【補足】ブースト型核爆発装置について

2013年01月28日 14:00
アバター画像
東京工業大学原子炉工学研究所助教 工学博士

核科学者が解読する北朝鮮核実験 — 技術進化に警戒必要」に関連して、核融合と核分裂のカップリングについて問い合わせがあり、補足する。

爆縮装置「SWAN」とは何か

1957年頃までに米国はSwanと称する2点着火式の爆縮装置を完成させている。従来は32点式(あるいはそれ以上)だったため、随分デザインが簡素化されスッキリした。これも軽量化に大きく寄与しる。形状はアメリカンフットボールの玉に似ている。白鳥の胴体にも似ていることからSwanと名付けられたとも。(図表1)


図表1 Swanの爆発の原理。Wikipediaより。

もっと大きな特徴がある。従来は爆縮の中心部に中性子源(ベリリウムとアメリシウムの合金など)を置き、その中性子が周囲のプルトニウムや高濃縮ウランの核分裂を駆動した。

Swanではこの中性子源の代わりに、中心部に小規模核融合を起こすための二重水素(D)と三重水素(T)を詰める。爆縮によって、中心部は高温高圧になって、D-T核融合を起こす。その結果、14MeVという強力なエネルギーをもった中性子が多数発生する。

ベリリウムとアメリシウムの合金から発する中性子は4MeV程度。つまり、この強力な核融合中性子は、プルトニウムや高濃縮ウランをより効率よく核分裂させることになる。その結果、同じ程度の核物質を使っても、より大きな核爆発威力が得られる。Swanの爆発威力は、15ktだ。しかもそのサイズは、直径30cm、長さが60cm、重量はなんと僅か50kg。要するに、広島・長崎型原爆の1/100の重さだ。

さらに、Swanではプルトニウムの外側にベリリウムを巻いている。これは中性子の増幅材になる。このようにして、Swan自体が超小型高性能の核爆発装置になっている。そして、Swan全体が高性能かつ高エネルギーの中性子発生装置になっている訳だ。さらに重要なことは、Swanが発生する高エネルギー中性子を用いれば、天然ウラン自体が核分裂を起こす。

SWANを利用する核弾頭タイプW88について

このようなSwanの性質を利用したのが二段式核爆発装置。つまり、第一段(primary:プライマリー)で、Swanのシステムを用いる。それ自体が、核爆発するとともに、強力で多量の中性子発生源になる。そして、第二段(secondary:セカンダリー)では、同心円状に濃縮ウランやベリリウムを数層に重ねて球状にしたものだ。

この球自体は、第一段で発生した中性子を利用して、核分裂を起こしつつ、さらにベリリウムが新たな高エネルギー中性子を生み出す仕組みだ。これら、プライマリーとセカンダリーを、ひょうたん型の容器に収納する。この容器自体は、劣化ウランでできている。

劣化ウランとはウラン濃縮後にのこったカスで、ウラン238がその成分。このウラン238は本来核分裂しにくいが、核融合で発生する高エネルギー中性子が当たれば、よく分裂する。こうして幾重にも核分裂を起こしていくのが、最新の核弾頭の仕組みだ。プライマリーがセカンダリーを起動(boost)するので、ブースト型核分裂爆弾とも呼ばれる。

その代表的なものはW88という核弾頭で、直径55cm、長さは175cmの円錐状だ。重さはわずか360kg程度で、核爆発威力は475 kt。これは、1953年頃までに米国が開発した核砲弾とほぼ同じ重さで、威力は30倍以上になっている。ただし、いわゆる水爆にくらべると1/10以下の威力だ。W88は現在でも米国で配備されている。


図表2 W88の構造

北朝鮮のこれまでの核実験の経験と実績等をもってすれば、初期的なブースター型核爆発装置の制作は可能であると見てよい。(図表2)

参考
1) Swan
2) W88

(2013年1月28日掲載)

This page as PDF
アバター画像
東京工業大学原子炉工学研究所助教 工学博士

関連記事

  • 2022年の世界のエネルギー市場はウクライナ戦争に席巻された。ウクライナ戦争の出口が見えない状況下で、2023年10月にはイスラム組織ハマスがイスラエルへの越境攻撃を行った。イスラエルがハマス、およびその背後にいると言わ
  • 政府は電力改革、並びに温暖化対策の一環として、電力小売事業者に対して2030年の電力非化石化率44%という目標を設定している。これに対応するため、政府は電力小売り事業者が「非化石価値取引市場」から非化石電源証書(原子力、
  • 日本経済新聞
    日経新聞1月10日記事。同原発は加圧水型軽水炉(PWR)で、現在稼働中の2基は1974年と76年に運転を開始した。最大出力の合計は200万キロワットで、ニューヨーク市と近郊のウエストチェスター郡で消費される電力の約4分の1に相当する。
  • 国連のグレーテス事務局長が、7月28日にもはや地球は温暖化どころか〝地球沸騰化の時代が到来した〟と世界に向けて吠えた。 同じ日、お笑いグループ・ウーマンラッシュアワーの村本大輔氏がX(ツイッター)上で吠えた。 村本氏の出
  • 6月1日、ドイツでは、たったの9ユーロ(1ユーロ130円換算で1200円弱)で、1ヶ月間、全国どこでも鉄道乗り放題という前代未聞のキャンペーンが始まった! 特急や急行以外の鉄道と、バス、市電、何でもOK。キャンペーンの期
  • 前稿まで、5回に渡りクーニンの「気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか?」を読み解いてきた。この本は今年3月に刊行された。 その後、今年7月末に「『気候変動・脱炭素』 14のウソ」という日本語の書が出版された
  • G20では野心的合意に失敗 COP26直前の10月31日に「COP26議長国英国の狙いと見通し」という記事を書いた。 その後、COP26の2週目に参加し、今、日本に戻ってCOP26直前の自分の見通しと現実を比較してみると
  • IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 以前、「IPCC報告の論点③:熱すぎるモデル予測はゴミ箱

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑