何が環境に良いかは左翼内の闘争で決るので予測不可能

2021年07月11日 07:00
杉山 大志
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

何が環境に良いのかはコロコロ変わる。

1995年のIPCC報告はバイオエネルギーをずいぶん持ち上げていて、世界のエネルギーの半分をバイオエネルギーが占めるようになる、と書いていた。その後、世界諸国でバイオ燃料を自動車燃料に混ぜる規制が導入された。

Halfpoint/iStock

だがいまではバイオエネルギー生産のための土地造成で自然が破壊されるなどの理由で、特に植物油燃料に対して反対運動が強くなっている

ディーゼル車はクリーンだということになっていたが、排気ガス規制において不正が発覚したのを契機に、一気に悪者になった。それでディーゼル車は禁止され(ついでにガソリン車もとばっちりを受けて禁止され)、電気自動車にシフトする動きが欧州から始まった。

太陽光発電は今迄は良い事になっていたが、何時まで持つことやら。メガソーラーともなると景観や自然生態系を破壊し、日本では土砂災害を引き起こしかねないことも問題視されはじめた。

風力発電も、最近は景観・騒音に加えて、野鳥が殺されることもあって、評判が悪くなった。

なぜこんなに毀誉褒貶が激しいかというと、環境運動を推進する先進国のリベラル(=左翼)の中には両極端が混在しているからだ。

一方の極端はエリートによる政治独裁を企てる人々だ。中国共産党だけではなく、先進国の官僚も「社会計画」を作って人民に従わせるのが大好きである。彼らは金融資本主義と結託する。金融独裁は富を独占して人民を経済的に従わせる。政治独裁と金融独裁は相性が良い。このことは掛谷英紀氏の新刊「学者の暴走」で指摘されていた。

もう一方の極端は、今ある自由主義・資本主義による経済社会を憎む人々だ。彼らは飛行機禁止、船禁止、肉食禁止、プラスチック禁止、・・とあらゆる技術を否定にかかる。

彼らは、太陽光発電や風力発電が「おじいさんの粉ひき小屋」のように牧歌的なイメージであったうちは肯定してきたが、スケールが大きくなった上に金融資本主義と結託を始めると、反感を感じるようになった。

この反感はマイケル・ムーアの映画「プラネット・オブ・ヒューマンズ」がよく表現している。この映画の結論は「反経済成長しか環境を守る手は無い」というものだ。(この映画は大きな波紋を呼び1100万回もユーチューブで視聴された。)

つまり左翼といっても、金儲けを信奉する独裁主義者と、反経済成長のアナーキストという両極端がいて、その政治力の関係で何が環境に優しいはくるくると変わるという訳だ。

それはいつもお決まりのサイクルだ。何か新しい技術が出てくると⇒それが小さい内はアナーキストたちが推奨する⇒すると独裁主義者たちが乗り込んで金を儲け始め規模が大きくなる⇒するとトラブルなどをきっかけにアナーキストたちが反対運動を始めて⇒その技術はレッテルを貼られて挫折する。

このため、何が環境に優しいか、その未来を保証された技術などおそらく何処にも一つもない。どれもこれも、10年も経たないうちに風向きが変わることを覚悟しなければならない。

もちろん以上は政治の話であって、科学的にはリスクや便益をきちんと計算すれば合理的な技術選択は出来る筈であり、筆者としてもその為に頑張りたい。

けれども、多くの技術の毀誉褒貶を見るにつけ、今後も技術選択が左翼の内部闘争に振り回され続ける運命にありそうで、暗い気持ちになる。

クリックするとリンクに飛びます。

「脱炭素」は嘘だらけ

This page as PDF
杉山 大志
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 去る4月22日から経済産業省の第13回再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会において、「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(いわゆるFIT法)の改正議論が始まった。5月3
  • 事故確率やコスト、そしてCO2削減による気候変動対策まで、今や原発推進の理由は全て無理筋である。無理が通れば道理が引っ込むというものだ。以下にその具体的証拠を挙げる。
  • 「カスリーン台風の再来」から東京を守ったのは八ッ場ダム 東日本台風(=当初は令和元年台風19号と呼ばれた)に伴う豪雨は、ほぼカスリーン台風の再来だった、と日本気象学会の論文誌「天気」10月号で藤部教授が報告した。 東日本
  • 米国の元下院議長であった保守党の大物ギングリッチ議員が身の毛がよだつ不吉な予言をしている。 ロシアがウクライナへの侵略を強めているのは「第二次世界大戦後の体制の終わり」を意味し、我々はさらに「暴力的な世界」に住むことにな
  • 北朝鮮の1月の核実験、そして弾道ミサイルの開発実験がさまざまな波紋を広げている。その一つが韓国国内での核武装論の台頭だ。韓国は国際協定を破って核兵器の開発をした過去があり、日本に対して慰安婦問題を始めさまざまな問題で強硬な姿勢をとり続ける。その核は実現すれば当然、北だけではなく、南の日本にも向けられるだろう。この議論が力を持つ前に、問題の存在を認識し、早期に取り除いていかなければならない。
  • はじめに 原子力にはミニトリレンマ[注1]と呼ばれている問題がある。お互いに相矛盾する3つの課題、すなわち、開発、事業、規制の3つのことである。これらはお互いに矛盾している。 軽水炉の様に開発済みの技術を使ってプラントを
  • 日本最大級の言論プラットホーム・アゴラが運営するインターネット放送の「言論アリーナ」。6月25日(火曜日)の放送は午後8時から1時間にわたって、「原発はいつ再稼動するのか--精神論抜きの現実的エネルギー論」を放送した。
  • 「気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか」については分厚い本を通読する人は少ないと思うので、多少ネタバラシの感は拭えないが、敢えて内容紹介と論評を試みたい。1回では紹介しきれないので、複数回にわたることをお許

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑