蟷螂の斧―河野太郎議員の電力システム改革論への疑問(その2)・原発は優遇されているのか?
原発の優先給電
河野太郎議員は2014年6月11日付ブログ記事「いよいよ電力の自由化へ」で、以下のようなことを述べておられる。
○これまでの電力連系は、電力会社をはじめとする電力系統利用協議会(ESCJ)という組織が「電力系統利用協議会ルール」というものを作っている。
○これを読むと、再生可能エネルギーよりも原発を優先していたり、電力会社間の融通を新電力よりも優先していたり、時代に合わなくなっているところが多々ある。
○こうした既存のルールを基に自由化後のルールを決めたのでは意味がない。
○そのためにも電力自由化後にどういうルールを適用するのか、非常に大切だ。
同議員は、300ページ弱にも上る専門技術的な文書である「電力系統利用協議会ルール」まで読みこなされているようで、非常に驚いた。私は到底その域まで達しない。
なので、このルールに詳しい関係者に、同議員の指摘部分について私が抱いた疑問を聞いてみた。議員が、電力系統利用協議会ルールが時代に合わなくなっている点として挙げておられる「再生可能エネルギーよりも原発を優先していること」についてだ。
「電力会社間の融通を新電力よりも優先している」とも指摘されているが、これはいわゆる「先着優先の原則」のことを指しているのか、全国融通のことを指しているのか、この文章だけでは趣旨が判然としないところがあるので、ここでは論じない。ただ、もしそれが明確になるようなご発言などを後に見かけたら、そのときには再度検討してみたい。
で、原発の優先給電問題である。例えば、連系線に混雑(連系線の利用希望が運用容量を超過すること)が発生した場合、超過分に相当する利用希望を順次抑制していく必要があるが、電力系統利用協議会ルールでは、その際の優先順位を次のように定めている。(該当部分は、第4章 第11節 3.抑制順位)
(1)連系線等の新規利用潮流
(2)認定を受けた既存契約等による利用潮流(認定を受けた長期固定電源および自然変動電源を原資とする連系線等の利用潮流を除く。)
(3)認定を受けた自然変動電源を原資とする利用潮流
(4)前日スポット取引約定による利用潮流
(5)全国融通による利用潮流
(6)認定を受けた長期固定電源を原資とする利用潮流
(注・ここでの「長期固定電源」とは原子力、水力(揚水式を除く)および地熱発電所の総称をいう)
原発のいわゆる「出力調整」問題の壁
このルールに基づく運用について、河野議員は「今は原発の稼働を優先して、再生可能エネルギーの出力を抑制しているが、それを逆にせよ」と主張しているのだろう。しかし、これを見て驚いた。こうした主張は、これまで政治的な問題にもなったいわゆる原子炉の出力調整を積極的に行うべきだということにつながってしまうからである。
原発は、固定費が大きく可変費が小さいので、出力一定で運転する方が経済性の面で望ましい。しかし、技術的には出力調整ができないわけではない。もともと、軽水炉は潜水艦という移動装備のエンジンに使われている技術であり、出力調整ができなければものの役に立たない。原子力発電の比率が高いフランスなどでは、通常の発電所でも出力調整が行われているくらいだ。にもかかわらず、日本でできないでいるのは、チェルノブイリ原発事故が出力抑制運転の試験中に起こった等々の理由で、反原発勢力が強硬に反対してきたからである。
再生可能エネルギーを原発よりも優先すべきとの主張は、昨今の日本の空気からすれば、誰も表立って批判できないだろう。しかし、「優先」というのは何を優先することを言っているのか。政府の支援だの民間投資環境の整備だの、経済的な支援については原発よりも優先的に適用し、再生可能エネルギーの導入を促進していくということと、系統運用の中で最適な給電指令を行っていくために、技術的観点でどの発電機を「優先」させていくのかということとは、次元が全く違う話である。
仮に、その技術的な面でも「優先」給電させようとすれば、「原発の出力調整運転の実現」という政治的に難しいアジェンダとセットになるのだ。議員がその先頭に立って、そのアジェンダを実現する役目を果たしていただけるのであれば、自らの「再生可能エネルギーを原発より優先」という主張と言行一致だと認めざるをえない。ぜひ、これまでの懸案だった本件について、電力システム改革の実現を契機に解決していただくことを望みたい。
(2014年9月8日掲載)
![This page as PDF](https://www.gepr.org/wp-content/plugins/wp-mpdf/pdf.png)
関連記事
-
活断層という、なじみのない言葉がメディアに踊る。原子力規制委員会は2012年12月、「日本原電敦賀原発2号機直下に活断層」、その後「東北電力東通原発敷地内の破砕帯が活断層の可能性あり」と立て続けに発表した。田中俊一委員長は「グレーなら止めていただく」としており、活断層認定は原発の廃炉につながる。しかし、一連の判断は妥当なのだろうか。
-
リスク情報伝達の視点から注目した事例がある。それ は「イタリアにおいて複数の地震学者が、地震に対する警告の失敗により有罪判決を受けた」との報道(2012年 10月)である。
-
四国電力の伊方原発3号機の運転差し止めを求めた仮処分の抗告審で、広島高裁は16日、運転の差し止めを認める決定をした。決定の理由の一つは、2017年の広島高裁決定と同じく「9万年前に阿蘇山の約160キロ先に火砕流が到達した
-
>>>(上)はこちら 3. 原発推進の理由 前回述べたように、アジアを中心に原発は再び主流になりつつある。その理由の第一は、2011年3月の原発事故の影響を受けて全国の原発が停止したため、膨大な費用が余
-
アゴラ研究所は10月20日、原子力産業や研究会の出身者からなる「原子力学界シニアネットワーク」と、「エネルギー問題に発言する会」の合同勉強会に参加した。 そしてアゴラ研究所所長の池田信夫さんが、小野章昌さん(エネルギーコ
-
原発における多層構造の請負体制は日本独自のものであるが、原発導入が始まって以来続けられているには、それなりの理由がある。この体制は、電力会社、原子炉メーカー、工事会社、下請企業、作業者、さらには地元経済界にとって、それぞれ都合が良く、また居心地の良いものであったため、この体制は関係者に強く支持されてきた。
-
実は、この事前承認条項は、旧日米原子力協定(1988年まで存続)にもあったものだ。そして、この条項のため、36年前の1977年夏、日米では「原子力戦争」と言われるほどの激しい外交交渉が行われたのである。
-
(GEPR編集部)原子力規制委員会は、既存の原発について、専門家チームをつくり活断層の調査を進めている。日本原電敦賀発電所(福井県)、東北電力東通原発(青森県)に活断層が存在すると同チームは認定した。この問題GEPR編集部に一般のビジネスパーソンから投稿があった。第三者の意見として紹介する。投稿者は電力会社に属していないが、エネルギー業界に関わる企業でこの問題を調べている。ただし匿名とする。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間