【補足】ブースト型核爆発装置について
「核科学者が解読する北朝鮮核実験 — 技術進化に警戒必要」に関連して、核融合と核分裂のカップリングについて問い合わせがあり、補足する。
爆縮装置「SWAN」とは何か
1957年頃までに米国はSwanと称する2点着火式の爆縮装置を完成させている。従来は32点式(あるいはそれ以上)だったため、随分デザインが簡素化されスッキリした。これも軽量化に大きく寄与しる。形状はアメリカンフットボールの玉に似ている。白鳥の胴体にも似ていることからSwanと名付けられたとも。(図表1)

図表1 Swanの爆発の原理。Wikipediaより。
もっと大きな特徴がある。従来は爆縮の中心部に中性子源(ベリリウムとアメリシウムの合金など)を置き、その中性子が周囲のプルトニウムや高濃縮ウランの核分裂を駆動した。
Swanではこの中性子源の代わりに、中心部に小規模核融合を起こすための二重水素(D)と三重水素(T)を詰める。爆縮によって、中心部は高温高圧になって、D-T核融合を起こす。その結果、14MeVという強力なエネルギーをもった中性子が多数発生する。
ベリリウムとアメリシウムの合金から発する中性子は4MeV程度。つまり、この強力な核融合中性子は、プルトニウムや高濃縮ウランをより効率よく核分裂させることになる。その結果、同じ程度の核物質を使っても、より大きな核爆発威力が得られる。Swanの爆発威力は、15ktだ。しかもそのサイズは、直径30cm、長さが60cm、重量はなんと僅か50kg。要するに、広島・長崎型原爆の1/100の重さだ。
さらに、Swanではプルトニウムの外側にベリリウムを巻いている。これは中性子の増幅材になる。このようにして、Swan自体が超小型高性能の核爆発装置になっている。そして、Swan全体が高性能かつ高エネルギーの中性子発生装置になっている訳だ。さらに重要なことは、Swanが発生する高エネルギー中性子を用いれば、天然ウラン自体が核分裂を起こす。
SWANを利用する核弾頭タイプW88について
このようなSwanの性質を利用したのが二段式核爆発装置。つまり、第一段(primary:プライマリー)で、Swanのシステムを用いる。それ自体が、核爆発するとともに、強力で多量の中性子発生源になる。そして、第二段(secondary:セカンダリー)では、同心円状に濃縮ウランやベリリウムを数層に重ねて球状にしたものだ。
この球自体は、第一段で発生した中性子を利用して、核分裂を起こしつつ、さらにベリリウムが新たな高エネルギー中性子を生み出す仕組みだ。これら、プライマリーとセカンダリーを、ひょうたん型の容器に収納する。この容器自体は、劣化ウランでできている。
劣化ウランとはウラン濃縮後にのこったカスで、ウラン238がその成分。このウラン238は本来核分裂しにくいが、核融合で発生する高エネルギー中性子が当たれば、よく分裂する。こうして幾重にも核分裂を起こしていくのが、最新の核弾頭の仕組みだ。プライマリーがセカンダリーを起動(boost)するので、ブースト型核分裂爆弾とも呼ばれる。
その代表的なものはW88という核弾頭で、直径55cm、長さは175cmの円錐状だ。重さはわずか360kg程度で、核爆発威力は475 kt。これは、1953年頃までに米国が開発した核砲弾とほぼ同じ重さで、威力は30倍以上になっている。ただし、いわゆる水爆にくらべると1/10以下の威力だ。W88は現在でも米国で配備されている。

図表2 W88の構造
北朝鮮のこれまでの核実験の経験と実績等をもってすれば、初期的なブースター型核爆発装置の制作は可能であると見てよい。(図表2)
(2013年1月28日掲載)
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