送電線は8割も余っているのか
朝日新聞に「基幹送電線、利用率2割 大手電力10社の平均」という記事が出ているが、送電線は8割も余っているのだろうか。
ここで安田陽氏(風力発電の専門家)が計算している「利用率」なる数字は「1年間に送電線に流せる電気の最大量に対し、実際に流れた量」だという。それによると東電の利用率は27.0%だから、送電線はガラガラのような印象を受けるが、この計算はおかしい。
まず大事なのは、基幹的な送電線は二重化されているという常識だ。このうち1回線は事故や保守にそなえるバックアップ回線だから、普段は使わない。100万kWの発電所の送電容量は200万kWあるので、24時間フル操業しても、送電線の「利用率」は最大50%なのだ。
すべての送電線が二重化されているわけではないが、「基幹送電線の2割」という数字はバックアップを計算に入れておらず、明らかに誤りだ。安田氏のコラムでは「迂回路」の存在は認識しているようだが、二重化にはふれていない。朝日新聞の石井徹編集委員はまったく理解していない。
次に最大送電量(kW)と比較するのは電力消費量の累計(kWh)ではなく最大消費量(kW)だということだ。東電の発表した電力使用量は、次の図のように1月26日には、最大発電能力5371万kWの95%で、他の電力会社から電力を買ってしのいだ。電力供給はガラガラどころか、綱渡りなのだ。
このように電力消費量のデコボコが大きいことが電力会社の悩みだが、再エネの普及で発電量もデコボコになり、問題はさらに悪化している。これをもっと柔軟に割り当てるのが、宇佐美さんの紹介したコネクト&マネージである。再エネがピーク時だけバックアップ回線を利用するもので、東北電力が導入するらしい。
供給責任を負わないで全体の調整は電力会社まかせの再エネ業者は、巨大なフリーライダーになりつつある。再エネはしょせんピーク電源であり、雨の日や風のない日にも対応する責任は電力会社が負う。だから供給責任のある電力会社に送電インフラを優先的に割り当て、責任のない再エネは緊急時には接続を停止するなど優先順位をつければいい。
その配分にはオークションなどの市場原理が必要だが、毎年2兆円以上のFIT賦課金という過剰なインセンティブで市場が機能しない。太陽光パネルの価格も大幅に下がったので、再エネが健全に発展するためにも火力や原子力との公正な競争が必要だ。市場をゆがめているFITを早急に廃止し、市場原理で送電インフラを配分する必要がある。

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