「2035年の新車販売はEV!」への邁進は正しい選択なのか?②

Naeblys/iStock
2025年までに1000億ドルに成長すると予測されるバッテリー産業だが、EVの「負債」について複数の報告書で取り上げられていた。
(前回:「2035年の新車販売はEV!」への邁進は正しい選択なのか?①)
グリーンエネルギーを提唱する国際クリーン輸送協議会は報告書の中で、中国は世界のリチウムイオン電池の半分以上を製造しているが、EV用電池の製造過程で、従来のガソリンエンジン車より60%多いCO2を発生していると指摘した。
また、再エネを提唱する世界経済フォーラムによれば、ドイツの中型EVの場合、製造時に上回ったCO2を挽回するためには6万から12.5万kmの走行を要するとのこと。バッテリー寿命は10から20年ということだが、海外製EVでは発火事故なども報告されているため、交換時期が気になるところだ。
バッテリーなどの生産には、リチウム、ニッケル、コバルト、マンガン、グラファイトなどのレアアースが不可欠である。
国際エネルギー機関(IEA)の報告書によると、パリ協定の目標を達成するためには、これらの鉱物の生産量を2040年までに、現在の6倍に増やす必要があるという。さらに、エネルギー変換に必要とされる多くの遷移物質の生産地が石油や天然ガス以上に偏在しており、世界の上位3つの生産国が世界の生産量の4分の3以上を支配している。
この市場を支配しているのはコンゴと中国であり、再エネ機器の製造に必須とされる鉱物の大部分を産出する。報告書には、中国の精錬シェアは、ニッケルで約35%、リチウムとコバルトで50〜70%、レアアースで90%近くを占めていると記している。
これらの物質の採掘はエネルギー集約的であり、地域の環境に壊滅的な打撃を与える可能性がある。例えば、鉱物中のリチウムの含有量は採掘岩石の約1%にしか過ぎないため、採掘の過程で広大な土地を破壊してしまう。また、リチウム採掘には大量の水が必要であり、自然環境に負担をかける。
中国の新疆ウィグル地区における人権問題は有名だが、コバルトもアフリカで児童労働によって採掘されることが多い。また、精錬の過程で有害な重金属などの汚染物質が土壌や水中に放出される。
6月のフォーリン・ポリシー誌によると、中国は輸出用のバッテリー産業を急速に発展させる一方で、国内のエネルギー源として石炭の生産量を倍増させ、2022年には3億トン拡大する計画だという。これはEU全体の年間生産量にほぼ匹敵する。
さらに、中国が、石炭によるエネルギーの安定性とコスト競争力を優先する一方で、最大の競争相手である米国は、世界第2位の電力システムを再エネベースに移行するために、供給途絶を頻繁に起こしていると指摘する。
これまでの中国は大量に石油などを生産する国ではなく、これが戦略的なアキレス腱となっていた。ところが、化石燃料から再エネに移行するシナリオの下では、豊富な化石燃料を有する米国が、再エネの原料を中国に依存するという皮肉な結果になっている。
最後に、こうした国内外の現状をみると、我が国もEV化へと邁進するのではなく、バランスの取れた産業・対外政策、その下の技術開発へと方向転換してみてはいかがだろうか。
関連記事
-
ドイツの「ブラックアウト・ニュース(Blackout News)」は、欧州における脱炭素政策(欧州では「ネットゼロ」と称される)による経済的な悪影響を日々報じている。本稿では、その中でも特に産業の衰退(いわゆる産業空洞化
-
「耳順」を拝借した男 松永安左エ門。 明治から昭和を駆け抜け、「電力王」とも「電力の鬼」とも呼ばれた実業家である。「王」や「鬼」という異名には、その人物を実像以上に大きな存在として語ろうとする力学が働いている。 戦後、国
-
日本の温室効果ガス排出は減少している。環境省はカーボンニュートラル実現について「一定の進捗が見られる」と書いている。 伊藤信太郎環境相は「日本は196カ国の中でまれに見るオントラックな削減をしている」と述べ
-
今回は英国の世論調査の紹介。ウクライナ戦争の煽りで、光熱費が暴騰している英国で、成人を対象にアンケートを行った。 英国ではボリス・ジョンソン政権が2050年までにCO2を実質ゼロにするという脱炭素政策(英国ではネット・ゼ
-
このような一連の規制が、法律はおろか通達も閣議決定もなしに行なわれてきたことは印象的である。行政手続法では官庁が行政指導を行なう場合にも文書化して根拠法を明示すべきだと規定しているので、これは行政指導ともいえない「個人的お願い」である。逆にいうと、民主党政権がこういう非公式の決定を繰り返したのは、彼らも根拠法がないことを知っていたためだろう。
-
米朝首脳会談の直前に、アメリカが「プルトニウム削減」を要求したという報道が出たことは偶然とは思えない。北朝鮮の非核化を進める上でも、日本の核武装を牽制する必要があったのだろう。しかし日本は核武装できるのだろうか。 もちろ
-
アメリカでは「グリーン・ニューディール」をきっかけに、地球温暖化が次の大統領選挙の争点に浮上してきた。この問題には民主党が積極的で共和党が消極的だが、1月17日のWSJに掲載された炭素の配当についての経済学者の声明は、党
-
日本の原子力問題で、使用済み核燃料の処理の問題は今でも先行きが見えません。日本はその再処理を行い、量を減らして核兵器に使われるプルトニウムを持たない「核燃料サイクル政策」を進めてきました。ところが再処理は進まず、それをつかうもんじゅは稼動せず、最終処分地も決まりません。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間














