原発ゼロ、オリンピック返上を明言 — 都知事候補・細川氏の主張する原発政策
首相コンビの不思議な都知事選
小泉純一郎元首相の支援を受けて、細川護煕元首相が都知事選に出馬する。公約の目玉は「原発ゼロ」。元首相コンビが選挙の台風の目になった。
14日の会見で細川氏は「原発の問題などについて、国の存亡に関わる問題だという危機感を持っている」と述べた。小泉氏は「原発ゼロでも日本は発展できるというグループと、原発なくして日本は発展できないというグループとの争い」と過激な形で選挙を定義してしまった。
ただし彼らの主張を合理的に解釈しようとしたら、頭が混乱するばかりだろう。2人は論理よりも感性で動いている人たちだ。
細川氏のエネルギーをめぐる主張を検証してみよう。いくつかのメディアに取り上げられたが、昨年12月に刊行された「池上彰が読む小泉元首相の原発ゼロ宣言」(径書房)の記事、そして毎日新聞の17日付の独占インタビュー記事だ。(都知事選出馬表明、細川護熙元首相 「殿、ご乱心」の胸中は)
原発ゼロの道筋は不明
そのポイントは次のようなものだ。本によれば、細川氏以下の主張をしている。
1・原発は危険である。英国のセラフィールドの核施設周辺では、「白血病が多発している」。また福島原発事故について「セシウムがばらまかれたのですから、何十年も収束しないかもしれない。長期間ふるさとに帰れない人が当分減ることはない」と指摘した。そのために、原発ゼロを目指さなければならないという。
2・原発ゼロについては「デモで世の中は変わらない」と指摘した。そして原発ゼロを実現するためには、「私事として、国民みんなで考えていくこと」という。しかし具体策はなかった。
ちなみに著者であるジャーナリストの池上彰氏も反原発デモについて「金曜日の夜にたまたま霞が関を通りかかりましたが、一握りの活動家タイプの人たちだけになっていました。一般の人だったら「近寄りたくないな」と思う人たちです」と批判している。しかし池上氏は、細川氏の考えを「それぞれの立場で発言することは必要」と、評価していた。
3・またオリンピックについては次のように述べていた。
「安倍さんが『オリンピックは原発問題があるから辞退する』と言ったら日本に対する世界の評価が格段に違ったものになっていますよ」「安倍さんにはそう言ってもらいたかった。それが総理のリーダーシップですよ」「安倍さんはちょっと感覚が悪すぎる」
この点について池上氏は、「安倍さんが辞退なんてしたら風評被害どころか、とんでもない問題になっていただろう」と、まっとうなコメントをしている。また毎日新聞インタビューで細川氏は、返上を明言せず、「東北を交えたオリンピックを考えるべき」と述べていた。
4・毎日新聞インタビューでは、福島原発4号機の問題を述べた。
「大変気にしている(中略)このところアメリカの議会をはじめ内外の専門家が警告を発しはじめたように、4号機の原子炉建屋が再び大きな地震や津波に襲われた場合、地上30メートルにある使用済み燃料プールが崩壊し、チェルノブイリをはるかに超えるセシウムが放出される可能性があるといわれている」
5・毎日インタビューでは、出馬の動機を次のように語った。
「脱原発の声をあげる時でしょ。国家の存亡がかかっている。私が知事選に出馬するのは国家の危機を救いたいがためです。<殿、ご乱心>なんですよ」
筋の悪い情報を信じる細川氏
こうした情報を見れば、細川氏が、原発を国家的リスクとして憂い、その是正を求めようとしていることが分かる。しかし、その実現のための手段がまったく見えない。
そして発言からうかがえるのは、細川氏がかなり「質の悪い」情報を受け入れて、それに基づいて発言しているということだ。
小泉氏は、自分でエネルギー問題を勉強している形跡がある。自然エネルギーの可能性を記した、米国のエネルギー学者のエイモリー・ロビンス氏の『新しい火の創造』(ダイヤモンド社)という専門書の情報を、講演で引用していた。
ところが細川氏は原発をめぐる怪しげな情報を信じているようだ。細川氏の述べた「英国の核関連施設の周囲で白血病が多発している」という情報は、反原発を過激に主張する活動家が盛んに指摘する。例えば、坂本龍一氏の「ロッカショ 2万4000年後の地球へのメッセージ」(講談社)などで言及されていた。英国政府の調査によればこれまでそのような事実は、確認されていない。(原子力情報ATOMICA『英国における原子力施設周辺の小児白血病』 )
また福島原発4号機は、耐震補強工事が完成しており、使用済核燃料の取り出し作業も昨年10月に始まっている。(東京電力ホームページ、福島第1原発4号機の現状)細川氏は、いつの情報を、誰から聞いて、話しているのだろうか。
また20日午前時点でエネルギー、原発ゼロをめぐる具体策を、細川氏はまったく発表していない。
都知事が原発でできることはあまりない
そもそも東京知事の職分と、原発は直接結びついていない。
福島原発事故の後で、「原発どうする」など、エネルギーをめぐるさまざまな問題が噴出した。立場ごとに、取り組むべき優先課題は違う。東京都は電力では「消費地」という立場だ。そして日本の全電力消費の1割を使う。
その制約条件から考えれば、東京都の最大の課題は、省エネによる電力消費の抑制と安定供給手段の確保、都民の使うエネルギー価格の抑制、そして福島・新潟という原発立地両県の人々への感謝であるし、これからもそうであろう。ところが「原発ゼロ」は、そうした都が取り組むべき課題とはまったく方向が違う。
退任した猪瀬直樹都知事は、副知事時代に「『水に落ちた犬は打て』という。東電を叩くのは今だ」と、過激で品のない発言をしていた。そして原発事故直後に、「東電の独占をなくす」「原発をなくても大丈夫にする」と目標を定め、都内での大型天然ガス発電施設の検討を指示した。ところが、コストがかかりすぎると、都は13年に発電所建設計画を断念した。
猪瀬氏は副知事時代から、自然エネルギーの振興も表明した。しかし国が固定価格買取制度という大規模な支援に2012年から動いたため、都の出る余地は少なくなった。
そもそも東京電力は、国の支援を受けて過半の株を国が保有する事実上の国営企業で、国の意向と大きく違う行動をできない。都は東電の上位4番目の大株主だが、その持ち株比率は現在1・3%にすぎない。株主としてコントロールをすることもできない。
猪瀬氏の経験が示すように、東京都が原発をめぐって、できることはかなり少ない。それよりも、ずれた対応や配慮の乏しい発言が、東京都民や他地域の住民に影響を与えてしまう。
細川氏のエネルギー、原発をめぐる行動の修正を求めたい。もちろん投票は誰にしても自由だが、「現時点で細川氏は『原発ゼロ』の具体策がない」という事実を受け止めて、都民は都知事選候補の選定を考えるべきではないだろうか。
細川氏が社会にインパクトを与えるためだけに都知事選に出馬しようと考えているならば、それは誤っている。
(2014年1月20日掲載)
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