脱・脱炭素の社説を米紙ウォールストリートジャーナルが発表

2023年04月07日 06:50
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

Manakin/iStock

米紙ウォールストリートジャーナルは、やや共和党寄りと見られているが、民主党からも割と支持されていて、超党派の信頼があるという、米国には珍しい大手の新聞だ。筆者の見立てでは、地球温暖化問題について、ど真ん中の正論を続けている。

そのウォールストリートジャーナルの3月30日付の社説で、脱・脱炭素を説いていた。

題して「ネットゼロからどう脱出するのか? 英国が示す、公然と政策を捨てないことの危うさ。」である。原題は「How Do You Escape Net Zero? The U.K. shows the peril of not ditching the policy openly.」だ。英国では日本で言う脱炭素のことをネットゼロと呼んでいる。

ポイントは以下の通り。

  • 諸国政府は、炭素排出量ゼロの公約を、そのコストと非現実性が明らかになるにつれて後悔するようになってきているが、政治家はまだそれを認めたくないようである。
  • 先週の木曜日、英国では、リシ・スナック首相が、新たなネットゼロ政策を発表したが、これは、事実上、ネットゼロ政策の放棄だ。なぜなら、この新しい政策には、新しい資金や計画が殆ど含まれていないからだ。興味深いことに、スナック氏が属する保守党内のネットゼロに懐疑的な人々から、ほとんど反対を招かなかった。
  • 内燃機関の2035年までの販売禁止は含まれているが、救済策として、メーカーには余計に製造する権利を購入できる制度が導入されることになっている。
  • 政策の重点は炭素回収技術(CCS)に置かれている。スナック氏の政権は以前、200億ポンドを投じると発表している。スナック氏がCCSを強く推し進めるのは、それ以外のことはやりたくないからだろう。
  • このような脱炭素計画の大失敗は、ロシアのウクライナ侵攻を受け、グリーンな願望と経済的現実が衝突する中で起きた。この戦争でエネルギー危機が起き、化石燃料に代わる風力や太陽光発電のコストと不十分さが露呈したのだ。
  • 電気自動車もまだバッテリー技術の実力が不足していること、水素などの代替燃料についても欠点があることが、よく理解されるようになった。
  • スナック氏はしかし、計画がうまくいかないことを認めるのではなく、裏口からこっそりと、ネットゼロから脱出しようとしている。だがこのやり方は、それなりのコストがかかる。CCSへの補助金などだ。これはまた再生可能エネルギー同様の新たな既得権益を生む。
  • ネットゼロは、有権者や政治家がその愚かさに気づくにつれて、ゆっくりと死んでいくのだ。いずれは、誰かが声を大にしてそれを認めるかもしれない。

さて日本はこっそり愚かな脱炭素から逃れることが出来るか? GX実行計画が今国会を通って法制化されるなど、裏口を自ら潰しているように見えてならない。

キヤノングローバル戦略研究所_杉山 大志』のチャンネル登録をお願いします。

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 地球温暖化というと「猛暑で熱中症が増える」ということばか
  • IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、2030年までに世界の平均気温が産業革命前より1.5℃(現在より0.5℃)上昇すると予測する特別報告書を発表した。こういうデータを見て「世界の環境は悪化する一方だ」という悲観的
  • 私はNHKに偏見をもっていないつもりだが、けさ放送の「あさイチ」、「知りたい!ニッポンの原発」は、原発再稼動というセンシティブな問題について、明らかにバランスを欠いた番組だった。スタジオの7人の中で再稼動に賛成したのは、
  • 3・11の福島原子力事故は、日本のみならず世界の原子力市場に多大なる影響を及ぼした。日本では、原子力安全のみならず原子力行政そのものへの信頼が失墜した。原子力に従事してきた専門家として、また政府の一員として、深く反省するとともに、被災者・避難を余儀なくされている方たちに深くお詫び申し上げたい。
  • 英国国営放送(BBC)で内部監視の役目を受け持つEditorial Complaints Unit (ECU)は、地球温暖化に関するBBCのドキュメンタリー番組が、気候変動について誤った報道をしたと判定した。 番組「ワイ
  • 日本のエネルギーに対する政府による支援策は、原発や再生可能エネルギーの例から分かるように、補助金が多い形です。これはこれまで「ばらまき」に結びついてしまいました。八田氏はこれに疑問を示して、炭素税の有効性を論じています。炭素税はエネルギーの重要な論点である温暖化対策の効果に加え、新しい形の財源として各国で注目されています。
  • 11月11日~18日にかけてボンのCOP23に行ってきた。パリ協定の詳細ルールは2018年にポーランドのカトヴィツェで開催されるCOP24で合意を目指すことになっている。このため今回のCOPはストックテーキングとの位置づ
  • 小型モジュラー炉(Small Modular Reactor)は最近何かと人気が高い。とりわけ3•11つまり福島第一原子力発電所事故後の日本においては、一向に進まない新増設・リプレースのあたかも救世主のような扱いもされて

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑