電力料金値上げ、苦しむ経営者の声-鋳造、特殊ガラス製造

2015年01月13日 17:00

電力料金上昇に苦しむ鋳造業、特殊ガラス製造業の2社の経営者に話を聞いた。これら2業種は電炉を使う電力多消費産業だ。その意見を紹介する。

円安と原発の停止の影響で、自由化されている産業向け電力料金では2011年から総じて3-4割アップとなった。多くの企業は電力料金の上昇に苦しむ。

福島原発事故の後で、原子力に対する否定的な意見が広がった。人々の意見は尊重すべきだが、そうした意見ばかりが注目され、苦しむ企業の声があまり伝わらない。エネルギーをめぐる問題は複雑で多様な意見に配慮しければならないのに、これはおかしな状況だ。

エネルギー政策は多様な観点から問題を考えなければならない。目先は原発を利用して、速やかな再稼働を求める声があることも、当然考慮すべきだ。

飛高利美社長 富和鋳造(ホームページ


(写真1)飛高社長

(インタビューの一部はビデオ「【原子力国民会議】原子力を国民の手に 短縮版」で掲載されている。)

私の会社は川口市にある鋳造業です。昭和21年に父が創業しました。現在の経営の状態についてですが、仕事量はまあまああります。しかし電気料金が月150万円ほど上がってしまい、それによって経営が完全に圧迫されています。節電のために、さまざまな取り組みをしてきましたが、それにも限界があります。

鋳造業は、電炉で鉄、スクラップを溶かして、鋳物の型に流し込んで製品をつくります。そして当社は下水管、配管、機械部品などをつくってきました。昔は石炭からできるコークスを燃やし溶鉱炉(キューポラ)で鉄を溶かしていました。しかし今では大気汚染の問題などがあって、電炉に変わっています。また元に戻すことは不可能でしょう。

私は技術と人材が会社の財産と思います。社員と共に、技術の研鑽を続けてきました。社員40名ほどの会社ですが、国の表彰制度である高度熟練技術者が私を含めて3人、一級鋳造技能士が10人います。そして鋳造業は日本の製造業を支えてきました。私もそこに関わってきた自負があります。

(写真2)富和鋳造の様子

ところが電気料金の上昇で、経営はとても厳しい状況にあります。鋳造業は製造原価の1割以上が電気料金という、電力多消費産業です。会社の製造コストの1割強が電力料金になりますが、月150万円の上昇で利益はほとんどなくなり、赤字の可能性もあるのです。そして製品価格にはなかなか転嫁できません。電力自由化が進み、新電力の利用も考えましたが、当社は特殊な電気の使い方をするために、うまく契約が成立しませんでした。

製造業は設備が巨大であるため、海外に移転することはとても難しいのです。またこれまで磨いてきた技術を持つ人を、海外に求めることは不可能でしょう。電力料金の値上げに苦しんでいるのは当社だけではありません。川口の鋳物業界では、どこもそうです。

福島原発事故が起こったために、私は基本的には原発を動かしたいとは思いません。しかし、現在を生きるために、原発を稼働させ、それによって電気料金を抑えてほしいのです。

製造業は国の経済の基本です。日本は資源がない国です。ものづくりによって価値を生み出すしか、豊かな生活を送る道がありません。これは日本に生活する人なら誰もが合意するはずです。製造業の強さによって、世界の中で日本は大きな存在感を持ってきました。鋳造業はその一翼を担いました。もちろん私たちも頑張りますが、製造業の苦境を理解していただきたいと思います。

(取材は14年11月)

岡本毅社長 岡本硝子(ホームページ


講演する岡本社長(写真3)

私どもの会社は、特殊ガラスの製造業です。世界で十数社程度と思われる同業の企業と競争をしています。プロジェクターに使う光学部品2点及び歯科医向けの鏡では世界シェアでトップを占めます。

当社は板ガラスと違った特殊なガラスを作ります。板ガラスなどは大きな炉の中で重油を燃やし原材料を溶かし、大量生産します。当社は電気溶融炉を使います。1年365日、24時間通電させて加熱し、原材料とガラス粉を熔かし続け、製造をしています。

電気料金単価を震災前と比べると、当社の場合は62%の上昇になりました。当社は千葉県の柏市、新潟県柏崎市と、東京電力管内に工場があります。円安と、基本料金の上昇によって、生産コストは上昇しています。一方で、競争はグローバルなのでそのコストを製品価格に転嫁できません。

海外のある大手メーカーとの契約交渉を本日行ってきました。15年の納入価格は、製品単価で見ると過去最低の水準になりました。そして同業のドイツ、台湾のメーカーと競争をしているために、価格の引き上げに踏み切れないのです。現時点で世界トップシェアを維持できるかを心配しています。

会社の製造コスト全体に占める電気料金の割合は、2011年上半期には8%だったのですが、2014年上半期には14%まで増えました。さらに、主力製品単品ではグローバル競争の中で製品単価は下がり続けますので、製造原価に占める電気代の割合は、3.11以降4倍にもなりました。

節電のためにさまざまな工夫をしてきましたがもう限界です。これまで製造工程の一部を人件費の安い海外に移す対策をしました。しかし、これ以上、電力料金が上昇する、もしくは今の値段が続けば、主要な工程を海外に移さなければならなくなります。そのための対策を考えなければなりません。

当社は昭和3年(1928年)創業の会社です。「江戸切り子」というガラス細工から出発しましたが、10年と同じ物を作り続けていません。過去の蓄積の上に新しい物を作ってきました。そうした変化は、社員の能力、そして技術によるものとして、人への投資を重ねてきました。しかし海外に工場が移れば、雇用も生まれません。そして技術も継承できなくなるでしょう。

福島原発事故の後で、原子力をめぐるさまざまな意見があることは承知しています。また原発を次第になくすことは致し方ないと思います。しかし企業努力が前提ではあるものの、それでは対応できないエネルギー政策によって経営の問題が生じているのです。

国の方針としては、原発については安全性が確認できたものから速やかに再稼働をすることが表明されています。その審査を速く進め、目先においては原発を活用して、電力料金を抑制していただきたいと思います。当社だけではなく、電力多消費産業の人々はどこも同じ悩みを抱えています。一刻も早い対応が、求められています。

(取材は14年12月4日開催の原子力国民会議第2回東京中央集会の講演を再構成。62%の電力単価の上昇は、同社の特殊な使用方法のため。)

(取材・編集 石井孝明 ジャーナリスト)

(2015年1月13日掲載)

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