「トリチウム水」の海洋放出に残された時間は少ない

これは水素の放射性同位体で、ごく微量のベータ線を出すが、人体に害はないので「汚染水」ではない。最近はマスコミも「トリチウム水」と呼ぶようになった。世界ではトリチウムは薄めて流すのが普通で、日本でも他の原発はそうしているが、福島第一だけができない。それは科学的な理由ではなく、地元の同意が得られないからだ。
経産省の「トリチウム水タスクフォース」は、他の方法も検討した上で、2016年4月に「希釈して海洋放出」することがベストだという報告書を出した。しかし経産省には処理方法の決定権がないので、これは単なる意見である。
原子力規制委員会の田中俊一前委員長は昨年、海洋放出の方針を示し、東電の川村会長も7月に「大変助かる。委員長と同じ意見だ」とコメントした。これに福島県漁連が「裏切り行為だ」と反発し、田中氏も「東電は地元と向き合う姿勢がない」と強く批判し、問題は暗礁に乗り上げてしまった。
しかし東電が地元と向き合えば、問題は解決するのだろうか。私が福島第一を見学したとき「薄めて流したらどうですか」と東電の幹部に質問したら、彼は「それは当社からはいえない」という。トリチウム水を流すこと自体は経営判断として可能だが、事実上の「国営企業」になっている東電は、国の方針なしで意思決定はできないのだ。
では誰が決めるのだろうか。田中氏は「原子力規制委員会は規制への適合性をチェックしているだけだ」という。彼の後任の更田委員長も今年1月、地元との話し合いで「意思決定をしなければならない時期に来ている」と述べたが、誰が決定するのかは明言しなかった。
更田氏によると「原発内に貯水できるのはあと2、3年程度で、タンクの手当に2年以上かかる」という。したがって今年中に結論を出さないと、貯水タンクが足りなくなる。今の状態でも地震が来たらタンクが破壊され、大事故が起こるおそれもある。
東電が決められず、規制委員会も決められないとすれば、委員会を統括する内閣が決めるしかないが、吉野復興相は風評被害を理由に放出に反対した。あとは安倍首相の決断しかない。オリンピック誘致のとき彼が約束したように「政府が前面に出て」福島の処理を進めるしかないのだ。残された時間は少ない。
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