学術会議は違法な提言をやめよ
東京新聞によれば、学術会議が「放射性廃棄物の処理方法が決まらない電力会社には再稼動を認可するな」という提言を17日にまとめ、3月に公表するらしい。これは関係者も以前から懸念していたが、本当にやるようだ。
文書をみていないので確かなことはいえないが、もし学術会議が核廃棄物の処理を条件として原発の運転停止を提言するとすれば違法である。原子炉等規制法では、原発の停止命令を出せるのは「位置、構造若しくは設備が第43条の3の6第1項第4号の基準に適合していないと認めるとき」であり、核廃棄物の処理はこの技術基準に含まれていないからだ。
学術会議が2012年に出した提言についても、私はかねてから疑問を呈してきた。地層処分で問題になるのは、放射性廃棄物の経口毒性だが、プルトニウムの経口毒性は水銀や砒素より低い。有機水銀は水に溶けて魚などに蓄積するが、プルトニウムは水に溶けない。
しかも水銀や砒素の毒性は永遠に続く。毒性が数百年で無害なレベルに減衰するプルトニウムの「10万年後の安全が保証できないから原発は運転するな」というなら、有機水銀や砒素を使う化学プラントの運転も停止しなければならない。
この高レベル放射性廃棄物の処分に関する検討委員会の今田高俊委員長は原子力の専門家ではない社会学者であり、委員の構成も反原発派に片寄っている。もともとこの委員会に審議が依頼されたのは「国民に対する説明や情報提供のあり方」であり、処理方法ではない。
政府が法的根拠なく発電所の運転停止を命じるのは財産権の侵害であり、学術会議がそういう違法行為を勧告することは違法(学術会議法違反)である。そもそも原子力規制委員会に再稼動を認可する権限はない。今からでも遅くないので、学術会議の提言は撤回すべきだ。
追記:厳密にいうと炉規制法の「設備」の要件に核廃棄物の処理施設も含まれているが、現在は中間貯蔵でよい。これを違法にする法改正なら意味があるので、具体的な改正案を提言し、国会でバックフィットの条件を議論してほしい。
(2015年2月16日掲載)

関連記事
-
EUの気象情報機関コペルニクス気候変動サービスは、2023年の世界の平均気温が過去最高を記録し、産業革命前より1.48℃高くなったと発表した。 これは気温上昇を1.5℃以内に抑えるというパリ協定の努力目標まであと0.02
-
このごろ世の中は「脱炭素」や「カーボンニュートラル」でにぎわい、再生可能エネルギーとか水素とかアンモニアとか、いろんな話が毎日のようにマスコミに出ています。それを後押ししているのがESG投資ですが、その意味がわからない人
-
アゴラチャンネルで池田信夫のVlog、「脱炭素で成長できるのか」を公開しました。 ☆★☆★ You Tube「アゴラチャンネル」のチャンネル登録をお願いします。 チャンネル登録すると、最新のアゴラチャンネルの投稿をいち早
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
-
米国トランプ政権は4月8日、「美しいクリーンな石炭産業の再活性化」というタイトルの大統領令を発し、石炭を国家安全保障と経済成長の柱に据え、その推進を阻害する連邦規制を見直すこと、国有地での鉱区の拡大、輸出の促進などを包括
-
地球温暖化は米国では党派問題である。民主党支持者は「気候危機だ、今すぐ大規模な対策が必要」とするが、共和党支持者は「たいした脅威ではなく、極端な対策は不要」とする。このことは以前述べた。 さて米国では大手メディアも党派で
-
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、2030年までに世界の平均気温が産業革命前より1.5℃(現在より0.5℃)上昇すると予測する特別報告書を発表した。こういうデータを見て「世界の環境は悪化する一方だ」という悲観的
-
連日の猛暑で「地球温暖化の影響ですか?」という質問にウンザリしている毎日だ。 最新の衛星観測データを見ると、6月の地球の気温は1991-2020年の30年間の平年値と比べて僅かにプラス0.06℃。0.06℃を体感できる人
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間