地球温暖化を止める確実だが危険な技術

2018年11月24日 21:30
池田 信夫
アゴラ研究所所長

IPCCは10月に出した1.5℃特別報告書で、2030年から2052年までに地球の平均気温は工業化前から1.5℃上がると警告した。これは従来の報告の延長線上だが、「パリ協定でこれを防ぐことはできない」と断定したことが注目される。

温暖化を防ぐ手法として、IPCCは大気の組成を変える「気候工学」の技術をいろいろ検討しているが、その中でもっとも安価で効果的なのはSAI(成層圏エアロゾル注入)である。IPCCも、SAIで確実に1.5℃上昇に抑制できると認めている。

SAIのイメージ(Heinrich-Böll-Stiftungのサイトより)

SAIのイメージ(Heinrich-Böll-Stiftungのサイトより)

SAIは図のように、飛行機などを使って成層圏にエアロゾル(硫酸塩などの粒子)を散布し、雲をつくって太陽光を遮断するものだ。これによって地表の気温が下がる効果は、火山の噴火で実証されている。1991年のピナツボ山の噴火では成層圏エアロゾルが一時的に増え、地球の平均気温が約 0.5℃下がった。

理論的には、SAIで20年以内に工業化以前の水準まで地球の平均気温を下げることができる。これによってできる雲は上空約20kmの成層圏に滞留するので、地上に大気汚染は出ない。気温が下がりすぎるなどの副作用も考えられるが、散布をやめれば気温は元に戻る。

散布する硫酸塩は工場で大量に出る廃棄物なので、SAIで温暖化を止めるコストは安い。Smith-Wagnerの推定によると、最初の15年間は全世界で毎年22.5億ドル以下だという。これは世界のGDPの0.003%程度。毎年1兆ドル以上と推定されているパリ協定のコストよりはるかに安い。

SAIの効果は確実で短期的なので、地球温暖化の緊急対策として検討されている。たとえばグリーンランドの氷山が急速に溶けて海面が上昇し始めたとき、飛行機を飛ばしてエアロゾルを散布するといった方法だ。

しかしIPCCはSAIを参考情報として記載し、その実施を推奨していない。これは技術的に困難だからではなく、むしろあまりにも効果的なために危険なのだ。この実験は地球規模でずっと続けなければならないが、何が起こるかはやってみないとわからない。失敗すると世界中に被害が出るが、散布を止めると気温が急上昇する。

パリ協定には全世界の協力が必要だが、SAIは個人でもできる。たとえばこの技術に興味をもっているビル・ゲイツの資産は900億ドル以上なので、彼がその気になれば実行できる。トランプ大統領は、アメリカがもっとCO2を排出するためにSAIを使うかもしれない。

このようなモラルハザードがSAIの最大の問題なので、やるなら条約を結ぶ必要がある。1.5℃上昇ぐらいならこんな非常手段は必要ないが、将来こういうオプションを真剣に考えるときが来るかもしれない。そのときに備えて、技術的な検討はしておく必要があろう。

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