除染目標、年5mSvに引き上げるべき-福島帰還促進のための提案

2016年05月23日 18:00
アバター画像
高エネルギー加速器研究機構名誉教授

(GEPR編集部より・日本原子力学会シニアネットワークと川合氏が高木毅復興担当大臣に要望書を提出しました。参考になる意見で掲載します。)

東日本大震災から5年余が経過した。その時の東京電力福島第一原子力発電所の事故によって、福島県および周辺都県の環境が汚染された。その後の除染によって福島県の環境放射能はずいぶんと減衰し、福島県の大半の地域で追加被ばく線量が年間1ミリシーベルト(mSv)を下回るようになった。

放射線量が高く、国が直接除染する特別除染区域でもこれまでに避難指示が解除された田村市、川内村、楢葉町では個人線量計による実測値ベースで概ね年間1mSvを下回っている。それにもかかわらず、今年の2月時点の避難者が9万9000人(県内避難5万6000人、県外避難4万3000人)と報告されているように、かつての避難指示区域のみならず福島県全体の避難住民の帰還が円滑に進んでいない。

その原因は、避難指示解除を考慮しうる現実的な目標線量(ICRP勧告で言う参考レベル)が提示されていないことにあると推察する。その問題解決を促進するために、以下の3点を提案したい。

①避難支持加除の条件として「年間5ミリシーベルト」の目標線量の設定を

従来、避難指示の解除は年間20mSvとされていた。このため避難指示解除が出ても住民は疑心暗鬼に囚われた。従って、避難指示解除の条件の目標線量として健康影響上心配する必要がないことが明白な「年間5mSv」を提案する。

年間5mSvは、ヨーロッパ諸国、特に花崗岩土壌が多い北欧や東欧諸国の自然放射線による年間被ばく線量とほぼ同等である。この程度の放射線被ばくによって、健康上の問題を引き起こすことが認められないからである。このことで住民は帰還について真剣に考えられるようになろう。

国連科学委員会のUNSCEAR2000のデータに基いて計算した結果。破線で示した日本平均値2.1 ミリシーベルト/時間は、文献値である。(川合)

②強力な放射線リスクコミュニケーションの実施を

この参考レベルを住民の方々に受け入れて頂いて帰還を促進することと福島県外での風評を無くすため、国は地域住民の方々はもとより、全国民に対しての放射線リスクコミュニケーションを関係省庁と連携して強力に進めるべきである。

(1)この「約5mSv」は十分安全側の目標値であるとの関係住民レベルでの認識の共有化を図るため、
・住民自身の納得感を醸成するための学習の場を積極的かつ戦略的に設ける。
・上述目安値について、全国広報活動を通じ国民レベルでの認識の拡大共有化をはかる。

(2)放射線専門家をまじえて帰還問題を検討する核となる住民グループの形成と、以下に示すように継続的、段階的討議を促す。
・コミュニティ交流員制度との協調(福島県内)
・今後設けられる「生活再建支援拠点」の活用(福島県外)
・住民グループによる自主的な帰還条件模索の指導・支援

③関連要望事項

(1)避難住民の多くは、事故直後の自らの被ばく量が不明なために、それ以上の被ばくを避けたいという気持ちがある。従って、各自が事故直後の被ばく量を把握できるシステムを構築し、住民の便に計る。

(2)青少年が遊び入る居住環境の隣接山野や通学路のホットスポットなどをモニタリングして、結果を地図化して、生活に役立ててもらう。当然、ホットスポット等への対応についての注意書きつける。

(3)0.23mSv/時間(年換算約1mSv)を上回る地域での生活することに不安解消のため、既に多くの市町村で行われているが、希望者には個人被ばく線量計の全員貸し出しを行う。定期的にその結果を集計することで、放射線影響についての研究の基礎データとして活用できる。

(4)除染終了後も通学路や住環境周辺の里山など、住民が随時立ち入る場所への除染の希望がある。その際の除染については、立ち入り時間が短く累積被ばく量の少なさを考慮して空間線量率が毎時1mSvを除染の参考レベルとすることを勧める。これは、追加被ばくとして年間約5mSvとなるレベルである。

(2016年5月23日掲載)

This page as PDF
アバター画像
高エネルギー加速器研究機構名誉教授

関連記事

  • 6月8-9日のG7シャルルボワサミット(カナダ)では米国の保護主義をめぐって米国とそれ以外のG7諸国との見解が大きく対立した。安倍総理の仲介もありようやく首脳声明をまとめたものの、記者会見において米国の保護貿易措置に対す
  • 原子力発電所事故で放出された放射性物質で汚染された食品について不安を感じている方が多いと思います。「発がん物質はどんなにわずかでも許容できない」という主張もあり、子どものためにどこまで注意すればいいのかと途方に暮れているお母さん方も多いことでしょう。特に飲食による「内部被ばく」をことさら強調する主張があるために、飲食と健康リスクについて、このコラムで説明します。
  • 技術革新はアメリカの経済力と発展に欠かせないものである。新しいアイデアと技術発展が本質的に我々の生活の質を決める。これらは、アメリカが世界の指導権を持ち続けること、継続的経済成長、そして新しい産業における雇用創出の促進の鍵である。
  • 産業革命以降の産業・経済の急速な発展とともに、18世紀初めには約6億人だった世界の人口は、現在72億人まで増加している。この間の化石燃料を中心としたエネルギーの大量消費は、人類に生活の利便さ、快適さ、ゆとりをもたらしたが、同時に、大気汚染、温暖化等の地球規模での環境問題を引き起こし、今やまさに全世界で取り組むべき大きな問題となっている。
  • 原子力規制、日本のおかしさ 日本の原子力規制には多くの問題がある。福島原発事故を受けて、原子力の推進と規制を同一省庁で行うべきではないとの従来からの指摘を実現し、公取委と同様な独立性の高い原子力規制委員会を創設した。それに踏み切ったことは、評価すべきである。しかし、原子力規制委員会設置法を成立させた民主党政権は、脱原発の政策を打ち出し、それに沿って、委員の選任、運営の仕組みなど大きな問題を抱えたまま、制度を発足させてしまった。
  • 原子力規制委員会は本年(2016年)1月、国際原子力機関(IAEA)の総合的規制評価サービ ス(IRRS)を受けた。IRRSは各国の規制の質の向上を目指してIAEAがサービスとして実施しているもので、2006年から15年までに延べ70回実施されている。
  • 原子力発電所の安全目標は長年店晒しだった 福一事故の前、2003年に旧原子力安全委員会が安全目標案を示している。この時の安全目標は以下の3項目から構成されている。 ①定性的目標:原子力利用活動に伴って放射線の放射や放射性
  • それから福島県伊達市の「霊山里山がっこう」というところで行われた地域シンポジウムに参加しました。これは、福島県で行われている甲状腺検査について考えるために開催されたものです。福島を訪問した英国人の医師、医学者のジェラルディン・アン・トーマス博士に、福島の問題を寄稿いただきました。福島の問題は、放射能よりも恐怖が健康への脅威になっていること。そして情報流通で科学者の分析が知られず、また行政とのコミュニケーションが適切に行われていないなどの問題があると指摘しています。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑