年間140兆円の請求書:COP27で開いたパンドラの箱

2022年11月16日 07:00
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キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

fergregory/iStock

途上国からの要求は年間1兆ドル(140兆円!)に跳ね上がった。

全部先進国が撒いた種だ。

ここのところ先進国の代表は何を言ってきたか。以下のバイデン大統領のCOP27でのスピーチが典型的なので紹介しよう:

米国では、西部で歴史的な干ばつと山火事、東部で壊滅的なハリケーンと暴風雨が発生しています。

ここアフリカでは、気候変動に対して最も脆弱とされる多くの国々の本拠地であるアフリカの角では、4年にわたる激しい干ばつにより、食糧不安と飢餓が発生しています。

一方、西アフリカのニジェール川は、より激しい降雨のために増水し、漁業や農業のコミュニティに大打撃を与えています。

ナイジェリアでは最近、洪水で600人が死亡し、130万人以上が避難している。何百年も使われてきた季節的な家畜の移動ルートが変更され、牧畜業者と地元の農業コミュニティとの間の紛争のリスクが高まっている。

気候の危機は、人間の安全保障、経済の安全保障、環境の安全保障、国家の安全保障、そして地球の生命そのものに関わる問題なのです。

世界中の異常気象はすべて人間が引き起こした気候変動のせいだと言わんばかりだ。

もちろん、この認識は大間違いだ。人間のCO2排出と異常気象の因果関係は、全く無いか、全く分かっていないか、あったとしてもごく僅かだ。これについては、このアゴラでも何度も書いてきた。

ところが、バイデン大統領はじめ、先進諸国の代表は、自国の運動家や政治勢力のサポートを得るために、全てが人間のCO2のせいだとしてきた。

そこで先進国は、途上国もCO2をゼロにすべきだとして、化石燃料資源の開発や利用を止めさせて、再生可能エネルギーを押し付けてきた。

これでは途上国はたまらない。そこで彼らのいまの論法は、「地球環境を破壊したのは先進国だ。以下の3項目にわたって責任をとれ」というものだ。

  1. 化石燃料を止め再生可能エネルギーにしろというのであれば、その移行(気候変動交渉用語で「トランジション」と言う)に必要な資金を支払え。
  2. 異常気象を引き起こしているのだから、防災(「適応」という)のための費用を支払え。
  3. 異常気象による損害(「ロス&ダメージ」と呼ぶ)を賠償しろ。

何しろ先進国自身が「いまの異常気象は全て人間のCO2のせいだ」と(嘘だけれど)自白しているのだ。ならば、歴史的に沢山CO2を出してきた先進国が全て金を払えというのは至極当然の理屈になる。

昨年のCOP26は、議長国はイギリスで、中国やインドなど途上国にCO2ゼロを約束させるという圧力をかけていて、先進国が攻勢だった。

だが今年のCOP27は、議長国はエジプトで、途上国が反転攻勢に出た。

昨年までは、トランジションと適応について、先進国は年間1000億ドル支払うと約束していた。ところがこれに加えて、今年は「ロス&ダメージ」が新たに議題に加わった。

これは途上国側は宿願だったが、これまでは先進国は頑として受け付けなかった。ところが、先進国があまりにも気候危機だ、人間のCO2のせいだ、と言い続けたので、この「ロス&ダメージ」を含めて、「先進国が金を支払うべきだ」という意見がずいぶんと説得力を持つようになってしまったのだ。異常気象が起きれば、それは気候変動のせいであり、全て先進国の責任なのだ。

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの報告書「ファイナンス・フォー・クライメート・アクション」(論文紹介記事)は、上記3項目合計で、先進国は年間1兆ドルを支払う必要がある、とした。前述の年間1000億ドルすらじつは未達だったが、この相場が一気に10倍になった訳だ。この報告書の著者の1人は英国のニコラス・スターンであり、COP27で発表され注目を浴びた。

当然、年間1兆ドルなど先進国が飲めるはずはない。この交渉はこれから何年間も行われることになるだろう。

だが「パンドラの箱」は空いてしまった。先進国は自らのCO2ゼロも到底不可能なのに、更に毎年1兆ドルを途上国に支払うなど、出来る筈もない。気候危機だと煽って途上国に圧力をかけてきたことがブーメランになって帰ってきて、活路が無い袋小路に嵌ってしまった。

今年のCOP27では、気候変動枠組条約がいよいよ南北問題の場となった。先進国の代表にとっては甚だ居心地の悪い場所となるので、今後、先進国の関心は下がって行くのではないか。

かつて先進国主導のGATTやWTOに対抗して、途上国主導でUNCTADが貿易に関する南北問題に取り組んだ。だがこれは先進国が乗り気でなく衰退した。

気候変動枠組条約も南北問題の場となると、衰退に向かうのかもしれない。COP27は、「終わりの始まり」なのだろうか。

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