原子炉は核兵器の製造装置である

2017年03月29日 10:00
アバター画像
アゴラ研究所所長

きのうの言論アリーナで、諸葛さんと宇佐美さんが期せずして一致したのは、東芝問題の裏には安全保障の問題があるということだ。中国はウェスティングハウス(WH)のライセンス供与を受けてAP1000を数十基建設する予定だが、これは2009年に東芝の佐々木則夫社長(当時)が中国に売り込んだものらしい。

軽水炉でできるプルトニウムは核兵器の材料だから、核拡散防止条約などで厳格に規制されている。中国に原子炉のライセンスを供与することは、軍事技術を輸出するに等しい。中国の原発をめぐっては各国が競争したが、フランス政府はアレバの中国への技術輸出を(おそらく安全保障上の理由で)禁止した。

それなのにWHが中国にライセンス供与するのは奇妙な話で、諸葛さんも佐々木社長が商談をまとめたときは驚いたという。宇佐美さんによると、これはWHの親会社である東芝の判断で、アメリカ政府は知らなかったようだ。東芝がAP1000の商談を発表してから、アメリカ大使館が経産省の責任者を呼びつけて抗議したという。

ところがAP1000を「中国化」して135万kWにしたCAP1400は大きすぎて建設が難航し、いつまでたっても完成しない。東芝が技術協力しないと、中国の原発計画は頓挫する可能性がある。そこに出てきたのが、今回の事件だった。「粉飾決算」の発火点も、WHの監査法人アーンスト&ヤングだった。

アメリカから見ると、東芝の技術輸出を阻止することは日本への内政干渉になるが、WHを東芝から切り離すことは不可能ではない。今回の「7000億円の損失」の大部分は事後的な規制強化による工事の遅れが原因であり、WHの(したがって東芝の)経営はアメリカ政府がコントロールできるのだ。

ここから先は推測だが、東芝問題の背景には軍事技術の中国への流出をきらうアメリカ政府の意向がはたらいていた可能性がある。来年は日米原子力協定が切れるので、すでに外交ルートでは延長の交渉が始まっているだろう。その抜け穴になっていたライセンス供与について、アメリカが日本政府の厳格な規制を求めるかもしれない。

いうまでもないが原子炉は核兵器の製造装置であり、軍事技術である。日本人は「平和利用」しか知らないので、プルトニウムを核兵器に転用しようとは夢にも思っていないが、アメリカは疑っている。六ヶ所村では、IAEA(国際原子力機関)の査察官が24時間勤務でプルトニウムを監視している。日本がそれを核兵器に転用しないためだ。

だから原子炉技術を中国に輸出する東芝の行動を、アメリカ政府があらゆる手段で阻止しようとしたとしても不思議ではない。中国への技術輸出はWHの経営戦略のコアであり、これがアメリカ政府に禁止されると東芝の経営は成り立たない。日本時間の今夜にも予想されるWHの破産法申請は、エネルギー産業だけでなく日米同盟にも影響を及ぼす可能性がある。

タグ: ,
This page as PDF

関連記事

  • G20では野心的合意に失敗 COP26直前の10月31日に「COP26議長国英国の狙いと見通し」という記事を書いた。 その後、COP26の2週目に参加し、今、日本に戻ってCOP26直前の自分の見通しと現実を比較してみると
  • 福島第1原発のALPS処理水タンク(経済産業省・資源エネルギー庁サイトより:編集部)
    トリチウムを大気や海に放出する場合の安全性については、処理水取り扱いに関する小委員会報告書で、仮にタンクに貯蔵中の全量相当のトリチウムを毎年放出し続けた場合でも、公衆の被ばくは日本人の自然界からの年間被ばくの千分の一以下
  • ロシアの国営原子力会社ロスアトムが6月、トリチウムの自らの分離を、グループ企業が実現したと発表した。東京電力の福島第一原発では、炉の冷却などに使った水が放射性物質に汚染されていた。
  • 欧州委員会は1月1日、持続可能な経済活動を分類する制度である「EUタクソノミー」に合致する企業活動を示す補完的な委任規則について、原子力や天然ガスを含める方向で検討を開始したと発表した。 EUタクソノミーは、EUが掲げる
  • 6月1日、ドイツでは、たったの9ユーロ(1ユーロ130円換算で1200円弱)で、1ヶ月間、全国どこでも鉄道乗り放題という前代未聞のキャンペーンが始まった! 特急や急行以外の鉄道と、バス、市電、何でもOK。キャンペーンの期
  • アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
  • 以前、世界全体で死亡数が劇的に減少した、という話を書いた。今回は、1つ具体的な例を見てみよう。 2022年で世界でよく報道された災害の一つに、バングラデシュでの洪水があった。 Sky Newは「専門家によると、気候変動が
  • 今回は太陽光発電のエネルギー政策における位置付けの現状、今後のあり方について簡単に考えていきたい。まずは前回紹介した経済産業省の太陽光発電に対する規制強化をめぐる動向を総括することから始める。 前回の記事で述べた通り、太

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑