高速炉開発の意義を原点に戻って考えよう
早野睦彦
(GEPR編集部より)GEPRはさまざまな立場の意見を集めています。もんじゅを肯定的に見る意見ですが、参考として掲載します。
(本文)
もんじゅの存在意義の問いかけ
「政府はもんじゅ廃炉も視野に検討中」「もんじゅを国費で追加負担してまで再稼働する意義があるのか」という意見が各メディアで掲載されています。
報道によれば、もんじゅを再稼働する場合5000億~6000億円の国費の追加負担が必要となる、今まででも1兆円以上の国費が投じられていながらほとんど稼働実績が得られていないため、政府は菅義偉官房長官の下で廃炉することも視野に入れてもんじゅの今後を検討している、と報じています。しかし、一方で廃炉にする場合も30年で約3000億円必要だとの試算があるとも報じています。
そしてこれらを受けて、もんじゅの再稼働の意義はどこにあるのか、プルサーマル(プルトニウムを使った既存の軽水炉での発電)を実施するならもんじゅの必要性は薄くなるのではないか、と問いかけています。
日本の国柄を考えよう
エネルギーは水や食料と並び国の安定と安全、国民生活、経済を支える基盤として、長期持続的な供給は国家の重要課題です。東電福島第一の事故を受けて、エネルギー政策は大きな方向転換を余儀なくされました。技術の至らなさが招いたものだけに、技術立国日本の屋台骨が揺らいだのは事実です。
しかし、このような中にあってもなぜ、もんじゅの再生が必要なのでしょうか。日本のエネルギー自給率は約6%で食料自給率約39%(2013年)よりさらに低く、エネルギー資源である石油や石炭、天然ガスはほとんどを海外からの輸入に頼っています。これはOECD加盟国34カ国の中でもルクセンブルグについで2番目に低い水準です。生き残るために最低限必要なものについて手段を尽くして守ることが安全保障ということで、エネルギー安全保障は国の死活に関わる最重要政策です。
先の大戦はABCD包囲網(アメリカ合衆国(America)、イギリス(Britain)、中華民国(China)、オランダ(Dutch)の貿易封鎖)による日本へのエネルギーの途絶が開戦の原因の一つとなりました。このようにエネルギー争奪が古今の戦争の原因になる例は枚挙に暇がありません。しかし一方で原子力に頼らなくても自然エネルギーがあるではないか、この技術をもっと発展させるべきではないかとの意見があります。
自然エネルギーの効用を認めるのにやぶさかではありません。特に系統電力の届きにくいニッチの分野できめ細かく使用すれば、追随を許さない威力を発揮できるでしょう。しかし自然エネルギーが不安定電源であることから電力供給に占める割合が一定量を超えると、電源安定化に必要なコストがかさみ、環境への負荷も急激に増え始めます。海外では環境主義者の中にも、同じようなこと考えている人が大勢います。ビルゲイツ氏もその一人で新たな原子力技術開発に挑戦しています。原子力を拒否して自然エネルギーのみにするという選択は、現実的でないのです。
核燃料サイクルというエネルギー政策
このようにエネルギー政策は国家100年の計を以てなすべき国家の根幹をなすものであり、近視眼的視点で決める問題ではありません。もっと、長期的視野を持って固い信念のもとで進めるべきことです。核燃料サイクルの時間軸は50 年、100 年と長く、原子力大国である米国、フランス、ロシア、中国では米国を除いてみな高速炉と再処理による核燃料サイクル政策をとっています。
米国はシェールガス特需でお休みしていますが、何時でも戻れる力を備えています。さらに加えてインドは「もんじゅ」と同じ高速原型炉(PFBR)を本年運転開始することになっています。これからインドも核燃料サイクル政策を以て原子力大国に仲間入りすることでしょう。
プルサーマルが高速炉の代替であるかのような記事になっていますが、プルサーマルによるウラン利用効率は高速炉と比べると数10分の1程度であり、核燃料サイクルの目指すべきは高速炉なのです(図参照)。各国ともこの核燃料サイクルによるエネルギー政策について今まで根底で揺らぐことはありません。
(図表)高速増殖炉のウラン利用効率
工学という経験学、国際競争の中で
工学・技術というものは自ら作って動かして初めて身につくものであり、失敗を繰り返しながら進歩する経験学です。失敗を許さない社会には進歩はありません。「もんじゅ」を担う日本原子力研究開発機構に組織運営上の問題があったことは確かでしょう。これを機に運営組織を徹底的に見直すことで「もんじゅ」を運転するにふさわしい組織にすることもできます。
「もんじゅ」は発電することもさることながらナトリウム冷却の研究炉として工学的な問題点を洗い出すことが重要な目的です。軽水炉のように長期にわたって運転するには及びません。軽水炉の安全基準に縛られずもっと合理的な再稼働対策費を考えることです。「もんじゅ」を放棄することは今までの努力を無にしてすべてを失うこととなります。
戦後のGHQによる航空機開発禁止による市場への参入の遅れのように技術植民地として甘んじざるを得ない環境を作ってしまいかねません。資源小国のわが国にとって自前の技術を持つことこそがエネルギー安全保障そのものであると言えます。将来、わが国が後れを取ってエネルギー問題のために中国やロシアに隷属することなど考えたくもありません。
(2016年10月5日掲載)
関連記事
-
(1)より続く。 【コメント1・ウランは充分あるか?・小野章昌氏】 (小野氏記事「ウランは充分あるか?」) 無資源国日本ではエネルギー安全保障上、原子力しかない。莫大な金をかけて石油備蓄しているが、これは1回使ったら終わ
-
福島原発事故後、民間の事故調査委員会(福島原発事故独立検証委員会)の委員長をなさった北澤宏一先生の書かれた著書『日本は再生可能エネルギー大国になりうるか』(ディスカバー・トゥエンティワン)(以下本書と略記、文献1)を手に取って、非常に大きな違和感を持ったのは私だけであろうか?
-
原子力問題は、安倍政権が残した最大の宿題である。きのう(9月8日)のシンポジウムは、この厄介な問題に新政権がどう取り組むかを考える上で、いろいろな材料を提供できたと思う。ただ動画では質疑応答を割愛したので、質疑のポイント
-
前回書いたように、11月25日に、政府は第7次エネルギー基本計画におけるCO2削減目標を2035年に60%減、2040年に73%減、という案を提示した(2013年比)。 この数字は、いずれも、2050年にCO2をゼロにす
-
苦しむドイツ ウクライナ紛争に伴ったロシア制裁と、その報復とみられるロシアによる欧州への天然ガス供給の縮小により、欧州の天然ガス価格は今年に入って高騰を続け、8月半ばには1メガワットあたり250ユーロと、3月の水準から約
-
2015年7月15日放送。出演は村上朋子(日本エネルギー経済研究所研究主幹)、池田信夫(アゴラ研究所所長)、石井孝明(ジャーナリスト)の各氏。福島原発事故後、悲観的な意見一色の日本の原子力産業。しかし世界を見渡せば、途上国を中心に原発の建設が続く。原子力産業の未来を、最新情報と共に考えた。
-
NHKで流れた福島原発事故の映像、ここに使用済核燃料が保管され一時的にその溶融の危険が指摘された。
-
元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 日本では「ノーベル賞」は、格別に尊い存在と見なされている。毎年、ノーベル賞発表時期になるとマスコミは予想段階から大騒ぎで、日本人が受賞ともなると、さらに大変なお祭り騒ぎになる。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間


















