IPCC報告の論点㉖:CO2だけで気温が決まっていた筈が無い

2021年11月01日 07:00
杉山 大志
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。

acinquantadue/iStock

今回のIPCC報告では、新機軸として、古気候のシミュレーション分析があった。

それを見ると、あたかも、大昔の気温はもっぱらCO2濃度によって決まっており、それが計算機シミュレーションで再現できたかのようだ。

下図1 ” Box TS.2, Figure 1(a)” では、Early Eocene (イオシーン早期、5300~4900万年前。イオシーンは始新世と邦訳される)のCO2は900~2000ppmと高く、気温は10℃から25℃も現代より高かったとしている。図(b)を見ると、あたかも、CO2濃度によって気温が一直線に決まるかのようだ。

図1 Box TS. Figure 1.
出典:IPCC報告

また、続く図 Box TS.2, Figure 2(a)では、この気温上昇について、計算機のシミュレーション結果(Simulated temperature)は、地層堆積物などからの推計値(Reconstructed temperature)を概ね再現している、としている。

図2 Box TS2. Figure 2
出典:IPCC報告

ははあ、なるほど。以上を見ると、地球の歴史において、気温はもっぱらCO2だけで決まってきたかような印象を受ける。

けれども、このIPCC報告をみて奇妙に思った。というのは、地球の気温を決める要因はさまざまあり、CO2と無関係にも気温が上下することはこの世界の常識だからだ。

実際に、IPCC報告が引用しているAnagnostouらによる論文を見ると、Eocene(5600~3390万年前)だけを取り出しても、CO2と気温の相関は弱かったことが分かる(図3)

図3 Anagnostouらより

図を見ると、例えばCO2濃度は1000ppm以下でも、地球の平均気温GMT(Global Mean Temperature)は20℃以下の時もあれば(3900万年前から3400万年前、白抜きひし型、および3400万年前から3350万年前、オレンジのひし形)、30以上の時もあった(図中の青塗りのひし形

なおこの図の折れ線はシミュレーション計算の結果である。折れ線はいずれも右肩上がりで、CO2が増えると気温が上がる、としている。

しかし図3をしげしげ眺めると、同じ1000ppmでもかなり気温差があることから、少なくとも1000ppm付近では、むしろ気温は主にCO2以外の要因によって決まっているように見える。

なおこのEarly Eoceneに先立つPETM(Paleocene-Eocene Thermal Maximum)期(5630~5590万年前)は、CO2濃度は現代よりやや高いに過ぎなかったが、気温はEarly Eocene以上に高かった、とMayはコラムで指摘している

気温はCO2によっても左右されるが、大陸の配置によっても5℃程度は上下する。現代は大陸が極地に集まっていて南極やグリーンランドに氷床があるが、Eoceneはそうではなく、地球上どこにも氷床が無かった。海流も、もちろん現代とは異なっていた。図3で3900万年前以降に気温が下がっているのは大陸の移動の影響とみられている

さて、「地球のCO2濃度と気温の関係をレポートしなさい」と学生に言ったとして、本稿冒頭の図1を示して、「はい、CO2で気温は決まっています」などと言えば、落第だ。

なぜなら、それは、図3のような、相関の弱い図から、相関を示唆する直線上の点を取り出して繋いだに過ぎないからだ。

IPCC報告も、よく読むと、本稿冒頭の図1、図2は、「分析した対象期間について作図しただけ」と述べており、「この比例関係がいつも成り立つ」とか「気温はもっぱらCO2だけで決まる」と主張している訳ではない。だがこのような、誤解をとても招きやすい図、かつ政治的な悪用をされやすい図を、要約にまで載せておくのはいかがなものか。

1つの報告書が出たということは、議論の終わりではなく、始まりに過ぎない。次回以降も、あれこれ論点を取り上げてゆこう。

 

【関連記事】
IPCC報告の論点①:不吉な被害予測はゴミ箱行きに
IPCC報告の論点②:太陽活動の変化は無視できない
IPCC報告の論点③:熱すぎるモデル予測はゴミ箱行きに
IPCC報告の論点④:海はモデル計算以上にCO2を吸収する
IPCC報告の論点⑤:山火事で昔は寒かったのではないか
IPCC報告の論点⑥:温暖化で大雨は激甚化していない
IPCC報告の論点⑦:大雨は過去の再現も出来ていない
IPCC報告の論点⑧:大雨の増減は場所によりけり
IPCC報告の論点⑨:公害対策で日射が増えて雨も増えた
IPCC報告の論点⑩:猛暑増大以上に酷寒減少という朗報
IPCC報告の論点⑪:モデルは北極も南極も熱すぎる
IPCC報告の論点⑫:モデルは大気の気温が熱すぎる
IPCC報告の論点⑬:モデルはアフリカの旱魃を再現できない
IPCC報告の論点⑭:モデルはエルニーニョが長すぎる
IPCC報告の論点⑮:100年規模の気候変動を再現できない
IPCC報告の論点⑯:京都の桜が早く咲く理由は何か
IPCC報告の論点⑰:脱炭素で海面上昇はあまり減らない
IPCC報告の論点⑱:気温は本当に上がるのだろうか
IPCC報告の論点⑲:僅かに気温が上がって問題があるか?
IPCC報告の論点⑳:人類は滅びず温暖化で寿命が伸びた
IPCC報告の論点㉑:書きぶりは怖ろしげだが実態は違う
IPCC報告の論点㉒:ハリケーンが温暖化で激甚化はウソ
IPCC報告の論点㉓: ホッケースティックはやはり嘘だ
IPCC報告の論点㉔:地域の気候は大きく変化してきた
IPCC報告の論点㉕:日本の気候は大きく変化してきた

クリックするとリンクに飛びます。

「脱炭素」は嘘だらけ

This page as PDF
杉山 大志
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 調達価格算定委員会で平成30年度以降の固定価格買取制度(FIT)の見直しに関する議論が始まった。今年は特に輸入材を利用したバイオマス発電に関する制度見直しが主要なテーマとなりそうだ。 議論のはじめにエネルギーミックスにお
  • 12月8日(土)~15日(土)、経団連21世紀政策研究所研究主幹として、ポーランドのカトヴィツエで開催されたCOP24に参加してきた。今回のCOP24の最大の課題はパリ協定の詳細ルールに合意することにあった。厳しい交渉を
  • 元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 最近流れたニュース「MITが核融合発電所に必要となる「超伝導電磁石の磁場強度」で世界記録を更新したと報告」を読んで、核融合の実現が近いと思った方も多いかと思うが、どっこい、そん
  • G7では態度表明せず トランプ政権はイタリアのG7サミットまでにはパリ協定に対する態度を決めると言われていたが、結論はG7後に持ち越されることになった。5月26-27日のG7タオルミーナサミットのコミュニケでは「米国は気
  • 温暖化問題はタテマエと実態との乖離が目立つ分野である。EUは「気候変動対策のリーダー」として環境関係者の間では評判が良い。特に脱原発と再エネ推進を掲げるドイツはヒーロー的存在であり、「EUを、とりわけドイツを見習え」とい
  • 2012年9月19日に設置された原子力規制委員会(以下「規制委」)が活動を開始して今年の9月には2周年を迎えることとなる。この間の5名の委員の活動は、本来規制委員会が行うべきと考えられている「原子力利用における安全の確保を図るため」(原子力規制委員会設置法1条)目的からは、乖離した活動をしていると言わざるを得ない。
  • 「CO2から燃料生産、『バイオ技術』開発支援へ・・政府の温暖化対策の柱に」との報道が出た。岸田首相はバイオ技術にかなり期待しているらしく「バイオ技術に力強く投資する・・新しい資本主義を開く鍵だ」とまで言われたとか。 首相
  • 福島第一原子力発電所事故の後でエネルギー・原子力政策は見直しを余儀なくされた。与党自民党の4人のエネルギーに詳しい政治家に話を聞く機会があった。「政治家が何を考えているのか」を紹介してみたい。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑