放射線とチェルノブイリ事故処理作業員間の慢性リンパ性およびその他白血病のリスク(要旨日本語訳)
(GEPR編集部より)米国の医学学術誌に掲載された調査報告の要旨の日本語訳を掲載する。米国の研究チーム、ウクライナの放射線医学国際研究所が行ったもの。チェルノブイリの除染作業員は、白血病において発病のリスク向上が観察されたという。ただし、その被曝の状況は、要旨だけでは明確に示されていない。また白血病の発症者は調査対象約11万人中137人と少ないことにも、注意が必要である。
(以下本文)
背景:電離放射線の急性高線量被曝による大部分の種類の白血病のリスクはよく知られているが、長期間被曝に伴うリスクや放射線と慢性リンパ球性白血病(CLL)の間の関係性は明白でない。
目的: 長期間被曝から低線量までの電離放射線被曝のCLLおよび非CLLの相対リスクを推定する。
方法: コホート内症例対照研究(編集部注・被験者とそれ以外の母集団を比較する疫学調査の手法)が、1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故のウクライナ人事故処理作業員クリーンアップ作業員11万0645人に対して行われた。1986年から2006年までに事故由来の白血病と診断された症例は、専門家委員団の血液学者・血病理医委員会によって確認された。照査は居住地と出生年別の患者と比された。個々の骨髄放射線量は、不確実性評価による現実的な分析的線量復元(RADRUE)メソッドにより推定した。放射線量グレイあたりの白血病の過剰相対リスク(以下、ERR/Gy)を推定するために条件付ロジスティック回帰モデルを使用した。
結果: 全ての白血病において有意な線形線量反応が認められた(137ケース中、ERR/Gy=1.26(95%信頼区間0.03, 3.58)) 。CLLおよび非CLL双方にて非有意なポジティブ線量反応があった(ERR/Gy= 0.76(CLL) 、1.87(非CLL))。20例を除く、直接対面インタビューによる主要分析による。
結論: チェルノブイリ事故後のクリーンアップ作業による低線量および低線量率の放射線被曝は、白血病のリスクの有意な上昇と関連していた。これは、日本の原爆被爆生存者の推定値と統計的に一貫していた。主な分析に基づき、我々は、CLLおよび非CLLは、双方共に放射線感受性であるという結論に達した。
受理: 2012年1月21日、2012年10月24日承認、2012年11月8日出版。
(2012年11月12日掲載)

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