【スマートメーター研究会意見書解説記事】問題だらけの東電スマートメーター発注 — 独占延命を図る「トロイの木馬」??方針転換の意見広がる
![](https://www.gepr.org/ja/images/20120423-05/img/image.jpg)
東京電力の既存電力メーター(Wikipedia より)。
これが1700万台分、スマートメーターに置き換わる。
スマートメーター大量発注で議論噴出
未来の電力システムの根幹を担う「スマートメーター」。電力の使用情報を通信によって伝えてスマートグリッド(賢い電力網)を機能させ、需給調整や電力自由化に役立てるなど、さまざまな用途が期待されている。国の意向を受けて東京電力はそれを今年度300万台、今後5年で1700万台も大量発注することを計画している。世界で類例のない規模で、適切に行えれば、日本は世界に先駆けてスマートグリッドを使った電力供給システムを作り出すことができる。(東京電力ホームページ)
ところが、その仕様を詳細に検討すると、東電の関係会社がメーターを受注しやすい形になっている。さらにその機能も最小限で利用方法が限定的だ。これに対して、関係業界から批判が噴出。民間有識者などがつくるスマートメーター研究会などが批判を行った。(GEPR記事「東京電力発注のスマートメーター通信機能基本仕様に対する意見書」)
東電、スマートグリッド普及を遅らせる意図あり?
スマートメーターとは、電力の検針と使用情報を通信で知らせるメーター。これがスマートグリッド(賢い電力網)とつながれば、エネルギーの可能性が広がる。例えば、電気は貯めることは難しいが情報を使うことで、需要に会わせた発電を行ったり、利用者の使用抑制をうながしたりすることで、需要を抑制したり、電気使用が短時間に集中する「ピーク」をシフトさせることに役立てることができる。原発の停止によって、日本全国で慢性的に電力が不足する中で、これらはとても重要な営みだ。
さらに電気の使用情報を利用すれば、新しいサービスや産業を生み出す可能性がある。電力の自由化のために新規事業者が使ったり、「見守りサービス」や住宅のエネルギー管理などのサービスに使ったりするなどの利用法が期待されている。
国はスマートメーターの普及のために、2011年度第3次補正予算で300億円の予算を計上。それを受けて東京電力は、今回の発注の仕様を3月に公表した。内閣府や経産省は電力の自由化、さらには需要の抑制のために、今後スマートグリッドの普及を加速させる意向だ。
ところがスマートメーター研究会の上記意見書にあるように、東京電力の発注したメーターの仕様には、多くの問題がある。東電は自社回線を使って情報を配信する。またメーターの情報連絡頻度を30分ごとにするなど、機能を限定している。他の電力会社とのスマートメーターの規格統一にも配慮をしていない。さらに安価なインターネットを使った情報の伝達という手段を使わずに、東電は自社の通信網を利用、さらにそれを再整備する意向だ。
そして発注までのスケジュールがタイトだ。この3月に仕様を説明し、10月に納入を開始する意向だ。この入札は、全世界のメーカーに呼びかけるものだが、東電がこれまで発注してきたメーター会社に有利な形になっている。利権を保持しようとする疑いがある。
国民のためになるスマートメーターを
東京電力は現在、福島原発事故の巨額賠償によって、経営の先行きが危ぶまれている。それなのに、自社の地域独占を維持する有利な状況をスマートメーターの発注を機に作り出そうとしているとしか思えない。この発注について、ギリシャ神話にちなみ、独占を維持するという東電の本当の意図を隠した「トロイの木馬」という批判が関係者から噴出している。
現在、東京電力の活動は原子力損害賠償機構、経産省の同意がない限り進められない。通信、電気機器メーカーからの批判を受け、機構と同省は発注方法の見直しを勧める意向と、報道などで伝えられている。
スマートメーターの問題は一般には問題点が知られていないが、決して小さな問題ではない。これはスマートグリッドシステムの形を決め、さらには、今後の電力とエネルギー供給体制と日本の経済、国民生活の未来にも結びつく。
GEPRは、スマートメーター研究会とともに、現在の東京電力のスマートメーターの発注に関して、撤回と抜本的な再検討を求める。そして国民の皆様と一緒になって、スマートグリッドの適切な形を考えていく。
GEPR連絡先 info@gepr.org
GEPRが提供したスマートグリッド関連記事
スマートグリッドが切り開く、新生スマートニッポン(村上憲郎)
一般家庭への拙速なスマートメーター導入への懸念 ― 日本におけるスマートグリッドの現状(新谷隆之)
アゴラ研究所池田信夫所長による論考
スマートメーターは電力自由化を阻む「トロイの木馬」−電力業界は「ガラパゴス」携帯の失敗を繰り返すのか(JBPRESS)
値上げと同時に値下げする電気代に隠された電力会社のトリック(NewsWeek Japan)
![This page as PDF](https://www.gepr.org/wp-content/plugins/wp-mpdf/pdf.png)
関連記事
-
元ソフトバンク社長室長で元民主党衆議院議員であった嶋聡氏の「孫正義の参謀−ソフトバンク社長室長3000日」を読んだ。書評は普通本をほめるものだが、この読書は「がっかり」するものだった。
-
言論アリーナ「地球温暖化を経済的に考える」を公開しました。 ほかの番組はこちらから。 大停電はなぜ起こったのかを分析し、その再発を防ぐにはどうすればいいのかを考えました。 出演 池田信夫(アゴラ研究所所長) 諸葛宗男(ア
-
パリ協定を受けて、炭素税をめぐる議論が活発になってきた。3月に日本政府に招かれたスティグリッツは「消費税より炭素税が望ましい」と提言した。他方、ベイカー元国務長官などの創立した共和党系のシンクタンクも、アメリカ政府が炭素
-
自由化された電力市場では、夏場あるいは冬場の稼働率が高い時にしか利用されない発電設備を建設する投資家はいなくなり、結果老朽化が進み設備が廃棄されるにつれ、やがて設備が不足する事態になる。
-
前回に続いてルパート・ダーウオールらによる国際エネルギー機関(IEA)の脱炭素シナリオ(Net Zero Scenario, NZE)批判の論文からの紹介。 A Critical Assessment of the IE
-
捕鯨やイルカ漁をめぐる騒動が続いている。和歌山県太地町のイルカ漁を批判的に描写した「ザ・コーヴ」(The Cove)が第82回アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を受賞したのは、記憶に新しい。
-
停電の原因になった火災現場と東電の点検(同社ホームページより) ケーブル火災の概要 東京電力の管内で10月12日の午後3時ごろ停電が発生した。東京都の豊島区、練馬区を中心に約58万6000戸が停電。また停電は、中央官庁の
-
英国のグラスゴーで国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が開催されている。 脱炭素、脱石炭といった掛け声が喧しい。 だがじつは、英国ではここのところ風が弱く、風力の発電量が不足。石炭火力だのみで綱渡りの電
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間