今週のアップデート=原発、作家の視座 — 高嶋哲夫氏、門田隆将氏(2013年3月11日)
東日本大震災から2年。犠牲者の方の冥福を祈り、福島第一原発事故の被害者の皆さまに心からのお見舞いを申し上げます。
今週のアップデート
1) 今週は2人の著名作家の原発をめぐる考察を取り上げます。
詳細な取材と科学知識に基づくクライシス、災害を題材にした迫真性のある小説で知られる。人気作家の高嶋哲夫氏。東日本大震災と福島原発事故では、作品の『TSUNAMI 津波』(集英社文庫)や『原発クライシス』が事件を予言したと話題になりました。高嶋氏はかつて原子力の技術者として活躍していました。
高嶋氏に「僕が原発を捨てきれないわけ」を寄稿いただきました。国際的な視点、時間軸を考えた論考で、「科学技術の芽をつぶす」危険を指摘しています。
2)ノンフィクション作家の門田隆将氏の著書『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日』(PHP研究所)が反響を呼んでいます。福島第一原発事故で、これまでメディアの取材の形で表に出なかった事故当日の東京電力社員の動きが、当時の吉田所長を中心に克明に綴られています。
これを聞いた元メーカー勤務の井上雅則氏から、投稿をいただきました。また内容の転載は門田氏に許可をいただきました。お二人に感謝を申し上げます。
何のために門田氏がこの本を書き、何を東電の人々から感じたのか。「毅然とした日本人への感動」を得たそうです。その真意に胸打たれます。
提携する国際環境経済研究所(IEEI)のサイトからの転載です。福島原発事故の不安の増幅を、イタリアのラクイラ地震をめぐるコミュニケーションの失敗と重ねた記事。日本の場合は特に、その文化的特性から、関係者の信頼がコミュニケーションで必要になるが、その崩壊が混乱の一因としています。
今週のリンク
1)「敦賀原発2号「活断層」は確定的 廃炉の可能性大、専門家異論でず」
福井新聞3月9日記事。日本原電敦賀原発に活断層があるという認定が、原子力規制委員会によって行われそうです。それによって廃炉に導かれそうです。GEPRはこれまで、活断層問題について、その問題を指摘してきました。「原発停止継続、日本経済に打撃–活断層に偏重した安全規制は滑稽」など。
2)「独立性には程遠い原子力産業の憲兵」
ル・モンド・ディプロマティーク日本語版3月号記事。IAEA(国際原子力機関)についての論評。同機関の活動を概観していますが、やや批判に傾いている記事です。同誌は左派寄りの論評で知られています。日本との関係も言及。福島県の佐藤栄佐久元知事も記事に登場し、IAEAの活動を「火災防止を放火魔が担当するようなもの」と批判しています。
3)「安倍政権は核廃棄物管理の国際機関の創設を–10万年の安全を解決する3つの方法」
日経ビジネスオンライン、2月18日記事。以前、原子力工学の研究者であった田坂広志・ソフィアバンク代表のインタビュー記事。どの立場に立っても、原発の放射性廃棄物の問題は避けて通れません。国内地層処分という既存政策だけではなく、多様な管理方法の検討を主張しています。
「新潮45」連載。福島県在住で、臨済宗の僧侶、そして小説家の玄侑宗久氏の昨年までの雑誌連載が公開されています。誤解、善意の押しつけ、当事者の説明不足など、福島と放射能の関係をめぐる問題が記されています。玄侑氏は「年1mSv」の基準で、無限に続く除染にも、疑問を投げかけています。
5)「原発 世界各地の今の動向は」
NHKニュースウェブ。3月9日まとめ。現在の原発の概観。今年1月の時点で運転が可能な世界の原子力発電所は、31の国と地域で合わせて435基あります。好悪は別にして、この現実を受け止め、その向き合い方を考えなければなりません。

関連記事
-
ちょっとした不注意・・・なのか 大林ミカさん(自然エネルギー財団事務局長)が一躍時の人となっている。中国企業の透かしロゴ入り資料が問題化されて深刻度を増しているという。 大林さんは再生可能エネルギーの普及拡大を目指して規
-
このたび「エネルギードミナンス:強く豊かな日本のためのエネルギー政策(非政府の有志による第 7次エネルギー基本計画)」を発表しました(報告書全文、150ページ)。 杉山大志と野村浩二が全体を編集し、岡芳明、岡野邦彦、加藤
-
アゴラ研究所の運営するエネルギー研究機関のGEPRはサイトを更新しました。 1)【アゴラシンポジウム】成長の可能性に満ちる農業 アゴラは12月に農業シンポジウムを行います。石破茂自民党衆議院議員が出席します。詳細はこのお
-
共存共栄への可能性 私は再エネ派の人々とテレビ番組やシンポジウムなどで討論や対話をする機会が時々ある。原子力推進派のなかでは稀な部類であると思っている。メディアでもシンポジウムでも、再エネvs.原子力という旧態依然の構図
-
「脱炭素社会の未来像 カギを握る”水素エネルギー”」と題されたシンポジウムが開かれた。この様子をNHKが放送したので、議論の様子の概略をつかむことができた。実際は2時間以上開かれたようだが、放送で
-
日本の化石燃料輸入金額が2023年度には26兆円に上った(図1)。これによって「国富が流出しているので化石燃料輸入を減らすべきだ、そのために太陽光発電や風力発電の導入が必要だ」、という意見を散見するようになった。 だがこ
-
はじめに 地球温暖化に高い関心が持たれています。図1はBerkeley Earthのデータで作成したものです。パリ協定は、世界の平均気温上昇を2℃未満に抑え1.5℃を目指す目標ですが、2030年代には1.5℃を超えること
-
ロシアのウクライナ侵攻で、ザポリージャ原子力発電所がロシア軍の砲撃を受けた。サボリージャには原子炉が6基あり、ウクライナの総電力の約20%を担っている。 ウクライナの外相が「爆発すればチェルノブイリ事故の10倍の被害にな
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間