、現在の5%(水力含む)から、30年までに30%まで増やす目標を掲げた。しかし、その文章では、再生可能エネルギーの拡大によるデメリットが書かれていない。
日本は孤立した島国であるために、欧州のように電力網で各国が結びつかず、そこで国益がぶつかり合う状況にはなっていない。しかし各地域での独占状態にある電力会社間での送電網は十分な容量を持って結びついていない。
日本で風力発電の適地は、北海道北部と東北太平洋岸に偏在している。ここと大消費地の関東圏と結びつける電力網整備の議論が放置されたまま、この地域での風力発電の振興が計画されている。一例だが、津軽海峡を挟んだ北海道と東北を結ぶ送電線を整備するだけで最低で約3000億円の工事費が必要とされている。
再生可能エネルギーのメリット、そして良いイメージだけに注目してはならない。欧州で起こっている問題を精査して、日本に教訓を取り入れることが必要ではないだろうか。
(アゴラ研究所フェロー・石井孝明)
(2012年10月29日掲載)
関連記事
-
「原発は危険だ。だからゼロに」 — 菅元首相の発言から考える(上)で示された菅氏の発言を、どのように解釈するべきであろうか。そこからうかがうかぎり、菅氏はエネルギーについて、誤った、もしくは片寄った考えを数多く信じていた。もし首相として、それらに基づいて政策を決断していたのなら、おそろしいことだ。
-
全国の電力会社で、太陽光発電の接続申し込みを受けつけないトラブルが広がっている。これは2012年7月から始まった固定価格買い取り制度(FIT)によって、大量に発電設備が設置されたことが原因である。2年間に認定された太陽光発電設備の総発電量は約7000万kW、日本の電力使用量の70%にのぼる膨大な設備である。
-
チェルノブイリ事故によって、ソ連政府の決定で、ウクライナでは周辺住民の強制移住が行われた。旧ソ連体制では土地はほぼ国有で、政府の権限は強かった。退去命令は反発があっても、比較的素早く行われた。また原発周囲はもともと広大な空き地で、住民も少なかった。
-
アゴラ研究所・GEPRはインターネット放送「言論アリーナ」を運営している。東日本大震災、そして福島第一原発事故から4年となる、3月11日に「なぜ正確な放射能情報が伝わらないのか-現地視察した専門家の提言」を放送した。
-
福島第一原発をめぐる汚染水対策も進んでいる。事故当初は外部からの放水で使用済み核燃料や原子炉を冷却した。そして、事故直後に海水を引き原子炉を冷却した。そこで使った汚染水を取り除き、保管している。また4つの原発は原発構内の中で低地にある。その周囲から地下水が推定1日400トン流れ込む。また雨水でも増える。
-
1.太陽光発電業界が震撼したパブリックコメント 7月6日、太陽光発電業界に動揺が走った。 経済産業省が固定価格買取制度(FIT)に関する規則改正案のパブリックコメントを始めたのだが、この内容が非常に過激なものだった。今回
-
日本原子力発電の敦賀原発2号機の下に、原子力規制委員会は「活断層がある」との判断を昨年5月に下した。日本原電は活断層を否定する資料を提出し、反論を重ねた。規制委は今年6月21日に追加調査会合を開いたが、原電の主張を真摯に受け止めず、議論を打ち切ろうとしている。
-
(GEPR編集部より)原発ゼロの夏を否定的に見る意見もある。日本の鋳造業と電力危機の関係を聞いた。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間
















