核融合は今こそ原型炉建設の政治判断を

y-studio/iStock
報道にもあったが、核融合開発のロードマップが前倒しされたことは喜ばしい。
だが残念ながら、いま一つ腰が引けている。政府による原型炉建設へのコミットメントが足りない。
核融合開発は、いま「実験炉」段階にあり、今後2兆円をかけて「原型炉」を建設して発電実証を行えば、その後は実用化できる。無尽蔵のクリーンエネルギーが既存の火力や原子力発電と遜色ないコストで手に入る。
では政府の検討状況はどうか。2月1日の文科省核融合科学技術委員会の配布資料4には、以下の記述がある。
- 原型炉開発総合戦略タスクフォースにおける技術的な検討の結果及びアクションプランの更新案については、核融合科学技術委員会で受け入れるものとする。
- 一方、「核融合発電の実施時期の変更」については、現在、ITER のベースラインの見直しが行われており、ベースラインの検討状況等を総合的に勘案した上で判断する必要があることから、決定を保留する。
- これを受け、アクションプラン更新案のうち、第2回中間チェック・アンド・レビュー(2025年頃)以降の活動については、同レビューを経て改めて検討するものとする。
ここで、「アクションプランの更新案」とは、核融合開発のロードマップの前倒しのことであり原型炉建設がその中心となる。「ITERのベースライン」とは、国際共同の実験炉ITER建設の進捗状況のことである。そして2025年頃にITERの進捗をチェックして原型炉に着手する、となっている。
つまりのところ、まずはITERの進捗を2025年まで様子見してから原型炉建設への着手を判断しましょう、ということになっている。
だが、これはもっと前倒しすべきではないか。
同委員会の配布資料5を見ると以下の記述がある。
中国においては、ITER と同規模の工学試験炉 CFETR の建設を独自に進め、2030 年代までに原型炉に改造する計画を進めている。
つまり、事実上、中国はすでに原型炉の建設を進めている!
ITER完成後に予定されている実験運転は実用化に向けて重要である。しかし、その建設はもう峠を越えており、主要な要素技術は全てメドが立っている。したがって、ITERの完成まで待っていなくても、原型炉は建設できてしまうのだ。中国はそのように判断したということだ。
日本も、ITERの完成を座して待っているのでなく、ただちに、原型炉建設の意思決定をするべきではないか。
日本には原型炉そして実用炉を単独で実現するだけの産業・技術基盤がある。いまからただちに着手すれば、まだ中国に先駆けることが出来る。
ITERには不安もある。国際共同研究で推進しているが、その中には中国とロシアがそれぞれ出資比率9.1%で入っている。かつてのグローバリゼーションの時代にはこれは妥当だった。だがいまや新冷戦の時代に入った。かかる体制でいつまで持続できるのだろうか。
国際宇宙ステーション計画からロシアは撤退したという前例がある。中国への技術流出も当然懸念される。G7諸国によるロシアへの経済制裁、中国へのハイテク輸出規制なども影響するだろう。このような政治的要因によってITERが遅れることも懸念せざるを得ない。
米国MITなどの大学やベンチャー企業の研究開発は興味深いものではあるが、実用炉へ発展させるという視点で見ると、容易に解決できそうにない課題もあり、従って核融合発電の実用化に直結するものではない。実験炉ITERに続いて原型炉を建設することが実用炉実現のために不可欠な王道であることは変わりない。
ただちに原型炉建設に着手することになれば、累計で2兆円が要る。今後数年についてもITERのための予算以外に毎年数百億円超の政府資金投入の追加が必要になるだろう。
だがこれは10年間で150兆円に上るとされる政府GX(グリーントランスフォーメーション)戦略の下での温暖化対策費用に比較すれば僅かなものだ。
2025年に予定されている「チェック・アンド・レビュー」に先立って、この2023年に、原型炉建設の是非についての集中的検討をすべきだ。そしてそれに基づいて、乾坤一擲、政治的な意思決定を望みたい。
■
『キヤノングローバル戦略研究所_杉山 大志』のチャンネル登録をお願いします。
関連記事
-
アゴラ・GEPRは9月27日に第3回アゴラ・シンポジウム「災害のリスク 東日本大震災に何を学ぶか」を開催しました。その映像を公開する。専門家が、地震と震災のリスクを語り合った。
-
米国保守系シンクタンクのハートランド研究所が「2024年大統領選の反ESGスコアカード」というレポートを発表した。大統領候補に名乗りを上げている政治家について、反ESG活動の度合いに応じてスコアを付けるというもの。 これ
-
英独仏を含む欧州7か国が、海外における化石燃料事業への公的支援を段階的に停止する、と宣言した。 だが、もちろんアフリカには経済開発が必要であり、化石燃料はそのために必須だ。このままでは、先進国の偽善によって、貧困からの脱
-
福島では原子力事故の後で、放射線量を年間被曝線量1ミリシーベルトにする目標を定めました。しかし、この結果、除染は遅々として進まず、復興が遅れています。現状を整理し、その見直しを訴える寄稿を、アゴラ研究所フェローのジャーナリスト、石井孝明氏が行いました。
-
痛ましい事故が発生しました。 風力発電のブレード落下で死亡事故:原発報道とのあまりの違いに疑問の声 2日午前10時15分ごろ、秋田市の新屋海浜公園近くで、風力発電のプロペラ(ブレード)が落下し、男性が頭を負傷して倒れてい
-
(GEPR編集部より)サウジアラビアの情勢は、日本から地理的に遠く、また王族への不敬罪があり、言論の自由も抑制されていて正確な情報が伝わりません。エネルギーアナリストの岩瀬昇さんのブログから、国王の動静についての記事を紹介します。
-
(前回:米国の気候作業部会報告を読む⑩:CO2で食料生産は大幅アップ) 気候危機説を否定する内容の科学的知見をまとめた気候作業部会(Climate Working Group, CWG)報告書が2025年7月23日に発表
-
年明けからエネルギー価格が世界的に高騰している。その理由は様々な要素が複雑に重なっており単純には説明できないが、コロナ禍からの経済回復により、世界中でエネルギー需要が拡大するという短期的な要因に加えて、長期的な要因として
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間

















