核のゴミ、対策を考える時間はたっぷりある — NHK特集への疑問
NHKで流れた福島原発事故の映像、ここに使用済核燃料が保管され一時的にその溶融の危険が指摘された。
「解決できない」問題なのか
NHK特集「核のゴミはどこへ–検証・使用済核燃料」が2月10日放送された。事実の間違いは後述のように一部しかなかったが、省略された重要論点が多くあった。エネルギー問題を知る人間が見ると、原発批判に傾いた編集だ。
この番組は放射性廃棄物問題について「解決はほぼ不可能」「結論を出さなければ原発を使うべきではない」というメッセージを出した。ほぼ不可能であるなら「原発を止める」という結論しかなくなる。
この記事ではエネルギーの専門家が共通して抱くであろう番組への疑問を、簡単に整理して紹介したい。そして番組の論評によって、ここで示されたような世間に広がるステレオタイプの考えに対して、別の考えもあるという事を示してみよう。
確かに使用済核燃料の環境負荷と健康への悪影響をなくすという意味では、問題は解決できない。しかし、人間や社会の悪影響を減らしていくという現実的な対処は可能であると思う。「不可能」という断言をして思考停止に陥る事は、適切な行動ではない。
■番組の内容
内容は次の通りだ。
1・核廃棄物は、無害化できない。数万年の管理が必要だ。
2・最終処分の方法は、地中に埋める方法が検討されている。しかし、どの国も最終的な結論は出ていない。問題は解決できない。
3・核燃料を再処理して容積を減らし、また原発に使う核燃料サイクルという取り組みを行っている。これは無資源国日本が発電を永続的にできる可能性があるために期待を集め、1960年代から構想された。ところが、そこからでるプルトニウムを使う高速増殖炉もんじゅ、さらに青森県六ヶ所村の核燃料再処理施設がまだ稼動していない。核燃料サイクルは15兆円かかる。
4・核燃料サイクルがダメなら、直接処分を検討すべきだ。そして一時的に、乾式保管と呼ばれる方法で、特殊なキャスク(容器)に入れて地上に保管するべきだ。それは安全だ。
5・結論として、放射性廃棄物の結論を出してから、原発を利用するべきだ。
上記の話のネタは、おそらく昨年に日本学術会議の出した「高レベル放射性廃棄物の処分について」という文章であろう。おそらく、エネルギー問題を多少勉強した人は、この番組と同じ情報を注目すると思う。
番組への疑問
それぞれの論点に意見を述べてみよう。
1と2について、確かに無害化は現在の技術ではできない。しかし、できる限りリスクを減らそうという取り組みが、核燃料サイクルの考えの中に取り入れられている。今の工業社会の中では、水銀、六価クロムなど永久に無害化できない危険な物質が大量にある。核物質だけに恐怖を向ける事は合理的ではない。また放射性廃棄物の地中処分では「人間の手を離れても安全性が確保できる形で地中に埋める」という考えに基づいて、どの国も構想している。
確かに政治的に処分場は選定するのは難しい。そして未来の世代に責任を負わせる倫理上の問題や、不安などの精神的な問題があることは認める。だからと言って場所の選定が不可能である、危険であるとするのは短絡的であろう。
国内だけではなく、新しい考えもある。海外で国際保管をする方法だ。例えば、モンゴル、ロシア、オーストラリアなどはその受け入れを政府が検討した。
3については、もんじゅと六ヶ所施設が稼動していないため、40年前に原型がつくられた核燃料サイクル構想のすべてが止まっている。もんじゅは一度の事故で95年以来、ムダに止まり続けている。これは技術ではなく、核燃料サイクル機構の運営に問題があるだろう。日本原燃の六ヶ所村の再処理施設は、今年中の稼動が予定されている。その稼動によって、状況が好転することを期待したい。
また予定経費の15兆円は2030年までの累計試算であって、それを言及しないのは公平性を欠く。
さらに4については、NHKの主張は単純すぎる。再処理をすること、しないことのメリット、デメリットがあり、その双方を考える必要がある。再処理のメリットは、核燃料を使い続けられる事、容積が推計で7分の1程度になり管理やしやすくなることだ。一方でデメリットは、そのコストだ。

福島第一原発での津波後に無事だった乾式キャスク(原子力委員会資料より)
またが乾式貯蔵はすでに一部で行われており、福島第一原発でも津波に堪えたキャスクがある。使われていないとする番組の情報は間違いだ。また番組は、キャスク保存が安全という見方を示している。常識的に考えれば、地中処分の方がリスクは小さくなるであろう。
民主党の「原発ゼロ」を止めた重要論点は「安保」
政治上で必ず大きな論点になる問題を、このNHK特集は省略していた。これは政治家を含め多くの人が忘れている原子力外交と安全保障という論点だ。
民主党政権は昨年9月に「原発ゼロ」の目標を打ち上げたが、突如閣議決定の形で政府決定にすることを取り下げた。報道によれば、決めようと暴走した古川元久国家戦略担当相(当時)の提案を、野田佳彦首相、岡田克也副首相が危ういとして受け付けなかったという。古川氏らが、米国や諸外国との調整をまったくせず、諸国から「原発ゼロ」の懸念が伝えられたことが一因だ。
原子力発電によって出たプルトニウムは核兵器、またダーティボム(汚染爆弾)の材料になりかねないため、米国や諸外国はその神経を尖らせている。核燃料サイクルはそのプルトニウムを燃料にして減らすという効果がある。
日本はウランを国内で産出しないし、70年代には技術が米国に比べて遅れていた。米国などと原子力技術導入やウラン購入の協定を結ぶ際には、「核燃料サイクルでプルトニウムを減らし、平和利用に徹する」という主張をした経緯がある。エネルギーの議論では隠れているが、一国の政策を左右するほど重要な論点として、今の原子力政策にも影響している考えだ。
もちろん日本の先行きは日本国民が決めるべきであろう。しかし実際には、諸外国との約束の中で核燃料サイクル政策が行われている。「難しい。だから止めよう」という考えを、NHKや多くの人が持っている。この問題はそんな単純ではない。
先送りは知恵のある対応
核廃棄物の保管については、「10万年先の未来は分からない」という事実は、共通認識である。しかし管理して、リスクを減らすという対応策はできる。廃棄物を減らし300メートルの中に産め、人の手を離すという地中処理の構想は、今ある選択肢の中では、合理的な手段に思える。コストを考えなければだ。
原発を100万キロワット分1年稼動させるのに必要24トン程度。累計のトン数も2万4000トン程度。同程度のエネルギーをつくるためには火力発電で石油でも、天然ガスでも、100万トン程度必要だ。原発を稼動させても、すぐさま日本で核のゴミだらけになるわけではない。
六ヶ所村の日本原燃の敷地にある高レベル廃棄物貯蔵管理センターの中には、再処理済のガラス固化体の貯蔵ピットのスペースが20年から30年分ある。さらに、青森県むつ市で、廃棄物を保管する中間貯蔵処理施設が進んでいる。高レベル放射性廃棄物はこれまで英仏に処理を委託していた。そしてようやく六ヶ所村再処理工場が、今年中に稼動する予定だ。
時間はある。筆者は、六ヶ所村と中間貯蔵施設候補地を取材した事がある。広大な場所があり、さらに地質学上安定した場所とされる。
以下は、青森県下北地域の方には、失礼な意見かもしれない。しかし、同地域にここまで核施設が集積し、諸条件が揃う。ここを最終処分地にすることも現実的な選択肢であろう。数十年の時間がある。それだけの時間があれば、政治情勢、科学認識の変化もあるだろう。青森の方にもその選択肢を受け止めていただく可能性があるかもしれない。
原子力が経済合理性から使われない未来も
またエネルギー情勢が根本から変化する可能性がある。核燃料サイクルは経済性と言う点で、疑問が出ている。現在は世界各国でシェールガスとシェールオイルの増産が起こっているため化石燃料の利用可能量が増え、価格が低下する見込みだ。
シェールガス革命の先行きは不透明であるが、今後のエネルギー情勢の変化の中で経済性の観点から原子力が選ばれないという選択肢も出てこよう。化石燃料の大量使用は、温室効果ガスの増加の問題を解決しなければならないが、わざわざ大変な手間のかかる原子力を使う必要はなくなる。
こうした情報を並べると、 NHKの番組の最後のメッセージ「結論を出さなければ原発を使うべきではない」は単純すぎると言えるだろう。
東日本大震災と原発事故の後で原発をめぐる議論が噴出した。そこで残念だったのは、議論に結論が出ずに混乱し続けたことだ。その議論では、さまざまな、そして時間軸の違う論点を同時に話し、混乱する例が多かった。私たちは今、原発の稼動停止によって年間3兆円の燃料代増加と国富の流失、電力会社の倒産可能性、電力供給の不安定化という「今そこにある危機」に向き合っている。それを考えずに、「最終処分を決める」という難しい問題を原発政策の前提とするのは、明らかにおかしい。
このNHKのドキュメンタリーも、ずれた議論をしている。おそらくNHKの記者は日本のテレビメディアで一番訓練を受け、一番取材費を使って番組をつくれる人たちだ。その人々さえ、建設的な意見をまとめられない。とても残念なことだ。
核廃棄物の結論は、今決める必要はない。ゆっくり考えればいい。
石井孝明 経済・環境ジャーナリスト アゴラ研究所フェロー
(2013年2月12日掲載)
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