原子力規制委、行政監査の必要性-独善をただすために

【GEPR編集部注・ここに指摘された原子力規制委の監査組織の必要性は、現在与党自民党、内閣府などで議論されている。】
前稿『原子力規制委員長「恫喝」への疑問-関電美浜審査をめぐり』において述べたように、原子力規制委員会の活動は、法律違反と言えるものが多い。その組織に対しては、やはり外からのチェックが必要であろう。
6月24日の記者会見で田中委員長は「別に我々の仕事を監査してもらわなければならないと感じてはいない」と発言している旨の報道がなされている。本当に原子力規制委員会に監査は必要ないといえるのか。(田中委員長の記者会見議事録)
敦賀の破砕帯評価書問題
昨今、大手企業によるデータ改ざんや不適切会計などの問題が色々と取り沙汰されているが、原子力規制委員会の周辺においてもそういう問題が現にある。一例を挙げれば、敦賀の破砕帯調査の有識者会合の評価書を巡っての問題だ。これはすでに事業者の日本原電と規制委員会との間で2年半余の論争となっている。
事業者が、有識者会合の行った審議や手続の不公正を指摘するとともに、評価書の根拠、立論について科学的技術的観点から根本的な疑問があると、規制委員会、規制庁に対し、異論を公然と唱えてきた。最近になって事業者は規制庁が議論から逃げまくっていることに業を煮やしてか、事業者としては異例とも言える、手続、技術の両面における「検証」作業を自ら行い、ホームページで公表している。(日本原電「敦賀発電所敷地内破砕帯調査について」)
また、この問題はこの2年半の間、マスコミや、あるいは国会の委員会においてもしばしば取り上げられている。それにもかかわらず、規制委員会、規制庁は事業者が勝手に言っていることとして全く目も耳も貸していないようである。
規制委には説明責任がある
果たしてこれで規制委員会、規制庁は、行政機関として正しい対応をしていると言うのであろうか。先の事業者自身による事実関係の「検証」作業について見れば、そこに根拠として示されているデータや資料、発言はすべて公表されているものをもとにしており、かなりの信憑性があると考えるのが常識的な見方だ。
そういう状況下にあって、こういう具体的な「指摘」が事業者、それも被規制者からなされているとすれば、それに対して謙虚に耳を傾け、責任ある行政機関として説明、反論するなり、あるいは訂正するなりの対応をすべきである。それが行政、さらには規制をしている行政機関の本来の責務ではないだろうか。
行政の基本は公正の確保
ちなみに行政機関の活動を統制するために制定された、いくつかの法律を見ると、そこには、「国民主権の理念にのっとり」とか、「国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進」であるとか、「行政運営における公正の確保と透明性の向上」とか「国民の権利利益の保護」といった言葉が出てくるが、これこそが行政機関たる原子力規制委員会が依って立つべき基本原則であろう。
そういう観点からすると、これまでの規制委員会、規制庁の対応や先の田中委員長の発言はその基本原則から全く逸脱していると考えざるを得ない。この敦賀の有識者会合の問題一つを取ってみても、彼らの対応は行政機関としての常識から外れていると考えるのが素直な見方である。それに対して何らの行動もとらない、彼ら自身による自浄能力が発揮されないというのであれば、そういうときこそ外部からの監査が必要だ。
監査の要否は対象の組織が言うべきではない
監査の要否は監査される側の当の本人が言うべきことではなく、その行動を見ている外部の人こそが言うことである。一般に、企業であろうと国、自治体であろうと組織である以上、何らかの問題が起こる可能性は常に存在する。そのために、組織はそういう問題が起こらないようチェックする体制を予め整えているのである。(最近の企業の不祥事は、そう備えをしていてもそれがうまく機能しなかった例でもあるが。)
特に、国においては、巨額の予算を使うとか、国民の権利利益を侵害する可能性のある規制を行うような組織の場合には必須である。別に性悪説に立つということではなく、そういった監査を行う姿勢こそが不正や不祥事に対する警鐘となり、予防になるということである。こういう観点から言えば、監査を行ってもらう必要がない、と公言するトップの姿勢こそ、疑って掛からないといけない。
総務省が監視、監査すべきである
そういう脈絡の中で、先の敦賀の問題が出てきているのである。会社と違って行政機関の場合には、幸いにも別に新しい組織を作らなくても原子力規制委員会を監視、監査する任務を負っている組織は現に存在している。それは、総務省である。総務省は法律上その職務として行政機関の活動を監視、監督する責任を有している。その設置法には、第4条第17号に「各行政機関の業務の実施状況の評価及び監視を行う。」と明記されている。
このことについては筆者自身別稿(エネルギーフォーラム3、4、5月号)において既に指摘してきたところであるが、未だに総務省の動きは見えてこない。行政機関は企業の不祥事が出てくるたびに、それを批判、批難しているが、自分たちの身内のことには目をつぶるとでもいうのであろうか。そんなことは断じてないと信じたい。
総務省をはじめこの問題に係わる行政機関が原子力規制委員会、規制庁による行政の不正や不法行為、説明責任の欠如を是正、改善するよう、一刻も早く取り組むべきである。原子力規制委員会が独立性の強い3条委員会であるからといって怖れをなしていてはいけない。行政の規律を守らなくていい、不正を行っていいとは法律のどこにも書かれていない。3条委員会であろうと行政機関である以上、その組織における行政運営につき「公正と透明性の確保」が求められていることには何ら変わりはない。その行動を監視する役目が総務省に職務としてあるのだから。
(2015年7月13日掲載)

関連記事
-
各国政府に放射線についての諸基準の勧告を行う民間団体のICRPの日本委員が、同委員会の関係の動きを紹介している。
-
第二部では長期的に原発ゼロは可能なのかというテーマを取り上げた。放射性廃棄物処理、核燃料サイクルをどうするのか、民主党の「原発ゼロ政策」は実現可能なのかを議論した。
-
産経新聞によると、5月18日に開かれた福島第一原発の廃炉検討小委員会で、トリチウム水の処理について「国の方針に従う」という東電に対して、委員が「主体性がない」と批判したという。「放出しないという[国の]決定がなされた場合
-
東日本大震災の地震・津波と東京電力福島第一原子力発電所事故でダメージを受けた、福島浜通り地区。震災と事故から4年近くたち、住民の熱意と国や自治体などの支援で、自然豊かな田園地帯は、かつての姿に戻り始めようとしている。9月5日に避難指示が解除された楢葉町の様子を紹介する。
-
経済産業省は1月14日、資源・エネルギー関係予算案を公表した。2015年度(平成27年度)当初予算案は15年度7965億円と前年度当初予算比で8.8%の大幅減となる。しかし14年度補正予算案は3284億円と、13年度の965億円から大幅増とし、総額では増加となる。安倍政権のアベノミクスによる積極的な財政運営を背景に、総額での予算拡大は認められる方向だ。
-
GEPRを運営するアゴラ研究所は「ニコ生アゴラ」という番組をウェブテレビの「ニコニコ生放送」で月に1回提供している。今年1月19日の第1回放送は「放射能はそんなに危険?原発のリスクを考える」。有識者を集めた1時間半の議論の結論は、「福島に健康被害の可能性はない」だった。
-
9月5日、韓国の科学技術情報通信省は、東電福島第一原発サイトで増え続けている「トリチウム水」(放射性のトリチウムを含んだ処理水)の問題に関し、「隣国として、海洋放出の可能性とこれに伴う潜在的な環境への影響に深刻な憂慮があ
-
日本ばかりか全世界をも震撼させた東日本大地震。大津波による東電福島第一原子力発電所のメルトダウンから2年以上が経つ。それでも、事故収束にとり組む現場ではタイベックスと呼ばれる防護服と見るからに息苦しいフルフェイスのマスクに身を包んだ東電社員や協力企業の人々が、汗だらけになりながらまるで野戦病院の様相を呈しつつ日夜必死で頑張っている。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間