太陽光発電の導入目標水準は引き上げる余地があるのではないか?

2017年12月23日 17:00
アバター画像
エネルギーコンサルタント

12月に入り今年も調達価格算定委員会において来年度以降の固定価格買取制度(FIT)見直しの議論が本格化している。前回紹介したように今年はバイオマス発電に関する制度見直しが大きな課題となっているのだが、現状において国内の再エネ業界の中心は太陽光発電であることは揺るぎなく、やはりもっとも注目されるのは太陽光発電の扱いであろう。

太陽電池モジュールの出荷量から太陽光発電業界の動向を見ると、2014年の9216MWをピークに明らかに縮小傾向にあり、2017年は5000MW程度に収まるものと思われる。この理由としては、①土地の確保の困難性、②系統接続条件の悪化、③買取価格の低下、等により新規案件の組成が難しくなっていることが挙げられる。

筆者としても実務を通して新規案件の組成が難しくなっていることは痛感している。国内で低買取価格でも太陽光発電に適した高採算性が見込める、まとまった面積があり、日照が見込まれ、造成費がかからない土地となるとその大半は耕作放棄地になってしまう。この場合、事業者は系統接続手続と農地転用手続を並行して進めることになるが、これらの手続きは受け手が違い同期しているわけではないので、事業者としては調整が困難でしばしば難しい判断が迫られることになる。例えば、農地転用が不透明な状況で電力会社から系統接続の工事負担金の支払いが求められることや、逆に農地転用の手続きが上手く進んでいても系統接続が困難なことが事後的に判明することがあり、事業者側としてはプロジェクトの組成までにかなりのリスクテイクが求められる状況にある。制度創設当時とは全く環境が変わっており、FITの手続きの厳格化は系統接続枠の空抑えの解消や無計画な土地利用の抑制という意味では機能しているが、逆に新規プロジェクトの組成は非常に厳しくなったと言わざるを得ない。

この状況はおそらくは経済産業省の狙い通りで、太陽光発電は現状でもFIT認定量(8454万kw)がエネルギーミックス水準(6400万kw)を上回っており、経済産業省としても他の再エネ電源の接続枠を確保するために、太陽光発電に関してはこれ以上の積極策を取らず確実な低コスト案件を進めていくように政策を切り替えたということなのであろう。これは現時点においては政治的に合理的な判断ではあるが、他方でこうした政策の前提となっているエネルギーミックス水準に関しては現在エネルギー基本政策分科会で見直しの議論が行われている最中であり「そもそも太陽光発電の『2030年度までに6400万kw』という導入目標は適切なのか」ということを改めて考える必要があるように思う。この点注目されるのはIEAの再生可能エネルギーに関する最新のレポートである。

まずコストの観点だが、国際的に太陽光発電の平均入札価格は2017年段階では9米セント/kwh弱まで下落しており、これが2020年には3米セント/kwhまで下がることが予測されている。これは決して荒唐無稽な予測というわけではなく、メキシコやインドではすでにそれに近い水準の落札案件が出ている。日本はまだメガソーラー開発の歴史が浅く、また地震国で資材コストが嵩むという事情もあり、2017年の太陽光発電プロジェクトの入札最安値は17.2円/kwh(15.3米セント/kwh)弱と国際的にみてかなりの高コスト体質になっている。しかしながら、こうした特殊事情を考慮したとしても、まだまだ太陽光発電の発電コストは下がっていくものと思われ、近い将来原子力発電と同等、またはそれに次ぐ低コスト電源になることが見込まれる。

続いて系統接続枠に関してだが、風力発電と太陽光発電をあわせた「自然変動電源(VRE)」の発電シェアについての国際比較データを見てみると、日本は2022年段階で先進国では最低の水準(9%)にとどまることが予測されている。これはヨーロッパ諸国にとどまらず、中国(11%)やアメリカ(12%)やインド(11%)やブラジル(10%)といった国々にも劣る水準で、国土や送電網の事情が異なることを考慮してもなお再考の余地があるように思える。

国内では太陽光発電業界は「すでにピークアウトした業界」として報道されることも増えてきたが、このように国際的なデータの比較から我が国の太陽光発電業界の現状を見ると、中期的にはまだまだ導入の余地があるように思える。

もちろんバランスのとれた再エネ導入のために、太陽光発電による未稼働案件の系統接続枠の空抑えや無秩序な土地開発などの弊害対策を取ることは非常に重要であるが、現状は引き締め策が強すぎて「角を矯めて牛を殺す」とも言える状況になりつつある。今後エネルギーミックス水準の再検討の議論の中で、近い将来の低コスト化を見込んで太陽光発電を電源としてどう位置付け直し、耕作放棄地の活用も含めどのように追加的開発を進めていくか、改めて見直す議論が活発化することを期待したい。

This page as PDF

関連記事

  • いよいよ、米国でトランプ政権が誕生する。本稿がアップされる頃には、トランプ次期大統領が就任演説を終えているはずだ。オバマケア、貿易、移民、ロシア等、彼に関する記事が出ない日はないほどだ。トランプ大統領の下で大きな変更が予
  • 7月25日付けのGPERに池田信夫所長の「地球温暖化を止めることができるのか」という論考が掲載されたが、筆者も多くの点で同感である。 今年の夏は実に暑い。「この猛暑は地球温暖化が原因だ。温暖化対策は待ったなしだ」という論
  • 「気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか」については分厚い本を通読する人は少ないと思うので、多少ネタバラシの感は拭えないが、敢えて内容紹介と論評を試みたい。1回では紹介しきれないので、複数回にわたることをお許
  • 先日、東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)、エネルギー研究機関ネットワーク(ERIN)、フィリピンエネルギー省共催の東アジアエネルギーフォーラムに参加する機会を得た。近年、欧米のエネルギー関連セミナーでは温暖
  • 「もしトランプが」大統領になったらどうなるか。よく予測不能などと言われるが、ことエネルギー環境政策については、はっきりしている。 トランプ公式ホームページに公約が書いてある。 邦訳すると、以下の通りだ。 ドナルド・J・ト
  • 福島の原発事故から4年半がたちました。帰還困難区域の解除に伴い、多くの住民の方が今、ご自宅に戻るか戻らないか、という決断を迫られています。「本当に戻って大丈夫なのか」「戻ったら何に気を付ければよいのか」という不安の声もよく聞かれます。
  • 前回の投稿ではエネルギー環境政策の観点から「河野政権」の問題点を指摘した。今回は河野太郎氏が自民党総裁にならないとの希望的観測に立って、次期総裁・総理への期待を述べる。 46%目標を必達目標にしない 筆者は2050年カー
  • パリ協定を受けて、炭素税をめぐる議論が活発になってきた。3月に日本政府に招かれたスティグリッツは「消費税より炭素税が望ましい」と提言した。他方、ベイカー元国務長官などの創立した共和党系のシンクタンクも、アメリカ政府が炭素

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑