トランプ関税は中国製PVを廃し米国エネルギー輸入で切り抜けよ

2025年04月26日 06:50
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

ホワイトハウスSNSより

トランプ政権は日本の貿易黒字を減らすように要求している。「自動車の安全規制が非関税障壁になっている」と米国が主張するといった話が聞こえてくる。

だが、どうせなら、日本の国益に沿った形で減らすことを考えたほうがよい。

日本の貿易黒字は年間9兆円である※1)。これを減らすのに、どのような方法があるか。

防衛費は現在年間8.7兆円で※2)、これをGDPの2%に増やすと12.2兆円になる。コルビー国防次官が主張してきたように3%まで引き上げるならば18.3兆円である。このうちいくらかは米国からの装備購入となるだろう。これは日本としても国益に沿った必要な支出と言えるかもしれない。

だがそれ以上に、エネルギーにこそ注目すべきだ。

日本政府は、脱炭素のためのグリーントランスフォーメーション(GX)実行計画を掲げている。ここでは10年で150兆円の投資を政策によって促すとしているから、これは毎年15兆円にもなる。

このGX実行計画の主な内容は、再エネやEVの推進だ。だが、いま中国の太陽光パネルの世界シェアは9割を超え、洋上風力発電の主要設備のシェアも6割から8割に達する。EVも中国が世界シェアを圧倒している。

つまりGX実行計画は、事実上、中国にお金を垂れ流す計画となっている。

トランプ関税の大きな狙いは、中国の不公正な貿易・投資慣行を是正することだとされる。ならば、このGX実行計画を止めることは、トランプ政権が望むところにも合致する。というより、このような計画を実施していること自体、トランプ政権にとっては看過しがたいことであろう。

さて日本政府はGX計画は経済成長をもたらすと強弁しているが、実際には、GX計画は高いエネルギーコストをもたらすので、日本経済には悪影響を及ぼす。

経産省系シンクタンクであるRITEの試算(p6)では2030年断面でのGDP損失は毎年30兆円と見込まれている。このようなGX実行計画を止めることはまさに日本の国益である。この一環としていま国会で審議中の、CO2総量規制を実現する排出量取引制度法案も廃案にすべきである。

その一方で、日本は米国からの化石燃料輸入を増やすとよい。

いま、日本の化石燃料輸入代金は年間27.4兆円に上る※3)。だがこのうち米国からの輸入は年間1.4兆円にすぎない※4)。

米国は歴史的にはあまり化石燃料を輸出してこなかった。だが近年、シェール技術の長足の進歩によって石油・ガス生産が急激に伸びてきた。トランプ政権は石炭生産の復活も掲げている。米国は世界一の石油・ガス生産国であり、石炭埋蔵量も世界一である。

この米国からの化石燃料輸入を増やすことで、日本は貿易黒字を大幅に減らす可能性がある。もちろん価格などの条件は逐一真剣に交渉しなければならない。よく取りざたされているアラスカのLNG開発が本当によい選択肢なのかどうかも個別の検討が必要だ。

そして経済性だけでなく、米国からのエネルギー輸入は、日本のエネルギー安全保障にとって望ましいという側面が重要だ。

資源の乏しい日本は、ほぼ化石燃料を全量、海外から輸入している。唯一の同盟国であり、強大な軍事力を持つ米国から一定のエネルギー輸入をしておくことは、台湾有事など、いざというときのエネルギー安全保障におおいに寄与する。米国は自国の国益も関わっているとなれば海軍を護衛に付けてでも日本にエネルギーを届けるだろう。

日本の化石燃料輸入代金27.4兆円のうち、例えば5分の1を米国からの輸入にあてれば、それだけで年間5.5兆円になる。現在の1.4兆円から4.1兆円の増である。これだけで日本の貿易黒字9兆円をほぼ半減する。

だがこれには、現行の日本政府のエネルギー基本計画が邪魔になる。同計画では、現在は全発電量の1割に過ぎない太陽光発電と風力発電の合計を、2040年には3割から4割に増やすとしている。もしこれを本当に実施すれば、その分、LNGなどの消費が減ることになり、米国産の化石燃料輸入の余地も少なくなる。

日本は中国にお金を垂れ流すGXを止め、米国からの化石燃料輸入に舵をきるべきである。これによって、対米黒字削減を、国益に適う形で実現することができる。

■

※1)財務省が 2025年4月17日に公表した 2024年度(2024年4月〜2025年3月)の通関ベース貿易統計速報で示された日本の対米貿易黒字額は9兆53億円であった。(参考:年度平均為替レートを1 ドル=約145円とすると、およそ620億ドル前後に相当)

※2)2024年12月27日に閣議決定された 2025年度(令和7年度)予算案。前年比 +9.4%(+7508億円)。

※3)通関統計HS27「鉱物性燃料等」=1,953億USD × 年平均レート140.5 円/USD ≒ 27.4兆円)。この内訳は以下のとおり

140.5 円/USD で換算
(ドル建て輸入額:JETRO『世界貿易投資報告2024』)

※4)直近の暦年 2024年(財務省2025-03-13公表「主要地域〔国〕別主要品別表 ― 輸入1-12月:確々報」)における米国由来HS27「鉱物性燃料等」輸入額は1.35兆円だった。その内訳をMOF「品目別国別表」+JOGMEC 価格統計から概算すると以下の様になる。

■

『データが語る気候変動問題のホントとウソ』

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • ロシアからの化石燃料輸入に依存してきた欧州が、ロシアからの輸入を止める一方で、世界中の化石燃料の調達に奔走している。 動きが急で次々に新しいニュースが入り、全貌は明らかではないが、以下の様な情報がある。 ● 1週間前、イ
  • (編集部より)国際ジャーナリストのモーリー・ロバートソン氏が急逝されました。アゴラのシンポジウムや番組でも、鋭くも知性に満ちた言葉を届けてくださった氏の、あまりに早すぎる別れに、編集部一同深い悲しみに暮れています。 本稿
  • 人間社会に甚大な負の負担を強いる外出禁止令や休業要請等の人的接触低減策を講ずる目的は、いうまでもなく爆発的感染拡大(すなわち「感染爆発」)の抑え込みである。したがって、その後の感染者数増大を最も低く抑えて収束させた国が、
  • エネルギー政策について、原発事故以来、「原発を続ける、やめる」という単純な話が、政治家、民間の議論で語られる。しかし発電の一手段である原発の是非は、膨大にあるエネルギーの論点の一つにすぎない。
  • 福島県内で「震災関連死」と認定された死者数は、県の調べで8月末時点に1539人に上り、地震や津波による直接死者数に迫っている。宮城県の869人や岩手県の413人に比べ福島県の死者数は突出している。除染の遅れによる避難生活の長期化や、将来が見通せないことから来るストレスなどの悪影響がきわめて深刻だ。現在でもなお、14万人を超す避難住民を故郷に戻すことは喫緊の課題だが、それを阻んでいるのが「1mSvの呪縛」だ。「年間1mSv以下でないと安全ではない」との認識が社会的に広く浸透してしまっている。
  • 2024年7月24日各新聞に「原発の建設費を電気料金に上乗せ、経産省が新制度け検討 自由化に逆行(朝日新聞デジタル)」などの報道がありました。 一方、キヤノングローバル戦略研究所杉山大志氏の「電気代が高い理由は3つ:みん
  • 米国エネルギー長官クリストファー・ライトの指示によって、気候危機説を否定する内容の科学的知見をまとめた報告書が2025年7月23日に発表された。タイトルは「温室効果ガス排出が米国気候に与える影響に関する批判的レビュー(A
  • GEPRは日本のメディアとエネルギー環境をめぐる報道についても検証していきます。筆者の中村氏は読売新聞で、科学部長、論説委員でとして活躍したジャーナリストです。転載を許可いただいたことを、関係者の皆様には感謝を申し上げます。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑