世界のエネルギー事情、ガスの大量供給で変化が進行中 — IEAリポート

2012年11月26日 14:00
アバター画像
経済ジャーナリスト

■世界のエネルギーの議論をリードするIEAリポート

国際エネルギー機関(IEA)は毎年11月にリポート「ワールドエネルギーアウトルック」(概観)を公表している。その2012年版の「報道向け要約」を紹介し、日本への影響を考える。同リポートは、世界のエネルギーの主なポイントを示し、その議論をリードする。

同リポートでは、3つのポイントを掲げている。

  1. 世界のエネルギー体制の基盤変化
  2. エネルギー価格の高止まりによる世界経済への悪影響
  3. エネルギー体制が持続可能でないことの兆候

「エネルギー体制の基盤変化」で注目すべき動きは、米国とイラクの動向だ。シェールガスの採掘拡大によって、米国が2017年ごろに天然ガスの輸出国へ転換する可能性がある。またイラクの原油供給が拡大する見通しが示された。1991年の湾岸戦争以来、イラクの原油は原則として国際市場に供給されていない。

しかし、その動きは、まだ世界全体のエネルギー価格に影響を与えていない。ガス価格は、欧州で米国比5倍、アジア比8倍になっている。また持続可能性への疑義とは、温室効果ガスの急増、さらに13億人の人々が生存のための最低限のエネルギーを受け取れない現実があることだ。

米国が2017年にガス輸入に転換

興味深い情報がある。図1は2010年と35年における原油とガスの輸入量の割合だ。日本はいずれもほぼ全量輸入。中国、EU諸国もその割合を増やす一方で、米国だけは低下し、ガスでは輸出国になる。これはシェールガスの生産増によって、米国でエネルギー源のガスシフトが進む予想があるためだ。


図1 2010年と35年の原油、ガス

また2035年の家庭用の電力価格の見通しが示されていた。日本は中国の4倍、OECD加盟国平均の8割増になりそうだ。原発の割合など試算の前提条件は示されていないが、日本は将来も他国との比較で電力価格が高いという、家計にも産業にも厳しい状況は変わりないだろう。


図2 2035年の家庭向け電力価格

また同リポートは2035年までの世界の原子力発電量の増加予想を、10年に比べ約58%増とし、昨年発表した70%超の増加から大幅に下方修正した。福島の原発事故を受けて、日本だけでなく独仏などの先進国で、「原子力に期待される役割は縮小している」と指摘した。しかし電力の供給不足に直面しかねない、途上国の原発の建設意欲は変らないという。

米国の外交はエネルギーで変るのか

以下、筆者の私見を述べる。

日本では原発事故があったためか、エネルギー問題で「原発の是非」を中心にした議論が行われている。しかし世界のエネルギー問題の分析では、原発は問題の一部にすぎない。エネルギー問題の解決では、「政策担当者は、エネルギー(Energy)、環境(Environment)と経済(Economy)を調和させる、難しい問題に取り組まなければならない」と指摘している。

そしてシェールガスの供給、イラク産原油の供給というエネルギー価格の下落要因が登場した。無資源国日本にとっては朗報であろう。日本では今後長期にわたって、発電コストが他の方式より安いとされる原発が、政治的に建設できないであろう。

ただし不透明な要素も増す。エネルギーが国産化する米国は、中東などへの政治・軍事的関与を減らす可能性が高い。一方で日本のこの地域におけるエネルギーの依存度は高いままだ。そして日本には、対外的に展開できる軍事力がない。この状況では、日本経済のエネルギーリスクは高まっていくだろう。

日本に生きる私たちは、エネルギーの未来についての期待と不安の双方の要因の双方を直視して、政策や日常生活への反映を重ねなければならない。

(2012年11月26日掲載)

This page as PDF

関連記事

  • アゴラ研究所は、9月27日に静岡で、地元有志の協力を得て、シンポジウムを開催します。東日本大震災からの教訓、そしてエネルギー問題を語り合います。東京大学名誉教授で、「失敗学」で知られる畑村洋太郎氏、安全保障アナリストの小川和久氏などの専門家が出席。多様な観点から問題を考えます。聴講は無料、ぜひご参加ください。詳細は上記記事で。
  • 米国のテレビ番組配信会社のAXSテレビは米CBSの著名キャスターだったダン・ラザー氏をアンカーマンとする「ダン・ラザー・リポート」を提供している。11月の番組で10月末に米国東部を襲ったハリケーン・サンディでニューヨーク州とその周辺の電力復旧が長期化していることを伝えた。その理由を、被害を受けた多くの州で行われた電力自由化が影響していると指摘した。
  • 東北電力原町火力発電所(福島県南相馬市)を訪れたのは、奇しくも東日本大震災からちょうど2年経った3月12日であった。前泊した仙台市から車で約2時間。車窓から見て取れるのはわずかではあるが、津波の爪痕が残る家屋や稲作を始められない田んぼなど、震災からの復興がまだ道半ばであることが感じられ、申し訳なさとやるせなさに襲われる。
  • 筆者がシェール・ガス革命について論じ始めて、2013年3月で、ちょうど4年になる。米国を震源地としたシェール・ガス革命に関して研究を行っていたエネルギー専門家は、日本でも数人であり、その時点で天然ガス大国米国の復活を予想したエネルギー専門家は皆無であった。このようにいう筆者も、米国におけるシェール・ガス、シェール・オイルの生産量の増加はある程度予想していたものの、筆者の予想をはるかに上回るスピードで、シェール・ガスの生産コストが低下し、生産量が増加した。
  • 自民党は「2030年までに温室効果ガスの排出量を2013年度比で26%削減する」という政府の目標を了承したが、どうやってこの目標を実現するのかは不明だ。経産省は原子力の比率を20~22%にする一方、再生可能エネルギーを22~24%にするというエネルギーミックスの骨子案を出したが、今のままではそんな比率は不可能である。
  • 10月21日(月)、全学自由研究ゼミナール「再生可能エネルギー実践講座」3回目の講義のテーマは、地熱発電です。地熱は季節や天候に関係なく安定した自然エネルギーで、日本は活火山数119個を有し、地熱資源量は2347万kWと米国、インドネシアに次ぐ世界第3位の地熱資源大国です。
  • 今年5月9-13日、4年に一度開催される放射線防護学の国際会議IRPA(国際放射線防護学会:International Radiation Protection Association)が南アフリカ共和国で開催された。IRPA14ケープタウン会議である。私は福島軽水炉事象の20km圏内の低線量の現実を報告するために、片道30時間をかけて現地へ向かった。福島は国際核事象尺度INESでレベル6であると評価引き下げを提案した私の報告は議長をはじめ参加した専門家たちの賛同を得た。
  • 福島原発事故以来、東京都では3回の都知事選が行われた。脱原発を訴える候補はいたが、都民はそれを争点と重視しなかった。今年2月の選挙で都知事に選ばれたのは「常識人」の舛添要一氏だ。政治に翻弄されがちだった都のエネルギー政策はようやく落ち着きを取り戻した。そしてユニークな再エネ振興、省エネ対策が成果を上げ始めている。選挙の後に報道されない、「日常」の都のエネルギー政策を紹介する。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑