ネイチャーは気候科学の嘘を撤回したが金融機関は大きすぎて潰せない

wildpixel/iStock
9月5日付の本コラムで、私はポツダム研究所の研究者がネイチャーに掲載した論文の欠陥騒ぎについて書いた。
気温だけで経済成長を説明しようとする無理筋のモデルで、「気候変動影響により2100年までに世界のGDPが6割減る」と騒ぎ立てていたのである。ちなみにこの論文は気候分野において2024年に世界で2番目に頻繁にメディアで取り上げられたものだいう。
その論文がついにネイチャーから正式に撤回された。著者自身が「単なる訂正では済まないほど誤りが重大だった」と認めざるを得なくなったからだ。それでも一部の報道や専門家のコメントは「数字はやや大げさだったが、気候変動が経済に深刻な損害を与えるという結論自体は変わらない」と、軽い“修正”で片付けようとするものだ。
しかし、ロジャー・ピールキ Jr.が強調するように、この論文は、単なる学術成果に留まらず、世界銀行やOECD、各国財政当局、そして何より世界の中央銀行からなるグリーン化ネットワーク(NGFS)がネットゼロ(CO2排出ゼロ)を推奨するにあたって科学的な基礎として使用されてきた。その論文が「致命的欠陥」で撤回された以上、本来ならNGFSのネットゼロ目標も、いったん白紙撤回して作り直すのが筋というものだ。
豪州の研究者ジョー・ノバは「そもそも、あれほどお粗末な論文がなぜネイチャーに掲載されたのか」と問い、ネイチャーの腐敗ぶりを指摘している。ウズベキスタンというたった一国の異常データによって世界のGDPの減少が2割から6割にもなっていたことに、編集部も査読者も誰も声を上げなかった。
気候危機物語に都合の良い“派手な数字”が好まれ、科学としての厳密さよりも政治的なインパクトが優先されてしまったのではないか、という疑念は拭えない。
ネイチャーはようやく撤回に踏み切ったが、NGFSは、当面は「この論文は撤回されました」と但し書きを付けるにとどめ、問題のあるネットゼロ目標は維持しつつ、次回(2026年末公表予定)から手法を見直すとするに過ぎない。
科学の側で誤りが認められても、金融の世界がどこまで軌道を修正するかは依然として不透明である。このような状態では、気候リスク評価や、ネットゼロ目標なるものへの信頼は当然に失墜する。今後のNGFSや各国当局の対応が見ものである。
なお本件は、ウォール・ストリート・ジャーナルを始め、海外では多くのメディアで報道されているが、日本ではほとんど報道されていないようだ。日本のオールドメディアとは一体何なのだろうか。
■
関連記事
-
IEA(国際エネルギー機関)が特別リポート「エネルギーと大気汚染」(Energy and Air Pollution)を6月発表した。その概要を訳出する。 [2016年6月27日] IEAのリポートによれば、エネルギー投
-
途上国からの要求は年間1兆ドル(140兆円!)に跳ね上がった。 全部先進国が撒いた種だ。 ここのところ先進国の代表は何を言ってきたか。以下のバイデン大統領のCOP27でのスピーチが典型的なので紹介しよう: 米国では、西部
-
2024年6月に米国下院司法委員会がGFANZ、NZBAなど金融機関による脱炭素連合を「気候カルテル」「独禁法違反」と指摘して以来、わずか1年でほとんどの組織が瓦解しました。 今年に入って、7月にフロリダ州司法長官がSB
-
未来の電力システムの根幹を担う「スマートメーター」。電力の使用情報を通信によって伝えてスマートグリッド(賢い電力網)を機能させ、需給調整や電力自由化に役立てるなど、さまざまな用途が期待されている。国の意向を受けて東京電力はそれを今年度300万台、今後5年で1700万台も大量発注することを計画している。世界で類例のない規模で、適切に行えれば、日本は世界に先駆けてスマートグリッドを使った電力供給システムを作り出すことができる。(東京電力ホームページ)
-
元ソフトバンク社長室長で元民主党衆議院議員であった嶋聡氏の「孫正義の参謀−ソフトバンク社長室長3000日」を読んだ。書評は普通本をほめるものだが、この読書は「がっかり」するものだった。
-
4月3日は、台風並みの暴風雨が全国的に吹き荒れた。交通機関などの混乱にとどまらず、全国で死者3人、けが人は300人を超える被害を引き起こしている。東京電力のウェブサイトによれば、23時現在、同社サービスエリア内で約2100軒が停電中という。電気が止まってしまったご家庭はさぞ心細い思いをされているだろうと心配しつつ、同時に、嵐の中で必死に復旧作業にあたっているであろう、かつての同僚の顔が目に浮かぶ。私は昨年末まで同社に勤めていた。
-
政府「不測時における食料安全保障に関する検討会」のとりまとめが発表された。 もし食料不足になったら? 対策の報告書まとまる 農水省 その内容は、不測の事態によって食料が不足するときに、政府が食料の配給をしたり、価格を統制
-
提携するIEEIが9月、年末のCOP21を目指して提言書をまとめました。その冒頭部分を紹介します。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間
















