パニック(下) — 米国政府は危険認定のミスをした
12月3日放送の言論アリーナ「米国ジャーナリストの見る福島、原発事故対策」に、出演した米国のジャーナリスト、ポール・ブルースタイン氏が、番組中で使った資料を紹介する。(全3回)
スライド24
調査を進める中で、私は3・11直後に起こった、大きな誤りを知った。
スライド25
2011年3月16日に、米国の原子力規制委員会のトップが福島第一原発の状況について、日本政府が示したよりも、はるかに悪い状況にあるということ、公の場で強調した。
グレゴリー・ヤツコ米原子力委員会委員長は、福島第1原発4号機の核燃料プールの水がなくなっている可能性にあることを、議会で証言している。これは、放射線の漏洩が起こっていることを意味する。
そのために米国市民の避難範囲を、日本政府が示したものよりも広くするべきと、ヤツコ氏は述べた。
スライド26
このエピソードは、メディアの大きな注目を集めた。(私の知る限り、そう思える)
日本政府は、燃料プールが空であるというヤツコ氏の主張についてすぐに反論をした。ところが、ワシントンと東京の見解の興味深い違いは、その日のうちにメデイアに広がり、日本政府の批判にむすびついた。
CNNの放送より。
日本政府の発表によって、信頼性の懸念が拡大しています。
スライド27
よく知られているようにヤツコ氏が誤っていたことは明らかになった。プールはずっと満水だった。ヤツコ氏の議会証言から3カ月後、米原子力規制委員会は、2011年6月中旬にこのことを認めた。
このエピソードは、メディアでほとんど関心をひかなかった。
スライド28
大きな問題が、私が検証した公文書で見つかった。3月16日におけるNRC(米原子力規制委員会)の電話会議の複写が示すところでは、議会証言の数時間後に、ヤツコ氏は彼の主張に疑問を示す文章を受け取っていた。
東京のNRCチームのチャック・カストーとのやりとりである。
ヤツコ:つまり問題点は、あなたは、プールは空であるともはや思っていないということですね。私に報告がありましたか。
カストー:言ったと思います。少なくとも、昨日5時時点では、プールの中にある程度の水は残っていました。
ヤツコ:分かりました。けど、今私は、プールは空であると言ってしまったのです。
カストー:ええ、知っています。
ヤツコ:そのことは不正確だと思いますか。
カストー:私たちが言えることは、・・・つまり結論づけられないということです。実際に、どっちみち、そうはいえないでしょう。
(次のスライドに続く)
スライド29
(前のスライドから続く)
ヤツコ:じゃあ私が空だと言ったのは間違いなのですね。それはあなたが言ったことではないのですか。そこが問題ですが、はっきり言ってください。
カストー:空だと言ったのは、おそらく不正確です。
ヤツコ:分かりました。
スライド30
ヤツコ氏がするべきであったことは、自分の証言に疑いがあるのならば、ニュースメディアに対してすぐにそれを表明することであった。そうしたならば、彼は日本政府の信用性に対する損害を最小限に食い止められたであろう。しかし、彼はそうしなかった。
次の文章は、ヤツコ氏が、自分の信用性について、疑問を持っている証拠であろう。
発言者:私たちはプールが空であったというべきではなかったかもしれません。
ヤツコ:ろうそう。分かっています。皆、私の信頼性を問題にしています。それは問題です。
スライド31
ヤツコ氏の証言で、使用済核燃料の保管プールの水が空になっているということの影響はどのようなものだったのだろうか。
▼ メディアによる日本政府の信頼性について、どのような影響があったのだろうか。つまり、福島を報道する日本のメディアにどの程度の影響があったのだろうか。
▼ 日本の政府の国民ヘの信頼性に、どの程度の影響があったのだろうか。つまり、日本政府が保証した安全性について信じられなくなった日本の人々に、感情面のストレスを与えてしまったのではないだろうか。
▼ これらの答えについて、正確な評価をした回答をすることは不可能であろう。日本政府は、コミュニケーションについて適切に行うことができず、信頼の崩壊について批判されるような行動をしていた。
▼ しかし、確かにヤツコ氏の証言は、ある程度の大きな影響があった。日本政府の広報の信頼性に影響があった。
▼ そうならば、この話は多くの人に関心を持ってもらうべきと考えた。
スライド32
調査内容を示すためにスレートとニューズウィークジャパンに寄稿した。
ニューズウィーク紹介記事。本文、ネットに未公開。池田信夫氏の紹介記事「アメリカ政府の誤った退避勧告」。
「Fukushima’s Worst-Case Scenarios–Much of what you’ve heard about the nuclear accident is wrong」
「How a US mistake after Fukushima hurt Japan」
スライド33
いくつかの結論
▼2011年3月において、日本のメディアは、外国メディアより、適切な情報を提供した。
▼ 東京はこれまで危険になったことはない。米国政府の考えた最悪のシナリオに反映されたような科学的知見に基づけば、そうなることは自明だった。反原発の活動家が唱えたような東京は危険で、脱出するべきだという主張は、意味がなかった。
▼ 特に日本政府要人の使った「悪魔の連鎖」という表現などの誇張した報道などがあった。米国政府の最悪のシナリオをメディアが無視したという事実のように、日本以外のメディアの福島をめぐる報道は、問題を悪化させてしまった。
▼ 私のかつての職業であった日本での外国特派員は、日本に害を与えてしまった。そして米国政府も問題のある行動をした。この問題に責任があると思う。
スライド34
それではどちらの方がよいだろうか
▼ 潜在的な危険を強く強調する懐疑的なメディアがよいのか。
▼ 危険を強調としない、受け身のメディアがよいのか。
▼ 繰り返すが、どちらもよくない。
▼ しかし、福島事故の場合に大きく危険を示したメディアは、考えられるよりも悪い悪影響を与えてしまっている。
(2014年1月14日掲載)
関連記事
-
バックフィットさせた原子力発電所は安全なのか 原子力発電所の安全対策は規制基準で決められている。当然だが、確率論ではなく決定論である。福一事故後、日本は2012年に原子力安全規制の法律を全面的に改正し、バックフィット法制
-
日本経済研究センター 3月7日発表。2016年12月下旬に経済産業省の東京電力・1F問題委員会は、福島第1原発事故の処理に22兆円かかるとの再試算を公表し、政府は、その一部を電気料金に上乗せするとの方向性を示した。しかし日本経済研究センターの試算では最終的に70兆円近くに処理費が膨らむ可能性すらある。
-
私は原子力の研究者です。50年以上前に私は東京工業大学大学院の原子炉物理の学生になりました。その際に、まず広島の原爆ドームと資料館を訪ね、原子力の平和利用のために徹底的に安全性に取り組もうと決心しました。1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故は、私の具体的な安全設計追求の動機になり、安全性が向上した原子炉の姿を探求しました。
-
会見する原子力規制委員会の田中俊一委員長 原子力規制委員会は6月29日、2013年7月に作成した新規制基準をめぐって、解説を行う「実用発電用原子炉に係る新規制基準の考え方に関する資料」を公表した。法律、規則
-
六ケ所村の再処理工場を見学したとき印象的だったのは、IAEAの査察官が24時間体制でプルトニウムの貯蔵量を監視していたことだ。プルトニウムは数kgあれば、原爆を1個つくることができるからだ。
-
電力システム改革の論議で不思議に思うことがある。電力会社や改革に慎重な人たちが「電力価格の上昇」や「安定供給」への懸念を述べることだ。自由化はそうした問題が起こるものだ。その半面、事業者はがんじがらめの規制から解き放たれ、自由にビジネスができるようになる。わざわざ規制当局の代弁をする必要はないだろう。
-
アゴラ研究所はエネルギー情報を集めたバーチャルシンクタンクGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)を運営している。12月に行われる総選挙を前に、NHNJapanの運営する言論サイトBLOGOS、またニコニコ生放送を運営するドワンゴ社と協力してシンポジウム「エネルギー政策・新政権への提言」を11月26、27日の2日に渡って行った。(ビデオは画面右部分に公開)
-
エネルギー戦略研究会会長、EEE会議代表 金子 熊夫 GEPRフェロー 元東京大学特任教授 諸葛 宗男 周知の通り米国は世界最大の核兵器保有国です。640兆円もの予算を使って6500発もの核兵器を持っていると言われてい
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間