水素とアンモニアは「夢のエネルギー」か

2021年04月13日 23:43
池田 信夫
アゴラ研究所所長

日本経済新聞は、このところ毎日のように水素やアンモニアが「夢の燃料」だという記事を掲載している。宇宙にもっとも多く存在し、発熱効率は炭素より高く、燃えてもCO2を出さない。そんな夢のようなエネルギーが、なぜ今まで発見されなかったのだろうか?

水素はエネルギーの縮小再生産

それは日経新聞の錯覚である。水素はエネルギー源ではないのだ。水素は単体では大気中に存在しないので、水を電気分解するか、化石燃料(炭化水素)を熱分解してつくるしかない。その水素を燃やしてできるエネルギーは、水素をつくるエネルギーよりはるかに小さい。水素はエネルギーの縮小再生産なのだ。

水素は零下250℃以下でないと液体で保存できないので、扱いやすいアンモニアに変えて輸送する。だからアンモニアも水素キャリアであって、エネルギー源ではない。最近は発電にも使える技術が開発されているが、それも水素を運ぶ点では同じだ。

次の図のようにアンモニアをつくるには水素が必要で、それは化石燃料を熱分解してつくる(ブルーアンモニア)。再生可能エネルギーで電気分解するグリーンアンモニアは、コストが高く実用にならない。

燃料アンモニア導入官民協議会の資料より

図1

アンモニアの製造では、大量のCO2が発生する。製造技術として確立しているハーバー=ボッシュ法では、アンモニア1トンをつくるとき2.35トンのCO2が発生する。世界のCO2の1%は、アンモニアの製造で発生しているのだ。アンモニア製造で発生する亜酸化窒素(N2O)の温室効果は、CO2の300倍である。

経産省の燃料アンモニア導入官民協議会は「国内の大手電力会社の保有する全石炭火力をアンモニア専焼にリプレースした場合には、約2億トンのCO2排出を抑制し、これは現在の電力部門からの排出量の半分を削減することになる」というが、それは本当だろうか?

アンモニア輸入は「炭素会計」の会計操作

図2はアンモニア協議会の試算だが、水素発電の単価が97.3円/kWhと絶望的に高いのに対して、アンモニアは(専焼の場合)23.5円とLNGの2倍程度だが、ここにはトリックがある。

燃料アンモニア導入官民協議会の資料より

図2

東電と中部電力でつくったJERAは昨年10月、2050年までに「石炭火力を100%アンモニアに変える」と宣言した。これが菅首相の「カーボンニュートラル宣言」の背中を押したといわれるが、図2をよく見てほしい。

海外でLNGでアンモニアをつくってタンカーで輸入しなくても、LNGそのものを輸入したほうが明らかに安い(201ドル/トン)。何のためにわざわざLNGをアンモニアに変えて輸入するのだろうか?

それはアンモニアをつくるとき発生するCO2が、輸出国で排出されるからだ(図2の「海外水素製造」)。これはアンモニア製造で発生するCO2を産油国に付け替える「炭素会計」の会計操作であり、地球全体のCO2排出量は変わらない。

商社が競ってこの「アンモニア貿易」に参入しているが、13円/kWhのLNGをわざわざコスト2倍のアンモニアに変える設備投資は、膨大な浪費である。企業がこのような収益率マイナスの設備投資をするのは、政府がそのコストを補助金してくれると期待しているからだ。

これは「グリーン成長」ではなく、納税者や電力利用者からアンモニア企業への所得移転である。安価なLNGから高価なアンモニアに切り替えると電気料金は上がり、製造業は日本を脱出するだろう。

要するにアンモニアは日本のCO2を産油国に付け替えるだけで、地球全体のCO2排出は減らず、温暖化も止まらないのだ。パリ協定で約束した削減目標が、国内で名目的に達成できるだけである。それならこんな設備投資は必要なく、産油国から排出枠を買えばいいのだ。

1970年代の石油ショックのとき、日本人は「省エネ」に一丸となって取り組み、日本の自動車・電機製品は世界を制覇した。それはエネルギーコストを下げて製造業の生産性を上げ、競争力を高めたからだ。しかし今回の「脱炭素」投資は、化石燃料を国内で燃やす代わりに海外で燃やすだけの非生産的な設備投資である。製造業の生産性は低下し、日本経済の衰退は早まるだろう。

【追記】細かい突っ込みが入ったので補足しておくが、図2の「CO2販売(EOR関連)」というのは、産油国でCO2を地中に埋め、その圧力で原油の生産を増やすEOR(原油増進回収法)向けにCO2を売るという机上の計算。そんな技術が採算に乗る見込みはなく、膨大な浪費に輪をかけるだけだ。

This page as PDF

関連記事

  • ポルトガルで今月7日午前6時45分から11日午後5時45分までの4日半の間、ソーラー、風力、水力、バイオマスを合わせた再生可能エネルギーによる発電比率が全電力消費量の100%を達成した。
  • 菅首相が昨年末にCO2を2050年までにゼロにすると宣言して以来、日本政府は「脱炭素祭り」を続けている。中心にあるのは「グリーン成長戦略」で、「経済と環境の好循環」によってグリーン成長を実現する、としている。 そして、「
  • 真夏の電力ピークが近づき、原発の再稼働問題が緊迫してきた。運転を決めてから実際に発電するまでに1ヶ月以上かかるため、今月いっぱいが野田首相の政治判断のタイムリミット・・・といった解説が多いが、これは間違いである。電気事業法では定期検査の結果、発電所が経産省令で定める技術基準に適合していない場合には経産相が技術基準適合命令を出すことができると定めている。
  • 東京新聞によれば、学術会議が「放射性廃棄物の処理方法が決まらない電力会社には再稼動を認可するな」という提言を17日にまとめ、3月に公表するらしい。これは関係者も以前から懸念していたが、本当にやるようだ。文書をみていないので確かなことはいえないが、もし学術会議が核廃棄物の処理を条件として原発の運転停止を提言するとすれば違法である。
  • 1.2050年カーボンニュートラル及び2030年度削減目標の実現に向け、国民・消費者の行動変容、ライフスタイル変革を強力に後押しするため、新たに「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」(仮称)を開始します。
  • エネルギー問題では、常に多面的な考え方が要求される。例えば、話題になった原子力発電所の廃棄物の問題は重要だが、エネルギー問題を考える際には、他にもいくつかの点を考える必要がある。その重要な点の一つが、安全保障問題だ。最近欧米で起こった出来事を元に、エネルギー安全保障の具体的な考え方の例を示してみたい。
  • GEPRの運営母体であるアゴラ研究所は映像コンテンツである「アゴラチャンネル」を提供しています。4月12日、国際環境経済研究所(IEEI)理事・主席研究員の竹内純子(たけうち・すみこ)さんを招き、アゴラ研究所の池田信夫所長との対談「忘れてはいませんか?温暖化問題--何も決まらない現実」を放送しました。 現状の対策を整理し、何ができるかを語り合いました。議論で確認されたのは、温暖化問題では「地球を守れ」などの感情論が先行。もちろんそれは大切ですが、冷静な対策の検証と合意の集積が必要ではないかという結論になりました。そして温暖化問題に向き合う場合には、原子力は対策での選択肢の一つとして考えざるを得ない状況です。
  • 拝啓 グーグル日本法人代表 奥山真司様 当サイトの次の記事「地球温暖化って何?」は、1月13日にグーグルから広告を配信停止されました。その理由として「信頼性がなく有害な文言」が含まれると書かれています。 その意味をグーグ

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑