今週のアップデート — ビル・ゲイツ、原子力を語る(2012年10月29日)
今週のアップデート
1)マイクロソフト社会長であるビル・ゲイツ氏は「ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団」を運営し、地球規模の社会問題の解決のための活動をしています。
今回ゲイツ氏から、自分の意見や、社会に役立つ情報を集めたサイト「ゲイツ・ノート」(The Gates Note)で、公開された映像資料「福島事故後の原子力エネルギー(Nuclear Energy After Fukushima)」の日本語訳の公開を許諾いただきました。GEPRは2つの原稿にまとめて提供します。
ビル・ゲイツ、福島事故後の原子力エネルギーを語る
(上)とてつもないイノベーションの可能性がここにある
(下)国際協力によるコスト引き下げがイノベーションの鍵
ゲイツ氏はエネルギーと原子力の可能性と希望を、ビジネスマンらしい冷静な視点で語っています。
2)「現実から程遠い「革新的エネルギー・環境戦略」- 原発ゼロの夢想」
一方で日本政府は1930年代に原発ゼロの目標を「革新的エネルギー・環境戦略」という文章の中で今年9月に掲げました。ただし、その内容がずさんであることは、これまでGEPRで指摘してきました。この文章について、再生可能エネルギーの導入、また原油など化石燃料の状況の視点からの分析を、エネルギーコンサルタントの小野章昌さんに寄稿いただきました。
原子力について、エネルギー不足などの世界規模の問題の解決に利用しようとしている世界の潮流と、日本の動きは対照的です。
3)「海外の論調から「ドイツの風力発電による負荷で、東欧諸国が停電の危機」−米通信社報道」
GEPR編集部は米経済通信社のブルームバーグの配信記事のまとめを編集、紹介します。ドイツは再生可能エネルギーの振興策によって、風力発電が急増。しかし、自然現象でコントロールできないために、近隣諸国に電力を流し、それが問題になっています。
今週のリンク
1)「エネルギー計画越年へ」(読売新聞10月27日記事)。エネルギー基本計画は年内にまとまる予定でしたが延期される方向です。この文書は、政府の電源設置やエネルギーの調達の基本行動を定めるものです。2010年に決まりましたが、福島原発事故を受けて12年中に見直す意向でした。
しかし政府の原発政策が混乱したため遅れ、しかも政権交代の可能性のある衆議院議員選挙の実施めどが立たないため、先送りされそうです。
原発停止によって、2011年度は、原発の火力の代替費用として年3兆円が国外に流失。電力を初め、石油、ガスなどのエネルギー産業の各社も来期の予定を組みづらいと、困惑する声を聞きます。一連の無策と混乱で、日本国民全体が悪影響を受けています。
2)「生命にかかわる北海道の節電 無責任政府、冬の需給問題が深刻化」(産経Biz 10月28日記事)。原発が止まったままの北海道で冬場の寒気にどのように対応するか懸念が広がっていることを紹介しています。
3)「オバマとロムニーの石炭戦争−シェールガス増産の中、石炭支援は可能か」(ウェッジインフィニティ)。
GEPRに記事を転載させていただいた、山本隆三富士常葉大学教授の論考です。米国の石炭産業は、従業員数は10万人と少ないものの、政治的な力を持ち、米国のエネルギー政策に影響を与えてきました。11月の米大統領選では接戦が伝えられます。石炭の使用に規制を加えたオバマ政権は、この業界にすり寄る姿勢を示しているそうです。
3)Fish Off Japan’s Coast Said to Contain Elevated Levels of Cesium(日本近海の魚介類、放射性レベル下がらず)(ニューヨーク・タイムズ10月25日記事)。英科学誌サイエンスの調査を引用して、魚介類のセシウム汚染が、事故前より高い水準で推移している事を示したものです。
同調査についてはAFPニュースも10月26日の記事で伝えています。「福島沖の魚介類、放射性レベル下がらず−国際調査」。
4)「大飯原発“「活断層ではない」を覆すデータなし”」(NHKニュース 10月29日)
原子力規制委員会は地震対策の分析と各地の原発の活断層調査をする方針を表明しています。そして関西電力大飯原発(福井県)について活断層調査が行われる方針です。関電は「「活断層ではない」を覆すデータなし」と中間報告をまとめ、提出する意向です。
同委員会の田中俊一委員長は、活断層があった場合には「原発を止めていただく」と明言しており、その調査結果が注目されています。
5)日本航空・稲盛名誉会長「原子力を使っていかなければならないと、訴えていくべき」(BLOGOS10月24日記事)。
稲森和夫氏が会見でエネルギー政策に言及。その中で原発を巡る発言が注目を集めました。
「今からでも遅くないから、赤裸々に全部国民に(原子力の問題を)知らせながら、なんとか原子力を使っていかなければならないという事を訴えていくべきではなかろうと、私は思っています」。
太陽光発電パネルメーカーとして国内トップの京セラを創業、この問題にかかわってきた財界人であるため重みのある発言です。
6)原子力規制委員会が10月24日、福島原発事故と同程度の放射性物質が事故で起こったときに、どのように拡散するかのシミュレーションを公表しました。「拡散シミュレーションの試算結果」。
安全情報を集めたニュースサイト「スキャンネットセキュリティ」で、一覧図を見ることができます。

関連記事
-
日本政府は第7次エネルギー基本計画の改定作業に着手した。 2050年のCO2ゼロを目指し、2040年のCO2目標や電源構成などを議論するという。 いま日本政府は再エネ最優先を掲げているが、このまま2040年に向けて太陽光
-
新しい日銀総裁候補は、経済学者の中で「データを基に、論理的に考える」ことを特徴とする、と言う紹介記事を読んで、筆者はビックリした。なぜ、こんなことが学者の「特徴」になるのか? と。 筆者の専門である工学の世界では、データ
-
COP26は成功、しかし将来に火種 COP26については様々な評価がある。スウェーデンの環境活動家グレタ・トウーンベリは「COP26は完全な失敗だ。2週間にわたってこれまでと同様のたわごと(blah blah blah)
-
本年5月末に欧州委員会が発表した欧州エネルギー安全保障戦略案の主要なポイントは以下のとおりである。■インフラ(特にネットワーク)の整備を含む域内エネルギー市場の整備 ■ガス供給源とルートの多角化 ■緊急時対応メカニズムの強化 ■自国エネルギー生産の増加 ■対外エネルギー政策のワンボイス化 ■技術開発の促進 ■省エネの促進 この中で注目される点をピックアップしたい。
-
めまいがしそうです。 【スクープ】今冬の「節電プログラム」、電力会社など250社超参戦へ(ダイヤモンド・オンライン) 補助金適用までのフローとしては、企業からの申請後、条件を満たす節電プログラム内容であるかどうかなどを事
-
シンクタンク「クリンテル」がIPCC報告書を批判的に精査した結果をまとめた論文を2023年4月に発表した。その中から、まだこの連載で取り上げていなかった論点を紹介しよう。 ■ IPCCでは北半球の4月の積雪面積(Snow
-
混迷と悪あがき ロシアのウクライナ侵攻後、ドイツの過去10年に亘るエネルギー政策「エネルギーヴェンデ(大転換)」が大失敗したことが明々自白になった。大転換の柱は、脱原発と脱石炭(褐炭)である。原発と褐炭を代替するはずだっ
-
猪瀬直樹氏が政府の「グリーン成長戦略」にコメントしている。これは彼が『昭和16年夏の敗戦』で書いたのと同じ「日本人の意思決定の無意識の自己欺瞞」だという。 「原発なしでカーボンゼロは不可能だ」という彼の論旨は私も指摘した
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間