ハリケーン・サンディ、電力復旧遅れの理由 — 報道番組「ダン・ラザー・リポート」より
米国のテレビ番組配信会社のAXSテレビは米CBSの著名キャスターだったダン・ラザー氏をアンカーマンとする「ダン・ラザー・リポート」を提供している。11月の番組で10月末に米国東部を襲ったハリケーン・サンディでニューヨーク州とその周辺の電力復旧が長期化していることを伝えた。その理由を、被害を受けた多くの州で行われた電力自由化が影響していると指摘した。
現地にいるエネルギーの研究者から番組内容のリポートの提供を受けた。その内容を紹介する。
ニュージャージー州での復旧の遅れ —「電力会社は顧客でなく儲けを気にしてる」
エネルギー省によればサンディによる停電件数は850万件以上。ニューヨーク州で160
万件、ニュージャージー州で260万件が停電した。ニュージャージー州での停電のほとんどがジャージー・センター・パワー・アンド・ライト社(JCP&L社)管内で発生した。同社はオハイオ州に本社のある電力大手ファースト・エナジー社の傘下にある。この電力グループは復旧の遅れで批判を集めた。
リポートでは停電から復旧が遅れたことへの怒りを地元住民が述べていた。「JCP&L社の言うことはあいまいで信用できない」「同社はコミュニケーションになっていない。これまで3回も嵐に遭ったが、全く改善 していない」「被災して8日間はまったく作業車両をみなかった。何をしているのか」「数年前はJCP&L社は私が盲目であることを知っており、停電すると電気がついているか確認しに来てくれた。また私がいるかドアをノックして訪ねてくれた。しかし会社が成長してどんどん大きくなると、個別に訪ねてくれなくなった。彼らは顧客ではなく儲けを気にするようになった」。
ニュージャージー州マナスカン町長のジョージ・デンプシー氏は次のように述べた。 「作業用トラックが15台ほど町にやってきた、朝10時、何をしているのかと聞くと、『どこでどのような作業をするかJCP&L社の指示を待っている』と言う。彼らは前日には別の町で待機していたそうだ。電力会社は彼らに朝食を与え、昼食を与えたのち、午後になってやっと仕事に送り出したという。ひどい手際だ」。
「マナスカン町の非常用電源は朝3時に停止した。役場の非常用電源と通信を失ったときでさえも、JCP&Lから全く情報が入らなかった」「JCP&L社は『復旧作業中』としか言わない。ファースト・エナジー社がJCP&L社を買収するまでは、彼らはもっと多くの電気工事担当の社員を雇っていたが、解雇してしまった。JCP&L社は設備の手入れをしない。ファースト・ エナジー社は金がすべてだ。サービスではない。彼らは電気を必要とする顧客にサービスを提供しない」。
電力会社の説明 —「市民はスイッチを入れれば灯りがつくと考えている」
一方で、JCP&L社のスポークスマンであるロン・モラノ氏は次のように説明した。「これまでに6000本の電柱の建て替えと400マイル(約640キロメートル)の電線を張り替え、復旧作業の一環として6万5000本以上の樹木を除去する必要があった」 「これまでにない規模で復旧作業に経営資源を投入している。8500人の電工と1500人の伐採作業員を投入しており、州内で合計1万2000人以上の人員がひとつの目標『すべてのお客さまの電気を可能な限り迅速安全に復旧する』に向けて取り組んでいる」。
「どのように電力システムが機能していて、どれだけの作業と時間と努力が復旧につぎ込まれているか人々は理解していない。当社はこれについての啓蒙を行っている。電力システムの維持は一般市民にはなじみのないことだ。スイッチを入れれば灯りがつくと考えている。こうした大災害に遭うと2日や3日では顧客100万件もの電気を復旧することはできない」「情報提供についての非難は承知している避難している。しかし被災した240自治体と100万件以上の顧客に正確かつ明確に情報を適切に提供することは難しい」
電力自由化とコスト削減が同時進行
番組は、ニューヨーク州の主席エネルギー顧問で、今はコンサルタントのスティーブ・ミニトック氏の解説も伝えた。
同氏が子供のころの1965年にもニューヨークで大停電が発生したが、生活にはそれほど影響がなかった。しかし「現在の生活は電気に大きく依存しており、市民は電気が止まると怒るし、食料を買うことを含めて本当に何もできなくなる」
かつて米国の各州で電力会社は発送電を統一的に管理し、地域独占を認められる例が多かった。しかし各州は90年代に発送電分離を軸にした電力自由化を実施した。多くの電力会社が発電所を強制的に売却させられたとき、組織の合理化と人員削減、つまり会社規模の縮小を図った。送電部門はコスト削減の対象になり、災害に対応できる十分な装備もなく、社員もいない組織になってしまったという。
「適切に訓練され、電力設備がわかり、地元の土地勘がある人員を十分に確保していることが、電力での災害対策の前提だ。ところが市民の電力依存度は高まっているのに、20年ものあいだ、送配電会社は規制当局や政治家、ウォールストリート(投資家)から『最優先すべきはコスト削減』と言われ続けてきた。90年代には電力会社には全米で45万人の従業員がいた。現在は半数以下の約22万人。JCP&L社の従業員は1998年で1650人いたが現在は1100人にすぎない」。
発送電分離を議論する日本への参考に
現在、日本国内でも発送電分離が議論されている。それを実施した米国で起こったのは、「企業規模の縮小と資金力の低下」「社員数の低下」「社会的、政治的な発言力の低下」であったようだ。
日本の議論では、発送電分離を行うと発電で新規参入がしやすいため、競争が厳しくなり、そのために売電コストが下がり、消費者に利益がもたらされるという主張が多い。一方で、地域独占性が残る送配電部門の影響は少ないと推測されてきた。
ところが米国では送配電部門では規制当局や政治家、投資家によるコスト削減への圧力が強まり、それが災害時の復旧作業に深刻な影響を与えるほど大きくなったようだ。
東日本大震災では、福島第一原発事故を引き起こした東京電力の失態が注目されてしまう。しかし、東京、東北電力は1週間で送配電網を復旧し、計画停電も限定的だった。これらの見事な対応は評価をされるべきだ。
米国の電力での災害復旧状況と日本のそれを対比して、発送電の一体運用のメリット、デメリットを慎重に検証する必要があるだろう。
アゴラ研究所フェロー 経済ジャーナリスト 石井孝明
(2013年1月7日掲載)
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