放射線科学会議SAMRAI2014報告 福島県の放射線は健康リスクなし(上)

東日本大震災から4年を経過した3月24日、衆議院第一議員会館の多目的ホールにて、福島の放射線政策の大転換を促す狙いで、科学会議「SAMRAI2014」が開催されました。一般の方、科学者、技術者、報道、国会議員、官僚の約 240人が参加し、 福島および日本、そして人類文明のこれからについて真剣討議しました。各科学報告の詳しい概要と科学会議の結論と日本政府への提案が、放射線防護情報センターのウェブサイトに掲載されていますので、ぜひ 、お読みください。
なお、日本政府への提案の文書は、竹下亘復興担当大臣に手交されました。プログラム委員長の私から、開催の経緯と狙い、プログラムの内容、健康リスクが全くないという結論について説明します。
会議開催にいたるまで
会議の名称は、「第一回放射線の正しい知識を普及する研究会」です。日本から世界に、文明を発展させる気持ちで、放射線の正しい情報を発信するために考えた名称が、Scientific Advisory Meeting for Radiation and Accurate Information、略してSAMRAIです。
福島20km圏の復興を目指したSAMRAI2014は、安倍総理への科学会議開催の提案からはじまりました。あれから2年が経過しました。
2013年4月5日の衆議院予算委員会へ、当時維新の会の山田宏議員の参考人として、私が呼ばれました。そこで、安倍総理の前で私は、放射線防護学とは何かを説明し、今の食品安全の放射能基準などは科学から逸脱した判断があると、専門科学者としての見解を述べました。その後、山田議員が、福島の放射線に関して、国際的な科学会議を日本で開催することを、安倍総理へ提案し 総理が同意したのです。
この後、放射線議員連盟 と民間組織の「放射線の正しい知識を普及する会」(SRI)が発足し、高田がプログラム委員長となって、科学会議の準備が開始しました。小規模な予算のため、当初考えていました多数の科学者を海外から招へいできませんでした。しかしながら、科学的には、これまでにない高レベルで、福島の真の復興を目指した放射線の科学を国内外に発信するにふさわしいプログラムにできたと、私たち主催者は自信を持っています。

過去の核災害の経験を活かす
1945年、日本は世界で最初の核爆発災害を広島・長崎に受け、爆風と熱線で壊滅し、両市で約20万人が死亡しました。しかし速やかに不死鳥のごとく復興しました。放射能の除染は全くありませんでした。しかし当時、被災直後より、理化学研究所の仁科芳雄博士や京都大学の荒勝文作教授ら第一級の科学者多数が現地入りし、徹底的に現地調査がされました。放射線の急速な減衰が確認されています。
そして日本学術会議によって世界最初の核爆発災害調査の報告書1600ページにもなる「原子爆弾災害調査報告書」が1953年3月に刊行されています。みなさんご存じないかもしれませんが、広島市の平均寿命は一時日本一になったこともあるほどの健康都市です。日本が世界一の長寿国なので、広島は世界一の健康都市とも言えるかもしれません。人は意外に放射線に強かったのです。
さらに日本は、未曾有の地震津波災害を受けて誘発した福島第一原発放射線事故を経験しました。しかし、時の政府は国内の専門科学者を現地に投入しないばかりか、20km圏内を立ち入り制限したのです。こうして、科学の目が入らないブラックボックスとなって、情報混乱が国内ばかりか世界に生じてしまいました。
その情報困難を乗り越え、正しい科学情報を世界に発信する義務が日本にはあります。また、核放射線の平和利用のなかで発生した軽水炉放事故による放射線の正しい知識を発信する権利も日本にはあると思います。それを、同じマインドを持った世界の科学者と共同しておこなう、第一回の会議が、今回のSAMRAI2014です。当初、前年の12月 3日開催の予定でしたが、衆議院が解散され総選挙となったため、今年3月への延期開催となったのでした。
世界的な研究者を集める
さて、日本での科学的な組織に合わせて、海外には、正しい放射線の情報のための科学者の会(SARI)が誕生しました。今回は、そこから、2名の著名な科学者・米国フォックス・チャイス・がんセンターの医学物理士モハン・ドス博士、英国オクッスフォード大学名誉教授物理学のウエイド・アリソン博士にお越しいただきました。
会議の主題は、福島の低線量率放射線の科学認識と20km圏内の復興です。「福島の20km圏内を中心とした線量調査の科学データからみた低線量の実体」、「1ミリシーベルト(mSv)以下に規制する論拠とされている放射線のしきい値なしLNT仮説の非科学性と反社会性の指摘」、「低線量率放射線の健康増進科学ホルミシス研究」、「日本の放射線規制の問題点の指摘」、最後に「 核放射線を正しく利用した文明のあり方=教育の重要性」を、5人の科学者が報告しました。
日本側科学者は3人で、筆者の 世界の核災害地の現地調査をしてきた放射線防護学の高田純、元電力中央研究所理事で放射線による 健康増進効果 である「 ホルミシス効果」研究の第一人者の服部禎男博士、大阪大学名誉教授でICRP(国際放射線防護委員会)の委員を歴任した放射線医学者の中村仁信博士です。
以下(下)に続く
(2015年4月13日掲載)

関連記事
-
PHP研究所から2012年2月15に発売されるアゴラ研究所代表の池田信夫の著書『原発「危険神話」の崩壊』 (PHP研究所)から、「第2章 放射能はどこまで恐いのか」を公開する。現在の福島と東日本で問題になっている低線量被曝など、放射能と人体の影響について、科学的な知見を分かりやすく解説している。
-
1986年のチェルノブイリ原子力発電所における事故は、ベラルーシ、ウクライナ、ロシア連邦にまたがる広範な地域に膨大な量の放射性核種が放出される結果となり、原子力発電業界の歴史の中で最も深刻な事故であった。20年経った今、国連諸機関および当該三ヶ国の代表が共同で健康、環境、そして社会経済的な影響について再評価を行った。
-
筆者は1960年代後半に大学院(機械工学専攻)を卒業し、重工業メーカーで約30年間にわたり原子力発電所の設計、開発、保守に携わってきた。2004年に第一線を退いてから原子力技術者OBの団体であるエネルギー問題に発言する会(通称:エネルギー会)に入会し、次世代層への技術伝承・人材育成、政策提言、マスコミ報道へ意見、雑誌などへ投稿、シンポジウムの開催など行なってきた。
-
原発事故の起こった福島で、機会あればさまざまな形で原子力と放射線についいて説明しています。原子力にかかわってきたものの責務であると考えるためです。除染をめぐる質問で、長期目標に設定された年間追加被ばくの1mSv (ミリシーベルト)が正しいのかということです。
-
7月14日記事。双葉町長・伊沢史朗さんと福島大准教授(社会福祉論)・丹波史紀さんが、少しずつはじまった帰還準備を解説している。話し合いを建前でなく、本格的に行う取り組みを行っているという。
-
電力システム改革の論議で不思議に思うことがある。電力会社や改革に慎重な人たちが「電力価格の上昇」や「安定供給」への懸念を述べることだ。自由化はそうした問題が起こるものだ。その半面、事業者はがんじがらめの規制から解き放たれ、自由にビジネスができるようになる。わざわざ規制当局の代弁をする必要はないだろう。
-
国際エネルギー機関(IEA)は毎年11月にリポート「ワールドエネルギーアウトルック」(概観)を公表している。その2012年版の「報道向け要約」を紹介し、日本への影響を考える。同リポートは、世界のエネルギーの主なポイントを示し、その議論をリードする。
-
一般社団法人「原子力の安全と利用を促進する会」は、日本原子力発電の敦賀発電所の敷地内断層(2号炉原子炉建屋直下を通るD-1破砕帯)に関して、促進会の中に専門家による「地震:津波分科会」を設けて検討を重ね、原子力規制委員会の判断「D?1破砕帯は、耐震指針における「耐震設計上考慮する活断層」であると考える」は見直す必要がある」との結論に至った。(報告書)
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間