今週のアップデート — 再生可能エネルギー支援、妥当性を探る(2012年5月21日)
今年7月から再生可能エネルギーの買取制度が始まります。経産省からは太陽光発電で1kWh42円などの価格案が出ています。この価格についての意見を紹介します。
1) 尾崎弘之 東京工科大学大学院ビジネススクール教授に、「太陽光買取42円は高過ぎる―国民負担増のあげく再生可能エネルギーが普及しないおそれ」という記事を寄稿いただきました。
尾崎教授は各国の太陽光パネル産業の状況を紹介して、太陽光パネルの価格下落で経営が厳しくなっている状況を紹介。EUの制度をそのまま導入する日本の政策の危うさを指摘しています。
2) 震災による瓦礫の処理は、日本各地に広がっています。しかし、ありえない放射能による健康被害を恐れる一部の人に過剰に反応して、まだ慎重な自治体があります。日本在住のジャーナリスト・ノンフィクション作家で、米ワシントン・ポスト紙の元東京特派員であるポール・ブルースティン氏に、「立ち上がれ日本、あなたと地域の協力で東北の瓦礫処理の推進を」を寄稿いただきました。
「東北の人々を救うために、瓦礫受け入れの声を各自治体、政治家に届けよう」という呼びかけです。ブルースティン氏の語るように、私たちは日本を守るため、誤った考えには「違う」と強い意志を表明しなければなりません。
3)GEPRはNPO法人国際環境経済研究所(IEEI)と提携し、相互にコンテンツを共有しています。民間有志からつくる電力改革研究会のスマートメーターについてのコラム 「スマートメーターは「光の道」と似ている ー 期待の技術をメタボにするな」を提供します。GEPRはスマートグリッドの普及を促す立場ですが、このコラムは、すべての世帯にスマートグリッドによる高度なサービスが必要かという、懐疑的な意見です。
今週のリンク
停止中の原発に対する再稼動問題の混乱が続いています。GEPRを運営するアゴラ研究所の池田信夫所長が日本版ニューズウィークに2本の原稿を寄稿しています。
「原発の停止で日本経済は何を失ったのか」(3月23日)
「暴走する大阪維新の会は自滅の道を歩むのか」 (5月18日)
今週の論文のリンク
低線量被曝についての論文を2つ紹介します。
1)マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者らが、DNAと放射線量の関係の研究を米学術誌「Environmental Health Perspective」で公表しています。「放射能に対する生物学的解析の統合研究〜ネズミへの自然放射線比400倍の連続照射で、DNAの損傷は検出されず」(Integrated Molecular Analysis Indicates Undetectable DNA Damage in Mice after Continuous Irradiation at ~400-fold Natural Background Radiation )
MITの研究ニュースによれば、研究者らはこの論文のデータなどに基づいて米国の緊急時の放射線の被曝量の現行の規制「自然放射線量の8倍」というのは厳しいのではないかと、提言しています。(A new look at prolonged radiation exposure−MIT study suggests that at low dose-rate, radiation poses little risk to DNA)
2)放射線影響研究所が広島・長崎の原爆の被害者の追跡調査の第14報を米学術誌のRadiation Research誌の2012年3月号に掲載しました。(英語版)(要約の日本語版)
この結果では、低線量被曝(100mSv以下)について、LNTモデル(低線量被曝でも、直線的にがんの発症が増加する)が、放射線のがん死亡への影響をよく説明しているとしています。具体的には、(1)線形モデル、(2)線形+二次モデル、(3)二次モデルを、同研究所の統計と比較して処理すると、1と2が妥当であるというものです。二次モデルとは、この場合にLNT仮説が成立しないとして、いき値(ある水準から増加する)などの考えを取り入れたものです。
この論文では、原爆被曝者ではLNT仮説が健康被害で当てはまることを、以前の被曝者への研究よりも強く示すものです。しかし、それは低線量の被曝でも即座に健康被害に結びつくことを示すものではなく、また仮説にすぎません。仮にLNT仮説が成立したとしても、それは他の健康リスクと比べて、低線量被曝の場合にはかなり低いものです。(100mSvの被曝で、全がんの発生量の増加の相対リスクは1.005)(GEPR記事「放射能のリスクを生活の中のリスクと比較する」)
そして低線量被曝についてのこれまでの知見を大きく変えるものではありません。(GEPR記事「放射線の健康影響 ― 重要な論文のリサーチ」)

関連記事
-
昨年夏からこの春にかけて、IPCCの第6次報告が出そろった(第1部会:気候の科学、第2部会:環境影響、第3部会:排出削減)。今回から、環境影響(impact)を取り扱っている第2部会報告を読んでいこう。 まず今回は「政策
-
元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 「2050年二酸化炭素排出実質ゼロ」を「カーボンニュートラル」と呼ぶ習慣が流行っているようだが、筆者には種々の誤解を含んだ表現に思える。 この言葉は本来、バイオマス(生物資源:
-
はじめに 映画「Fukushima 50」を観た。現場にいた人たちがフクシマ・フィフティと呼ばれて英雄視されていたことは知っていたが、どんなことをしていたのかはもちろんこの映画を観るまで知らなかった。 中でも胸を打ったの
-
地球温暖化に関する報道を見ていると、間違い、嘘、誇張がたいへんによく目につく。そしてその殆どは、簡単に入手できるデータで明瞭に否定できる。 例えば、シロクマは地球温暖化で絶滅する、と言われてきたが、じつは増えている。過去
-
シンクタンク「クリンテル」がIPCC報告書を批判的に精査した結果をまとめた論文を2023年4月に発表した。その中から、まだこの連載で取り上げていなかった論点を紹介しよう。 ■ IPCC報告における将来の海面上昇予測が地点
-
9月25日、NHK日曜討論に出演する機会を得た。テーマは「1.5℃の約束―脱炭素社会をどう実現?」である。 その10日ほど前、NHKの担当ディレクターから電話でバックグラウンド取材を受け、出演依頼が来たのは木曜日である。
-
日本では原発の再稼動が遅れているために、夏の電力不足の懸念が広がっています。菅直人前首相が、政治主導でストレステストと呼ばれるコンピュータシュミレーションを稼動の条件としました。それに加えて全国の原発立地県の知事が、地方自治体の主張が難色を示していることが影響しています。
-
太陽光発電を導入済みまたは検討中の企業の方々と太陽光パネルの廃棄についてお話をすると、ほとんどの方が「心配しなくてもそのうちリサイクル技術が確立される」と楽観的なことをおっしゃいます。筆者はとても心配症であり、また人類に
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間