無駄の「気づき」を継続させる 中上英俊氏【2014年電力危機】
(GEPR編集部より)広がった節電、そして電力不足の状況をどのように考えるべきか。エネルギーコンサルタントとして活躍し、民間における省エネ研究の第一人者である住環境計画研究所会長の中上英俊氏に、現状の分析と今後の予想を聞いた。
このインタビュー記事は月刊エネルギーフォーラム7月号に掲載されたものを加筆修正した。転載を許諾いただいた、中上氏、ならびに同社関係者の方に感謝を申し上げる。
「金を払えばエネルギーを使っていい」の誤り
-広がった節電をどのように評価するべきか。
エネルギーとの付き合い方で一人ひとりに「気づき」がもたらされた結果でしょう。これまでの日本社会では「金を払ったからエネルギーを自由に使っていい」という発想があったように思えます。そうではなく、エネルギーを無限に使えないという気づきです。
夏以外の季節でも節電が進み、さらにガスや石油の使用が抑制される傾向にあります。そして公共施設や大型店舗、各家庭では照明の削減や冷暖房の効果を緩めるなどの節電が行われています。しかし困ったという声はそれほど大きくなりません。これはこれまでのエネルギー使用で、無駄が多かったことの証(あかし)でしょう。寒さえ感じる冷房、ピカピカの店先のディスプレイなどは、必要なかったのです。
福島原発事故と東日本大震災という悲劇が、変化のきっかけになったのは悲しいことですが、この前向きな変化は定着させるべきです。
-一方でマイナス面はどうだろうか。
社会的コストが増えたことです。原発の停止で電力料金が上昇し、電力多消費産業の経営が厳しくなっています。市民生活でも家計に占めるエネルギー支出は、震災前の4%から6%程度に上昇しました。年支出400万円とすれば10万円前後と、かなりの負担増です。米国では3%、欧州では4%程度で、世界的にみても高い割合です。
また3年が経過して、電力不足に対する危機意識が薄れている面があるようです。もう一回「はちまきを絞め直す」時でしょう。
-節電の定着には何をすればよいか。
節電、省エネを語る時に、誰もが決め手を探しすぎます。10%、15%などの大幅な削減策ばかりを期待します。しかし、そんな削減策はすでに出尽くし、なかなかありません。実行可能な、小さな削減策をコツコツ積み重ねるしか対策はありません。それには人々の気づき、行動の変化、さらにはそれらをうながす政策や省エネ機器の開発などを繰り返すサイクルをつくることが必要です。
変化の定着には、一人ひとりの意識の変化も必要です。消費者の話を聞くと「照明をLEDに変えた」とか「BEMS(ビルエネルギー管理システム)を入れた」と、機器の購入で満足をする方がいます。「スイッチを消し、エネルギーを使わない」という行動がなければ、消費は大きく減らないのです。
-注目する政策は何か。
4月にまとまった政府の「エネルギー基本計画」では、エネルギーの使い方のデータベースの作成計画が公表されました。30年前から私が訴えてきたことがようやく形になります。
日本では各業界の平均値など大きな数字で節電が語られました。「サービス産業」などのくくりです。しかしもっと細分化しなければなりません。例えば寿司屋とラーメン屋では、同じ飲食業でもエネルギーの使い方が違います。省エネは、具体的に考えなければ意味がありません。他の先進国ではこうしたものが整備され、政策に活用されています。
家電製品の省エネ規制をその時の最良の製品に合わせ、それを目指して各メーカーの努力をうながす「トップランナー方式」など、日本の政策には優れたものもいくつもあります。そして日本の家電製品、そして産業界の省エネの能力は、今でも世界に比べて優れています。こうした優位性に甘んじることはなく、改善を繰り返す地道な取り組みを重ねるべきです。
「原発ゼロ」の供給不足、功罪の分析が必要
-「原発ゼロ」の夏が、今後も続きそうだ。
経済への悪影響を懸念しています。省エネを進めても原発ゼロという供給の大幅減少がありました。これには省エネだけで対応ができません。
福島原発事故以降、エネルギーへの関心が高まったことはよいものの、原発をめぐる議論ばかりが目立ちました。それも「ゼロ」か「推進」かの単純な話ばかりでした。エネルギーの問題は多様であり、「使われ方」や地球温暖化対策という大切な論点の議論は深まりませんでした。これは異常な状況です。統計に基づく冷静な議論、それに基づく政策を行うべきではないでしょうか。
-節電・省エネの流れをエネルギー業界はどのように受け止めるべきか。
エネルギー業界は、どの業種も規制緩和と国内需要の減少という厳しい状況にあります。そうだからこそ「原点に戻るべき」と、私は申し上げたい。エネルギー産業は「公益」を担うインフラ産業であり、その役割に期待する顧客の声を聞き直し、そのニーズに合わせたサービスを提供するということです。
最近のエネルギー業界では、厳しい環境の中で、販売増を追求する動きが目立っていました。もちろん利益の確保は大切ですが、顧客が本当に求めたサービスか、私は疑問を持っていました。
消費者の意識が変わるなかで、販売増だけではないサービスが必要になります。エネルギー業界には高い能力を持つ人材が多く、ノウハウを持ちます。この変化に合う新しいビジネスを作り出すことを期待しています。
(取材・構成 石井孝明 経済ジャーナリスト)
(2014年7月22日掲載)
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