自民党、原子力規制改革案まとまる

(写真・原子力規制委の審議)
143名の自民党の衆参両議院議員でつくる研究会・電力安定供給推進議員連盟(会長細田博之衆議院議員)は7月8日、同党の原子力規制に関するプロジェクトチーム(PT)(委員長・吉野正芳衆議院議員)に、それまでまとめていた「「原子力規制委員会設置法3年以内の見直し」等に関する緊急提言」を提出した。この文章は菅義偉内閣官房長官にも提出された。原子力規制委員会の制度、運用の大幅な見直しを求めるもので、今後PT内、もしくは内閣府で検討が行われ、政策に反映される。
同議連は原子力政策の混乱と、原発の長期停止を憂慮した議員の集まった研究会だ。原子力規制委員会が今秋3年目を迎えて法に記された見直し時期になったことから、今年春先から議員の議論、そして有識者からの意見聴取を行ってきた。議論では、事業者と対立状態にあり、「独善」の批判が根強い原子力規制委、規制庁の活動への疑問が、多くの議員から示された。
GEPR・アゴラでは、その審議の内容を伝えた。「自民党、原子力規制の改革に前向き−実現は不透明」。このほど、議連の最終案を入手したので抜粋を紹介する。自民党はこれを積極的に広報せず、またメディアも取り上げていない。また、この提言がどこまで実現するかは分からない。しかし、この文章が、今後規制改革での議論の基点になるだろう。
1・炉規制法の見直し
提言では、原子力規制委員会設置法だけではなく規制政策の根幹を定める原子炉等規制法について、改正の必要性を指摘した。
これまでの炉規制法では明記されなかったが、規制の目的を「原子力施設の安全な利用」と明記することを求めた。さらに活断層審査で、現時点で混乱が続いていることから、「地震津波安全専門委員会」を設置。また法で明記されているのに、規制委員会が運用していないと批判を集める「原子炉安全専門委員会」の機能を強化。専門家による審議を活性化させることを求めた。
特に、活断層、津波問題で、基準が明確でなく混乱しているために「地震津波安全専門審査会(仮称)」を置くことを求めた。「現在、重要構造物の下に活断層がある」と判定された日本原電敦賀2号機は廃炉の可能性に直面している。この問題を含め、活断層審査について専門審査会での再審査も求めている。
また審査官の裁量が影響する現在の審査を、リスク・確率評価にすることも求め、予見可能性を強めることにした。
また40年運転問題で、審査機関が短いことから廃炉が続くことが懸念されている。この点について、その見直しと、余裕を持った審査を求めた。
2・原子力規制委員会の見直し
規制委員会・規制庁は現在、事業者と対立関係にあることが懸念されている。そのために規制委員を縛る「行動指針」の明確化、所管官庁の環境省から、防災を担当する内閣府への移管を求めた。
さらに独立性は維持しつつも審査活動をチェックするために、「安全諮問委員会(仮称)」を設けて、国際的な基準と照らして監査を行うことを求めた。
さらに法律に基づかない行政指導が続いていることから、規制ルールと通達の文章化を求めた。
さらに規制スタッフが公務員に偏在していることから、専門性を持つスタッフの中途採用、そして規制委員会委員の判断に役立てるための専門スタッフの採用と「規制委員会室」の設置を求めた。
またバックフィットルール(規制の遡及適用)の明確化を求め、審査ガイドをつくることを求めた。
◇ ◇ ◇
以上の議論は、これまでGEPRで有識者が繰り返し指摘してきた原子力規制の諸問題に一定の解決を示すものだ。安倍政権の中では、原子力・エネルギー政策の正常化の優先順位は残念ながら高くないもようだ。しかし、早急な実現を行ってほしい。
原子力は安全性と同時に、その活用も考え、運営しなければならない。現在は安全追求に、規制政策が傾きすぎている。
(2015年7月21日掲載)
関連記事
-
アゴラ研究所のインターネット放送コンテンツ、「言論アリーナ」で2月25日放送された番組「原発は新しい安全基準で安全になるのか」の要旨を紹介する。
-
世界保健機関(WHO)は2月28日、東京電力福島第一原子力発電所事故で放出された放射性物質による健康影響の評価を発表した。そのニュースリリース「Global report on Fukushima nuclear accident details health risks」(福島原発事故の健康リスクの国際報告)を翻訳して紹介する。
-
GEPRフェロー 諸葛宗男 はじめに 原発の安全対策を強化して再稼働に慎重姿勢を見せていた原子力規制委員会が、昨年12月27日、事故炉と同じ沸騰水型原子炉(BWR)の柏崎・刈羽6,7号機に4年以上の審査を経てようやく適合
-
チェルノブイリ事故によって、ソ連政府の決定で、ウクライナでは周辺住民の強制移住が行われた。旧ソ連体制では土地はほぼ国有で、政府の権限は強かった。退去命令は反発があっても、比較的素早く行われた。また原発周囲はもともと広大な空き地で、住民も少なかった。
-
GEPRを運営するアゴラ研究所は「ニコ生アゴラ」という番組をウェブテレビの「ニコニコ生放送」で月に1回提供している。今年1月19日の第1回放送は「放射能はそんなに危険?原発のリスクを考える」。有識者を集めた1時間半の議論の結論は、「福島に健康被害の可能性はない」だった。
-
はじめに アメリカがプルトニウムの削減を求めてきたとの報道があってプルトニウムのことが話題になっている。まず、日本がなぜプルトニウムを生産するのかを説明する。もちろん、高速炉が実用化されたらプルトニウムを沢山使うようにな
-
石炭が重要なエネルギー源として、再び国際的に注目されている。火力発電に使った場合に他のエネルギー源と比べたコストが安いためだ。一方で石炭は、天然ガスなどよりも燃焼時に地球温暖化の一因とされる二酸化炭素(CO2)の発生量が多い。
-
実は、この事前承認条項は、旧日米原子力協定(1988年まで存続)にもあったものだ。そして、この条項のため、36年前の1977年夏、日米では「原子力戦争」と言われるほどの激しい外交交渉が行われたのである。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間















